「こんにちは」
「おー、来たか兄ちゃん」

俺がよく足を運ぶ古本屋。
奥まった場所にあるこの店は、すごく品揃えがよくてお気に入りのひとつだ。
俺が呪いや遺跡関連の書籍を探してることも知っていて。
それに関連した本が入るとこうして連絡をくれたりする、ありがたい店である。

「今回入ったのはこれだ。けっこう値も張るけどな」
「それだけ価値のある本なら出しますよ」

もうすでに絶版になっていたりすると、より値段は上がる。
下手な品は紹介してこないと信頼しているから、俺は素直に本を手にとった。
俺が探してた本と、それとは別に関連書籍まで用意されている。
わー、これけっこう貴重な本っぽい。ちらっと中身見ただけでもわかる。
俺がまだ見たことのない資料が載せられてるっぽかった。

「…いただいてきます。いつもの口座から引き落としておいてください」
「値段も聞かねぇたぁ、相変わらず豪胆だな兄ちゃん」
「店長の仕事は信頼してるんで」

何かひとつのことを極めてるひとって、すごいよなー。
持参してた紙袋に本をつめて支払のサインを終える。
さてと、本当ならこのまま店内の本を読んでいきたいところなんだけど…。

「今日はこれで」
「随分急いでんなァ」
「この後も行くところがあって。また来ます」
「おう、いつでも来な」

俺みたいなのにも気さくに接してくれる店長マジ素敵。

とりあえずこの後はケーキ買って、キルアたちのとこに戻らないとな。
いまからいつものケーキ屋に行こうと思うとちょっと急がないと。
少し急いで店を出ようとしたら、入口で誰かとぶつかった。

わわ、危ない!
ぶつかった勢いで吹っ飛びそうな身体に俺は慌てて手を伸ばす。
両手でつかんだ肩は思わぬ細さで、女性らしいとわかった。
ぎゃああ、女の子に勢いよくぶつかるなんてなんてことをー!!

「悪い、怪我ないか」
「…さん?」
「あ、メイサーラ」

びっくりした顔で見上げてくる少女は知り合いだった。
同じくこの店の常連で、呪術師であるというメイサーラ=アルジェ。
ちょっと慌てんぼうだけど、良い子だ。………その、職業怖いけどさ。

「メイサでいいって言ってるじゃないですか」

メイサ、と呼ばれることの方が多いらしくて。
そういえばそうだったな、と俺は小さく頷いた。
それにしても、なんか微妙に顔赤くない?風邪か?
確か仕事がものすごく忙しいらしい。まだ若いのに、長期の仕事も多いとか。
しかも呪術って、体力も気力も使う上にハイリスクらしい。

「え、さん?」
「熱はなさそうだな」
「あの、私元気なので大丈夫です」
「…そうか?痩せたようにも見えるけど」

メイサの顎先をちょっとつまんで、顔を左右に動かす。
うん、頬の肉が落ちてるよ。仕事が終わったとこなのかな。
ちゃんとしっかり食事とれよー……と言おうとしたら、また顔が赤くなってる。
あれ、やっぱり体調悪いんじゃ。

「おーい、店の入り口でイチャつくな。他の客が入って来れないだろうが」
「て、店長!!」
「?」

イチャつくって何の話だ。
店の入り口を塞いでたのは事実だから、俺は素直にメイサから離れて扉の外へ。
ちゃんと挨拶できなくて申し訳ないけど、そろそろ失礼しないと。

「仕事もほどほどに」

ぽん、と最後にメイサの頭を叩いて店を出る。
さんこそ無理しないでくださいね、と明るい声が背中にかけられた。

うーん、やっぱり良い子だよなぁ。

………呪術はホント、怖いんだけど。





メイサちゃんと店長を勝手に拝借。

[2011年 11月 23日]