メイサの場合

「メイサ、危ない」
「え!?」

驚くメイサの声がするけど、俺はもうそれどころじゃなくて。
慌てて細い腰を抱き寄せてその場から飛び退る。とほぼ同時に、いた場所が爆発した。
や、やばかった…あのまま立ってたら相当ダメージくったぞ。

「す、すみませんさん」
「俺のことはいいから、集中して。メイサのことは俺が守るから」
「うう、頑張ります」

現在、俺とメイサはとある依頼を遂行しているところ。
すったもんだあって、いまでは俺はメイサの仕事を手伝うのが主になってる。
呪術に関してはまだ勉強途中でわからないことも多いけど。
念を習得してるおかげで、肉体労働や危険を回避することには向いている。
だから術を使うメイサを守る、ってのが俺の仕事みたいなものになっていた。

今回は特に高い集中力が求められるみたいで、メイサの額に汗が滲んでる。
俺にしてやれることは、その集中を乱さないようにしてやることだけ。

って、また足元が不自然に光った!

メイサの身体を抱き上げて飛んだり、もう面倒になって下半身を堅でなく硬で守って凌いだり。
冷や汗をかきながらもなんとか踏ん張って、メイサの術が完成するのを待つ。
そうなったらあとはもう問題なく。いつもの通り、依頼を終えることができた。
かなり大がかりな術だったのか、メイサがその場にへたり込んでしまう。

「大丈夫か?」
「なんとか…。すみませんさん、迷惑かけっぱなしで」
「迷惑だなんて思ってない。メイサに怪我がなければそれでいいんだ」
「…!!」
「怪我、してないよな?」
「だ、だだだだだ大丈夫です!ほら元気元気!」
「立ち上がれないみたいだけど」
「うっ」

実際怪我はないんだろうけど、力を使い切った感じかな?
このままへたり込んでるわけにもいかないし、と俺はメイサを抱き上げた。

「!?」
「依頼成功を報告しないといけないし、このまま行く」
「え、ちょ、待って下さい!私自分で歩けますって!」
「あんまり遅いとよくない。大人しくしてて」

何しろ今回の依頼、古書店の店長の仲介だからなー。
遅くなると色々言われるだろうから、さっさと帰って報告しないと。
まだ何やら抵抗してるメイサは気にしないことにして、俺はそのまま駆け出す。
瞬きを止めながらだから、かなりのスピードになる。

そうやって到着した店では、店長がちょっとだけ目を見開いて迎えてくれた。
すぐに呆れた顔になったけど。

「…ここはイチャつく場所じゃねえ」
「ち、違いますってば!!」
「店長、依頼成功しました」
「そうか。にーちゃんがいりゃ問題ないとは思ったが…おいメイサ」
「………何ですか」
「その情けない恰好はなんだ。旦那に頼りきりで鈍ったんじゃないだろうな」
「いえ店長、俺が勝手にやったことで」
「………顔に似合わず、甘いヤツだな」

溜め息と共に店長が吐いた言葉に、なんでか腕の中のメイサもしみじみ頷く。
え、甘いってなんで。だって心配ならこれぐらいするんじゃ?

「まあいい。報酬は振り込んでおく」
「ありがとうございます」
「バカップルはさっさと帰れ。んで、飯食って寝ろ」
「………あ、そういえば今日の夕飯はメイサが当番だったっけ」
「?そうですね」
「その状態じゃ辛いだろ。俺が作ろうか」
「だ、駄目ですってば!そこまで甘やかさないで下さい!」

えー。仕事で疲れてる女の子に無理させるようなひどい男じゃないよ俺。
わたわたと慌てるメイサは作る気満々みたいで、店長もやらせとけと投げやりだ。

…まあ、やりたいならいいけど。喜んで食べさせてもらうけど。

手伝えるように、傍で待機はさせてもらおう。




依頼をこなしたり、呪い関連の場所を巡ったりと忙しい夫婦に違いない。

[2012年 6月 24日]