キルアの場合

おかしいだろ!?キルアまだ子供なんですけど!!
れっきとした男っていう問題もあるけど、キルア未成年!KO・DO・MO!!
それで新婚生活ってコンセプトはおかしすぎるだろ、モラル的な意味でも問題だよ!!

………と俺が抗議したところで管理人は流しまくるわけで。
まあ、いいけどさ。俺とキルアが二人暮らし、ってのは天空闘技場でもあったし。
普通に同居と考えればいいんだろ。はあ、妙な企画タイトルにするのやめてくれよなー。
とりあえず、そろそろキルアを起こすか。下手するといつまでも寝るからな。

「キルア、入るぞ」

一応ノックしてみるものの返事はない。
ドアを開けて寝室に入るとキルアの姿が………ない。あれ?
もう起きてるのか?と思ったけど、リビングとかにはいなかったし。トイレでも行ったのかな。
そう考えつつ、隣の俺の寝室を覗いてみる。………と、ベッドにふくらみが。

「………キルア、また侵入したな」

まったく、だいぶ大きくなったってのに俺の寝床に入ってくるの好きだな。
ゾルディック家で溺愛されて育ったせいか、甘えん坊なところは変わらない。
俺が起きたときはいなかったと思うんだけど…寝ぼけてこっちに来たのかな。
それはいいとして、とりあえずキルアを起こさないと。
声をかけてみるけど反応なし。仕方ないからベッドに腰を下ろして揺すってみる。

「んー……」
「そろそろ起きろ、昼になるぞ」

眉間に皺が寄ってキルアが唸った。
こうやって寝てると、初めて会った頃と変わらない可愛い寝顔。
柔らかい銀髪をわしわしと撫でると、気持ちよさそうにすり寄って来た。もうこれ、猫だ。
甘やかしてやりたい気はするんだけど、規則正しい生活は大事。
子供のうちから自堕落な生活を送っちゃいけない、うん。

また布団をかぶりそうなキルアの手をつかんで、どうしたもんかと悩む。
…布団ひっぺがすか?力だけだとキルアの方が強そうだけど、ううーん。
耳元で大きな声出してみるとか。気配に聡いはずなのに、なんで熟睡してんだか。

「キルア、起きろ。キルア」
「………うー、ん…?」
「………………。……………チョコロボくんもう買ってやらないからな」
「それはヤダ!!」

かっと目を見開いたキルアに、俺はもう呆れるしかない。
おいおいキルアくん。ちみはもう自分でチョコロボくんぐらい買えるんじゃないかね?
いつまでも俺にねだるその癖をなんとかしたまえ。子供扱いするな、って拗ねるぐらいなら。

「………?」
「おはよう、ねぼすけ」

耳元から顔を離してキルアを見下ろすと、よくわからんがキルアがいきなり顔を赤くした。
え、風邪?と慌てて俺のおでことキルアのおでこをくっつける。うーん…大丈夫そう、かな。
つかんだままのキルアの手も微妙に熱い気がするけど、子供って眠いときは体温上がるし。
咳とかくしゃみする様子もないから、多分平気なんだろう。よし。

「起きる時間はとっくに過ぎてるぞ」
「わ、悪かったよ」

ばつが悪そうに目を逸らすキルア。うん、まあ反省してるならよしとしようか。
俺はキルアの腕を解放してベッドから腰を上げた。

「食事の準備はできてるから、着替えて来い」
「…へいへーい」

ちゃんとベッドから抜け出すのを確認して、俺は台所に戻る。
スープを温め直しておかないと。






………マジでびびった。
耳元で声がしたかと思えば、目を開けた瞬間に飛び込んできた焦げ茶の瞳。
ものすごく近くにある顔に慌てる。知らないうちに、腕までつかまれてたから余計に。
が本気で俺を抑え込もうとしたら多分勝てない。
実力の差ってのもあるし、俺は俺で本気で抵抗できないから。

心臓がうるさく音を立ててるのがわかって、顔が赤くなる。
それがわかってて、は俺の反応を楽しむみたいにさらに顔を近づけてきた。
けど、ぶつかったのは額と額。緊張よりも安心を与えるそれに、なんかもう。

…結局、こいつの中で俺って子供のままなのかなって複雑になる。

もちろん、一人前として扱ってくれることは増えた。
俺の意思を尊重してくれるし、あまり干渉してくることはない。
だけど、ふとしたときに感じる接し方はまるで。子供をあやすような、感じで。

「ま、俺は俺でそれを武器にしてきたしな…」
「何か言ったか?」
「べーつに。、今日の予定は?」
「ない。買い出しにでも行こうかと思ってたけど」
「買い出しねぇ」
「キルアも予定がないなら来い。また背が伸びたから、新しい服とか靴も揃えよう」

ほら、こういうところがさ。
が俺を子ども扱いして世話を焼くとき、俺だけを見ててくれる。
だから俺はいつも子供の振りで甘えたり拗ねたりしちゃうんだ。複雑だと思ってるのに。
こいつの傍に無条件にいられるなら、それでもいいかと。そんな打算がある。

「………」
「?何だよ」
「…いや」

じーっと俺の方を見てるに首を傾げると、一瞬躊躇って。

「キルアも、そのうち大きくなるんだろうな」
「は?」
「シルバさんは大きいし、イルミも長身だろう。キキョウさんも背は高い方だから」
「あー、まあ」
「俺の身長も、追い抜かされるかもしれないな」

俺がの背よりも高くなる。そんなの、まだ全然想像もつかない。
は身長が高い方ではある。兄貴と並ぶと…まあ兄貴の方がでかいか?って感じ。
でも女装もできるぐらいだから、高すぎるってこともないんだけど。

…そうか、俺が背を追い抜く可能性もあるんだよな。うわ、すげえ楽しみ。
を見下ろすってどんな気分だろ。

「しかもきっと、すごい美形に成長する」
「え」
「イルミは…真顔すぎるが、一応美青年だろ」
「…能面だけどな」
「シルバさんも、すごく男らしくて格好良い」
「まあ、親父は確かに」
「ミルキも痩せてれば美形の部類だと思う」
「ええ!?あのミルキが!?」
「パーツだけだと、イルミやキキョウさんに近いぞ」

想像してみるものの、痩せてるミルキ自体が浮かばない。
ちょっと歩くだけで汗をかくようなヤツの、どこをどう見たら美形になるんだか。
呆れながらジュースに口をつけると、なんかしみじみが俺を眺めて頷いた。

「…キルアは、文句なしの美形になるだろうな」
「ぶっ!!」
「?どうした」
「…げっほ、ごっほ…!い、いきなり何を…言うかと思えば!」
「思ったままを言っただけだ」

しれっと返されるけど、俺はもう動揺して上手く口が回らない。
こいつ、そんな風に俺のことを見たりしてたのか。
絶対に格好良くなるよ、とかすかに笑う瞳に嘘はない。

………もし、いつか。
俺の身長がよりも高くなって、想像した通りに美形ってヤツに成長したら。

そうしたら。

もう、子供扱いはしないでくれるんだろうか。





未来図を思い描いて、主人公はしみじみ羨ましがっているに違いない。

[2012年 6月 24日]