「えっ?!さん??」
「・・・・ユイ?」

最初からこんな台詞で始まるには、少し時間をさかのぼる必要がある。


私のお店に来る人は、この町の常連さんか、裏繋がりの念能力者。
この頃は裏の方の仕事があんまり来なかったので、
自分が作りたいものを作ったり、
ジンさんに修行という名目のもとかり出され、賊の始末をしたりしていた。
私の店は、都会から少し離れた穏やかな空気が流れる郊外にあって、
ここから次の町へ行くと、ちょっと不思議な古本屋がある。
日本語で書かれている本を探して、歩き回ったときに見つけた。
そこの店主とは本のことで気が合って以来、ちょくちょくお邪魔させて貰ってる。

今日はその古本屋にいつものお礼を兼ねて、自分の作った品物を持って行くつもり。
店長がこの前の雨の時、体調が悪くなって不機嫌になってたみたいだから除湿器を。
ついでにその除湿器、使用者が念を込めると、その念を薄くして、
半径10メートルぐらいまで広げる能力がある。
それによって、念を込めた能力者はその範囲の様子を感じたり、
気温・湿度をコントロールできるという優れものだ。
ただし、能力者の技能も深く関わるので、誰でも使えるわけではない。
店長はその点、問題はないと思うけど...
こんな事を思いながら、今日の朝にお店を発った。


「こんにちわ。ユイです。」
「.....」
「...店長?」

お店に着いて、声を掛けても、
店長の返事がなかったから、中に入ってみると、店長が読書モードになってた。
これは周りの話は聞こえてないなぁ...

「店長!ユイです!」
「あぁ。いらっしゃい。」
「店長、全然気づいてなかったでしょ?まぁいつものことですけど。」
「そう言うな。で、今日は何しに来たんだ?」
「あっ、そうでした。今日は除湿器を持ってきたんです。」
「お前が作ったやつか。」
「はい、今回の自信作ですよ!」

どんな能力なんだ、これ?と聞かれたので、説明をしておいた。
説明し終わったときに、結構反応が良さげだったから、たぶん気に入ってくれたと思う。
サイズは小さいから場所も取らないし、持ち運び簡単!

「本読んで行っていいですか?」
「おう、好きなだけ読んでいけ。」

結局その日は、日が傾くまで本を読んで、
帰ろうかってところで、冒頭の台詞に戻る。

さん?なんで?!)
「なんだ、お前ら知り合いか?」
「えぇ、時々ユイの店に行くんです。」
「なるほどな。こいつの店面白いの多いし、性能もいいしな。」
「店長も行かれるんですね。」
「あぁ、今日はこいつから、日頃のお礼だって除湿器もらったよ。」

びっくりしたぁー。さんに会うとは思ってなかった。
それに、私の知らないうちにどんどん話しが進んでいってるし....
うン?さんはここの常連さんなのかな?店長が仲良さげに話してるし。
しかも店長!恥ずかしいこと言わないでくださいよ!


「そうだ、この間メイサがお前に貰ったオルゴール。あいつ気に入ってたぞ。」
「よかったです。あれユイの店で買ったんですよ。」


なんて、二人が話してるのが、恥ずかしくてこれ以上聞くに堪えなかったから、
私は帰ることにしたんだけど...

「なら、店長、さん。私帰りますね。」
「....待って、送っていくよ。」
「えっ!そんないいですよ。」
「ユイ。兄ちゃんに送ってもらえ。」
「うっ。なら、お願いします。」
「うん。ちょっと待ってて。」

さんと二人だけの帰り道、色んな話をしたけど、
その中でも、私が除念師やってるっていう話では、さんもびっくりしてたみたい。
ちょっと、びっくりした顔してたから。
それ以外は表情が動かないし、退屈してないかって心配だった。
でも、テンポ良く話に相づちを打ってくれたから、私から一方的に話す感じになって。
帰るまでの道のりが、もっともっと続いて欲しいって思ってると、

「姉ちゃん、この間はよくもやってくれたな!」

なんだか、物騒な男達が出てきた。
あぁ、この間の賊か。町の人が困ってたから、
ジンさんと一緒に一回こてんぱんにしたんだった。
それにしてもタイミング悪いなぁ。
折角さんと話して楽しい時間を過ごしてたのに。
でも、さんに迷惑かける訳にもいけないし、結界の中に入っててもらおう。

「ユイ。」
さん、ちょっと片づけてくるのでこの中で待っててくださいね。」
「.....ユイの知り合いか?大丈夫?」
「はい、この間ジンさんと一緒にやっつけた人達です。たぶん大丈夫だと思います。」


その後は、ちゃんとやっつけることができた。
けど、男達を撃退するとき、念能力者がいて、頬を少し切っちゃった。
そして、いつの間にやら、さんは結界の外に出てきて、
男達を軽々とのしてた。
やっぱり強いんだなぁって思っていると、
さんが少し怒ったような顔で近くまでやってきて、

「...ユイ怪我してる。」
「これくらい大丈夫ですよ。すぐ治りますって」
「こっち向いて。」

さんが私の頬に手を当てて、念を込め始めた。
それが終わって、頬を触ってみると、切った所が綺麗さっぱり治ってた。

「えっ?治ってる??あっありがとうございます。」
「....危ない事を一人でやろうとしないで。女の子なんだから。」
「すいません。迷惑をかけてしまって。」
「別に迷惑じゃない。けど、こういう事は避けた方がいい。ジンが元凶だけど。」
「はい。そうですね。」

怪我を治してくれたのは、きっとさんの念なんだろう。
送ってもらってたのに、迷惑かけちゃったなぁ。


「迷惑かけてしまってすいません。送っていただいてありがとうございます。」
「うん...」
「今度またお店にいらして下さい。サービスします!」
「よろしく。それじゃあ。」
「ホント今日はありがとうございました!!」

名残惜しいけど、またお店に来てくれるのを楽しみにしておこう。
颯爽と去っていくさんの背中を見送った。






イノリ様からいただきました、元日本人の雑貨屋さんの女の子!ありがとうございます!
どこでもいつでもフラグを立てておきながら気付かない男め…。

[2014年 5月 17日]