「シャンキー、生きてる?」

院長の私室にひょっこりと顔を出したのはケーキ屋を営むラフィー。
我が物顔でデスクに腰かけていたユリエフが顔を上げ、そこだと指さした。
仮眠用の簡易ベッドにうつ伏せに倒れ伏している物体がそこに。
つい先ほど施術を終え、もろもろの処置やら指示やらも出し終えたところだ。
結んでいた赤い髪がほどかれ散らばっている。また随分と伸びたものだ。

念を使っての手術をした後は、シャンキーはオーラをほぼ使い切る。特に今回は大手術だった。
いつも以上に干物になっている友人に、ラフィーは勝手に隣のワインセラーへと向かう。
特殊な鍵がかかっているそこは、ラフィーやユリエフなどの知人も開けられるようになっている。
適当に一本手にとって部屋に戻り栓を抜くと、ユリエフが手を差し出してきた。

受け取ったそれを、ユリエフはシャンキーの口に突っ込む。

「むぐ!?」
「さっさと飲め」
「………っぷっは!!ちょ、ユリエフくん、気管に入ったらどうすんだ!」
「そのまま死ね」
「ひど!?ラフィーくん、いまのひどくない!?」
「ユっちゃん照れ屋だから」
「照れ屋で殺されたくない、俺」

がっくりと肩を落として、シャンキーは身体をのろのろと起こした。
メガネを外している彼はいまほとんど周りが見えていないだろうが、問題ない。
慣れた部屋の中だし、傍にいるのは昔からよく知る旧友たちなのだ。いざとなれば円も使える。

手術中は目にもオーラをずっと集めた状態にするため、眼球疲労も実はある。
眉間をぎゅーと押さえて唸るシャンキーに、ラフィーが差し入れとゼリーをひとつ。
俺にだけ?と顔を輝かせると、ユっちゃんにはさっきあげたからと返ってきた。
なーんだつまらん、と鼻を鳴らしてそれもひと口。けっこう酒が効いている。

「オーラが尽きた俺を満たすのは酒!」
「アル中か、最低だな」
「医師免許剥奪されないようにね」
「………二人ともひでー……」

スプーンをくわえたまま不満げに睨むシャンキー。
それをじっと見つめるラフィーに、どうしたとユリエフが声をかけた。

「…うん。シャンキーの目って、本当においしそうだよね」
「………食べても実際にはおいしくないと思うよ?」
「むしろこいつの馬鹿が移るからやめておけ」
「うん」
「否定、否定しようラフィーくん、そこは否定しよう」

そう語るシャンキーの瞳は赤い。
といっても緋の眼のような美しい赤ではなく、血が凝り固まったような赤黒い不気味な色だ。

これは生まれつきの色であり、病気というわけでもない。
視力はあまり良くなかったから、問題があるといえばあったのだけれど。
何よりも問題だったのは、この不気味な目のおかげで子供の頃は苦労したということ。
親の持つ色とは違うし、むしろこんな色の眼を持つ人間なんて普通はいない。
だから化け物だとか、呪われてるとか、色々なことを言われてきた。

ビン底メガネをかけるのは、視力矯正もあるがこの色を見せるのを避けるため。
いまはこの目を自分で嫌うことはないが、やはり初対面の人間は普通驚く。
わざわざ驚かせる必要もないだろう、と思うからだ。

「くー……風呂入って寝るかな。あ、色男のお連れさんたちはどうした?」
「いまは全員合流して、病室で付き添ってるみたいだよ」
「メイサたちは女で集まって話してたな」
「いいねいいね、女の子が集まるって目の保養」
「…しかし、女連中の集まる部屋より男連中の集まる病室のが騒々しい」
「個性的だからねえ、色男のお仲間は」

ゴンたちは日が暮れてからこの病院にやって来た。
ちゃんと片付けてきたからね、と清々しいゴンの顔にキルアはそうかと頷いていたが。
いったい何があったのかは追及していない。それはあちらの問題だ。

「ユリエフくんとラフィーくんはどうする?っていうか店は」
「俺の店だ、好きにする。シャンキー、書斎借りるぞ」
「へいへい」
「これだけ人数いるから、食事作るよ。イリカも彼の目が覚めるまでいたいだろうし」
「うんうん、ラフィーくんのご飯食べられるなんて俺幸せ」

シャンキーにはシャンキーの抱えたものがあって。
それはユリエフも、ラフィーだって同じで。

全てを互いに知っているわけではない。
それでも、お互いの存在や言葉に救われ、支えられて。
気が付けば割と長い時間を共に歩いてきた。

こうして不意に集まることもあれば、それぞれが自由に過ごしていることも多い。

久々に三人を繋いでくれた色男に。
感謝すべきか、ちょっとだけ迷った。





シャンキーのビン底メガネの理由。

[2012年 4月 17日]