おまけ

イリカと俺は、店によくある店員と常連の関係から始まって。
突飛なハンター世界での俺の憩いの場を与えてくれたのが、彼女とラフィー店長だった。

天空闘技場なんて殺伐としたところで生活してた俺に、穏やかな時間を提供してくれる。
静かにのんびり過ごすのが好きな俺がほっとできる数少ない場所で。
天空闘技場を去った後も、何度も何度も通うようになった店。

まるで魔法のように、おいしくて見てるだけでも楽しませてくれるケーキたち。
イリカが淹れてくれる美味しくて優しい紅茶。
店の中に流れるゆったりした時間と、ふんわり受け止めてくれる空気。
常連になってからは、ケーキがサービスたっぷりの内容になっていたりもして。
そんな心遣いがすごく嬉しかった。

いつも笑顔で迎えてくれるイリカが、様々な事情を抱えてると知ったときは驚いたっけ。
同時に、俺にできることがあるなら何かしたいと思った。
だって、たくさんの笑顔をもらった。俺に優しく温かい時間をくれたひとなんだ。
イリカや店長には笑っていてほしくて、いつでもここに来れば会えると思っていたくて。

ひとよりも細胞分裂が早いというイリカは、怪我をしてもすぐに傷が癒える。
それはすごいことだし、俺自身も彼女の細胞のおかげで一命をとりとめたこともあるけど。
同時にその体質は、イリカの寿命をどんどん削っていくものにもなっていた。
だから俺はどうにかイリカが怪我をしても、細胞が活性化せずに済むようにしたくて。
そんな中見つけたペンダントは、彼女のためにあるようなものだと思ったっけ。

過去の文献で読んだ、念を保存できるという古代のペンダント。
実際に効力のあるものは現存が少ないんだけど、遺跡で見つけることができた。

俺の巻き戻しの念をこめて、イリカに何かあったときには発動するようにして。
どうか彼女を守ってくれますようにと願いをこめてプレゼントしたのは、けっこう前のこと。
女の子にアクセサリーを贈るなんて、ってすごく緊張したっけなぁ。
最初は申し訳なさそうにしてたイリカが、笑って受け取ってくれたのにほっとしたっけ。

相変わらずの巻き込まれっぷりは変わらない俺だから、常にイリカの傍にはいられない。
でも可能な限り顔は出したくて、ラフィー店長もそれを汲み取ってくれてる。
おかげで、閉店後の時間に顔を出しても店内に入れてもらえるようになった。ほんと、感謝だ。

(キルアやゴンを心配する気持ちとはまた、違うんだよなー…)

守りたい、傍で笑顔を見ていたい。
もちろん、キルアたちにだって似たようなことを思うけど。イリカのときはちょっと違う。
その笑顔を守れるのが俺だけだったらいいのに、なんて考えてしまう自分がいる。
随分と我儘じゃね?って自分で思うんだけど。これが素直な気持ち。

どんなに辛い仕事も、長い労働も、イリカが待っていてくれると思うと頑張れる。
疲れた身体を引きずって店に入っても、出る頃には元気を取り戻してるんだ。

「あの、私、頂いた、前に、ペンダントのお礼を・・・・・・!」

しどろもどろに、だけど一生懸命言葉を紡いでくれるイリカ。
彼女が作ってくれたケーキは甘くて、ほんのりと酸味を感じて。
真っ直ぐに向けてもらえる心に、俺は泣きそうだった。

役目を終えて砕けたというペンダント。
俺の代わりにイリカを守ってくれてありがとう。今度は、ちゃんと俺がその役目を果たすよ。

傍にいてほしいと願う俺に、泣きそうな笑顔で頷いてくれた彼女のためにも。

ずっとずっと一緒にいたいと願う、俺自身のためにも。







「お父さんにご挨拶、近いうちに行こうと思う」
「は、はい、よろしくお願いします」
「情けない男と思われないといいな」
「そんな!さんを情けないだなんて」

俺、すっごい情けない自覚あるよ恥ずかしいことに。
店長に後押ししてもらえなかったら、一歩を踏み出せなかったと思う。

それにしても親に挨拶って、何を言えばいいのかなー。
娘さんをください、は定番として…幸せにします!とか?ううーん。
あれ、イリカって一人娘だっけ?なら結婚しちゃったら寂しいんだろうなお父さん。
でも最初はイリカと二人で暮らしたい。同居は…俺がもたない気がする、精神的に。
だけどそうなると、お父さんはいきなり家族が欠けた状態になるわけで…。

さん?」
「イリカは、子供とか欲しいか?」
「え!?」
「最低二人…いれば寂しくないかな。一人っ子より、兄弟いた方が子供にもいいだろうし」
「え、あの、さ」

俺一人っ子だったから、兄弟って憧れるんだよな。
イリカ似の子供とか可愛いだろうなー。俺に似ると可哀想だから勘弁してほしいけど。

手を繋いで、イリカの家へと向かう。

いつかこの繋ぐ手が、増えていったらいいと思う。

家族って、すごく素敵だから。




……子供が生まれるまでに至る過程を考えていないに10ジェニー。

[2012年 10月 26日]