ネオンの場合

ー!!」

玄関に座り込んで靴を脱いでいたら、背中にどんとぶつかってくる温もり。
なんというか本当に抱き着き癖があるよな、と溜め息を吐いて俺は靴紐をほどき続ける。

「…ネオン、重い」
「おかえり!ねえねえ、お腹空いたー。あ、お風呂はできてるよ?お土産は?お土産!」
「ほら」
「わあい、ありがとう!」

仕事に行く前にネオンからリクエストされたお土産はいくつかあって。
その中でも一番安全なリクエストだったお菓子を提供。…え?他のお土産?
………ネオンの趣味に関するものばっかりだったから思い出したくもありません。
あんなもんを可愛くおねだりしてくる神経がホント普通じゃない。
……俺、なんでこの子と結婚してんだろう。いや、可愛いし良い子なんだけどさ。

………………結婚、って。

まあ、企画の根本を覆すようなことはツッコまないことにして。
靴を脱いだ俺は廊下に上がる。ネオンと結婚していまは二人でマンション暮らしだ。
ノストラードの屋敷で暮らすことになったら俺は緊張で死ねる。無理、無理。
ま、マンションは結局ノストラードファミリーの縁者が住んでたり警備も厳重なんだけど。

「先に飯にするか」
「うん!オムライスが食べたい!」
「オムライス…卵残ってたっけ」

腰に絡みつくネオンさんのおかげで動きづらいです。
ずるずると俺に引きずられるような形になりながらも、ネオンはご機嫌だ。
こうしてると甘えん坊の可愛い女の子なんだけどなー。

「………ネオン」
「ん〜?」
「この…卵の落書きは」
「あ!可愛いでしょ、すっごく上手くできたと思うの」
「………割りにくいだろう」

冷蔵庫をぱかっと開けてみたら、玉子に顔が描かれていて。
なんか見覚えのある顔ばっかりだ。…っていうか上手いな、妙に。
知り合いの顔を割るのはものすごくむごい気がするんだけど。
卵は私がやるよ、とネオンはにこにこ容赦なく割っていく。……うわー、グロイ。

お嬢様なネオンは最初料理がろくにできなくて。
最近では、俺が作る横でちょこちょこ楽しそうに手伝うようになってきた。
お菓子系なんかは子供みたいにはしゃいで作ったりしてる。

、ふわふわのオムライス!」
「…そう上手くいくかわからないぞ」

プレッシャーをかけられながらも、なんとか完成したオムライス。
今度はそこにネオンがケチャップをかけていく。

「見て見てー、目みたいになった」
「………だからどうしてそう食べにくい絵を」

新婚さんなんだからさ、LOVEとか書いてくれてもいいんじゃないの!?
そんなことするヤツいまどきいねえよ、とかツッコむな。
いいじゃないか、新婚生活のあまーい夢見るぐらい!所詮夢だけど…!

可愛いお嫁さんとの新婚生活。
やっぱりちょっと、普通じゃないんだよなぁ。







が作ってくれたオムライスはおいしくて。
食後にいれてくれるお茶も、優しい香りがしてすごく好き。
本当は、が作ってくれるものならなんでも好き。全部、あったかいから。

がお風呂に入ってる間に、あたしは洗い物。最近けっこう上手くなってきたんだよー。
料理は全然だけど、お手伝いはできるようになってきたし。
洗い終わった食器をしまって、まだが出てきてないのを確認。
どーしよっかな、待ってるのも退屈だし。あ、一緒に入っちゃうとか?うん、いいかも!

すぐさまお風呂場に突撃!
そうすると湯船に浸かってたがびっくりした顔で目を見開いた。
あ、いまの顔好き。彼の焦げ茶の瞳がよく見えるから。
この目を独り占めしたくて、ずっと傍に置きたくて。でも、なかなかできなくて。
どうしたらいいのかなぁ、と考えて…いまこうして結婚してる。
誰よりも傍にいられる方法だよね!大好きな目と、優しくてあったかい温もりがここにある。

「こら、入るなら身体洗ってからにしろ」
「ええー。バスの中でシャワー浴びたっていいじゃん」
「…俺にかかるだろう。それに、俺の故郷は入る前に身体を洗うのがマナーだ」
「ぶー。あ、ねえねえ、じゃあ髪洗って!」
「子供か」
「いいでしょいいでしょ」

がこういうとき、拒まないことを知ってる。
やっぱり予想通り溜め息を吐いて、それでも髪を洗ってくれた。
お父さんと同じ、血に染まることもある手だけど、あたしにとっては安心する大きな手。
むしろこの手の方が、とってもとっても綺麗だと思う。
そう思ったら早く一緒に湯船に入りたくて、髪を洗ってもらったらそのままダイブ。

水しぶきが上がって、楽しくなって笑っちゃう。
あたしを受け止めたは呆れた顔。

「お風呂上がったら、髪乾かしてね」
「…あのな、だから自分で」
「それで、の髪はあたしが乾かすから!」
「いや、いい。髪燃やされる」
「そんなことしないよー。のこの黒い髪も、大好きなんだから」

大事に大事に、そっと傍に置いておきたいもの。傷つけることなんて絶対にしない。
そうやって大事にしてるのはあたしの方なのに、すごく大事にされてる。
いつだって守られてきたはずなのに、にそうされるのはなんだか特別な感じ。

このひとがいれば、他のコレクションは我慢してもいいやって。
そう思えるぐらいに。

特別なひと。





ある意味で新婚らしい風景ですが、なんかこう…違うような?

[2012年 6月 9日]