シャルナークの場合

「………いや、おかしいだろ」
「?何が」
「この、企画の、コンセプトが。俺もシャルも男だっていうのに」
が女になればいいんじゃない?」
「無茶言うな」

何を考えてこんなタイトルに。
「新婚生活(?)」っておい。(?)つければいいと思ってるんじゃないだろうな!

「新婚かー。それらしいことしとく?」
「………例えば?」

しかもシャルはなんで抵抗がないんだ。
相変わらずの童顔で首を傾げて、うーんと考え込む。
それからなんでもないことのようにさらりと。

「ご飯にする、お風呂にする、それとも俺?」
「………………。………真顔で、言うのは…やめてくれないか」
「え、笑ってほしいの?」
「そういう問題じゃない」

男に言われても嬉しくないよ!怖いだけだよ!シャルは可愛い系の顔だけど!!
それとも【俺】?って言われるのは…すごく、切ないです。
げっそりと溜め息を吐いて項垂れると、不思議そうな隣のシャル。
なんですか、旅団の方々はこういったノリも平気なんですか。

「じゃあが言ってよ」
「は?」
「ご飯にする?お風呂にする?ってやつ」
「………言ったとして、どうするんだ」
のご飯なら食べたい」
「それはまあ…構わないけど」

それぐらいなら喜んでやりますけども。

にする、って言った場合にどうなるかも興味あるけどねー」
「…どうなるって…どうしようも」
「あ、言っておくけど俺は攻めるの基本だから」
「は」
「誰かの下になる気はないから、よろしく」
「………?」

シャルが誰かの下につく、なんてそりゃ想像つかないけど。
クロロは旅団の団長だけど、まとめ役ってだけで仲間という扱いは変わらない。
旅団の団員たちはみんなそれぞれ独自に動いてて、上下関係ではないらしい。
それがらしいな、なんて俺は思うけど。

とりあえず食事、食事。

「シャルも手伝え」
「えー」
「センスがあるんだから、覚えろ。俺より上手くなる」
「俺はの料理が好きなんだけど」

そう言ってもらえるのは嬉しいけどさー。

「…俺だって、シャルの料理も食べたい」
「うわ、そういうこと言う?男相手でもタラシは健在だね」
「…タラシ…?」
「けど、そういうこと他人にほいほい言わない方がいいよ。変な虫引き寄せるから」

腰を上げたシャルは手伝ってくれる気になったらしい。よしよし。
一緒に台所に入りながら、シャルの言葉の意味を考える。
…まあ、あなたの料理が食べたいです、なんてそりゃ他人にそう言えないよな。
失礼というか遠慮がなさすぎる。

「…シャルだから、言っただけ」
「………
「?」
「それ、わざと?」
「何が」

だってシャル相手ならこうやって我儘言っても怒らないだろ。
一緒に過ごすのが当たり前で、お互いの距離の取り方が自然にわかるぐらいの仲。
あれ食べたい、どこ行きたい、何したい。そんな話題は日常の一部だから。

「はぁー……」
「シャル?」
「ホント、性質悪いよねって」
「…そう?」
「そう。あんまり天然なことしてると、本気で襲うよ」

何で!?






こうやって一緒に過ごす時間が増えて、俺にも欲ってものが出てきた。
もともと盗賊なんだし、欲なんてあるに決まってるんだけどさ。

俺は操作系であるせいか、ひとつのものにすごく執着する癖がある。
この携帯とかもそうだけど、機器類に関してはそういった傾向が強かった。
あとはまあ旅団もね、俺としてはかなり執着してるというか、俺の一部みたいなもん。
そしていつからか、っていう存在にも強く執着するようになってたんだよね。

俺たちと同じ空気を纏っているのに、全然違う考え方をする。
似ていて、似ていない。それが面白くて、全然興味がつきなくて。
珍しい表情を見せてくれたときは、レアなものを見たとすごく嬉しくなって。

「あれ、まだ髪乾かしてないの」
「んー」

俺が風呂から上がると、まだ濡れた髪を放置してソファに座ってる
いつもはきちんと乾かすのに珍しい、と後ろから彼の手元を覗き込んでみると。
まだ読んでなかった新聞に、うんたら遺跡の発見とかなんとか書いてあった。
あー…こりゃ集中しちゃって動かないパターンだ。
仕方ないな、と溜め息を吐いての肩にかけたままのタオルで髪を拭いてやる。

されるがままのは大きな子供みたいだ。
こうやって俺が背後に立つことも許して、警戒する様子がない。
ちょっと悪戯心が芽生えて、後ろからそのままの首に腕を回してみた。

急所に触れられても、何の反応もない。俺を完全に許してる証拠。
それがくすぐったいような落ち着かないような気分で、の頭に顎をのせる。
じゃれつくな、とばかりにの頭が少しだけ上下したけど、本当にそれだけ。
あれだけ他者に心を開かない男が、こんな風に接近を許してる。
これがどれだけすごいことか、俺はわかってるつもり。そして、すごく優越感を覚える。

だって、他の人間が絶対に入れないようなテリトリーにいられるんだから。
俺だけの特権だよね、とつい笑う。

「…シャル」
「んー?何?」
「今度」
「その遺跡を見たいって言うんでしょ、調べておくよ」
「助かる」
「はいはい。とりあえず、髪乾かしてよ」
「あぁ、うん」

ようやく新聞を離してタオルを握るに息をついて、俺はパソコンを立ち上げる。
無料で情報提供をするあたり、俺は俺で甘くなってる自覚はある。

けど。

のテリトリーに入れるっていう見返りがあるなら。
これぐらいむしろ安いものじゃない?って。

そんな風に、思うんだよね。





友情ともっと違う何かの境目。

[2012年 6月 23日]