友情ともっと違う何かの境目。
[2012年 6月 23日]
「………いや、おかしいだろ」
「?何が」
「この、企画の、コンセプトが。俺もシャルも男だっていうのに」
「が女になればいいんじゃない?」
「無茶言うな」
何を考えてこんなタイトルに。
「新婚生活(?)」っておい。(?)つければいいと思ってるんじゃないだろうな!
「新婚かー。それらしいことしとく?」
「………例えば?」
しかもシャルはなんで抵抗がないんだ。
相変わらずの童顔で首を傾げて、うーんと考え込む。
それからなんでもないことのようにさらりと。
「ご飯にする、お風呂にする、それとも俺?」
「………………。………真顔で、言うのは…やめてくれないか」
「え、笑ってほしいの?」
「そういう問題じゃない」
男に言われても嬉しくないよ!怖いだけだよ!シャルは可愛い系の顔だけど!!
それとも【俺】?って言われるのは…すごく、切ないです。
げっそりと溜め息を吐いて項垂れると、不思議そうな隣のシャル。
なんですか、旅団の方々はこういったノリも平気なんですか。
「じゃあが言ってよ」
「は?」
「ご飯にする?お風呂にする?ってやつ」
「………言ったとして、どうするんだ」
「のご飯なら食べたい」
「それはまあ…構わないけど」
それぐらいなら喜んでやりますけども。
「にする、って言った場合にどうなるかも興味あるけどねー」
「…どうなるって…どうしようも」
「あ、言っておくけど俺は攻めるの基本だから」
「は」
「誰かの下になる気はないから、よろしく」
「………?」
シャルが誰かの下につく、なんてそりゃ想像つかないけど。
クロロは旅団の団長だけど、まとめ役ってだけで仲間という扱いは変わらない。
旅団の団員たちはみんなそれぞれ独自に動いてて、上下関係ではないらしい。
それがらしいな、なんて俺は思うけど。
とりあえず食事、食事。
「シャルも手伝え」
「えー」
「センスがあるんだから、覚えろ。俺より上手くなる」
「俺はの料理が好きなんだけど」
そう言ってもらえるのは嬉しいけどさー。
「…俺だって、シャルの料理も食べたい」
「うわ、そういうこと言う?男相手でもタラシは健在だね」
「…タラシ…?」
「けど、そういうこと他人にほいほい言わない方がいいよ。変な虫引き寄せるから」
腰を上げたシャルは手伝ってくれる気になったらしい。よしよし。
一緒に台所に入りながら、シャルの言葉の意味を考える。
…まあ、あなたの料理が食べたいです、なんてそりゃ他人にそう言えないよな。
失礼というか遠慮がなさすぎる。
「…シャルだから、言っただけ」
「………」
「?」
「それ、わざと?」
「何が」
だってシャル相手ならこうやって我儘言っても怒らないだろ。
一緒に過ごすのが当たり前で、お互いの距離の取り方が自然にわかるぐらいの仲。
あれ食べたい、どこ行きたい、何したい。そんな話題は日常の一部だから。
「はぁー……」
「シャル?」
「ホント、性質悪いよねって」
「…そう?」
「そう。あんまり天然なことしてると、本気で襲うよ」
何で!?
こうやって一緒に過ごす時間が増えて、俺にも欲ってものが出てきた。
もともと盗賊なんだし、欲なんてあるに決まってるんだけどさ。
俺は操作系であるせいか、ひとつのものにすごく執着する癖がある。
この携帯とかもそうだけど、機器類に関してはそういった傾向が強かった。
あとはまあ旅団もね、俺としてはかなり執着してるというか、俺の一部みたいなもん。
そしていつからか、っていう存在にも強く執着するようになってたんだよね。
俺たちと同じ空気を纏っているのに、全然違う考え方をする。
似ていて、似ていない。それが面白くて、全然興味がつきなくて。
珍しい表情を見せてくれたときは、レアなものを見たとすごく嬉しくなって。
「あれ、まだ髪乾かしてないの」
「んー」
俺が風呂から上がると、まだ濡れた髪を放置してソファに座ってる。
いつもはきちんと乾かすのに珍しい、と後ろから彼の手元を覗き込んでみると。
まだ読んでなかった新聞に、うんたら遺跡の発見とかなんとか書いてあった。
あー…こりゃ集中しちゃって動かないパターンだ。
仕方ないな、と溜め息を吐いての肩にかけたままのタオルで髪を拭いてやる。
されるがままのは大きな子供みたいだ。
こうやって俺が背後に立つことも許して、警戒する様子がない。
ちょっと悪戯心が芽生えて、後ろからそのままの首に腕を回してみた。
急所に触れられても、何の反応もない。俺を完全に許してる証拠。
それがくすぐったいような落ち着かないような気分で、の頭に顎をのせる。
じゃれつくな、とばかりにの頭が少しだけ上下したけど、本当にそれだけ。
あれだけ他者に心を開かない男が、こんな風に接近を許してる。
これがどれだけすごいことか、俺はわかってるつもり。そして、すごく優越感を覚える。
だって、他の人間が絶対に入れないようなテリトリーにいられるんだから。
俺だけの特権だよね、とつい笑う。
「…シャル」
「んー?何?」
「今度」
「その遺跡を見たいって言うんでしょ、調べておくよ」
「助かる」
「はいはい。とりあえず、髪乾かしてよ」
「あぁ、うん」
ようやく新聞を離してタオルを握るに息をついて、俺はパソコンを立ち上げる。
無料で情報提供をするあたり、俺は俺で甘くなってる自覚はある。
けど。
のテリトリーに入れるっていう見返りがあるなら。
これぐらいむしろ安いものじゃない?って。
そんな風に、思うんだよね。
友情ともっと違う何かの境目。
[2012年 6月 23日]