「すみません、まだ大丈夫ですか」
「おや、くん。いらっしゃい、珍しいねこの時間に」
「もう閉店時間ですよね」

なんとか辿り着いたケーキ屋。
けどもう閉店十分前という時間で申し訳ない。
恐る恐る店内に入ると、ショーケースの前にいた店長が迎えてくれた。
テーブルの上に椅子が上げられていて、閉店作業中らしい。

「気にしないで。イリカも喜ぶだろうし」
「え」
「イリカ、くんが来たよー」

厨房の方へ引っ込んでしまう店長は、わざわざ俺の来店を報せる。
ええっと、いまきっと片付けとかしてるんだろ?邪魔しちゃ悪いんじゃ…。
けどイリカは嫌な顔ひとつ見せず、ひょっこりとモップを手に顔を出してくれた。

さん、いらっしゃいませ」
「うん、こんな時間にごめん。持ち帰りで頼める?」
「はい」
「この時間だから選べるケーキは少ないけどいいかい」
「もちろん。どれもおいしいですから」

この店のケーキは本当においしいから、残ってただけでも運が良い。
下手すると品切れで営業時間が短縮されることもあるぐらいだ。

「じゃあ、残ってるの全部ください」

キルアは大量に食べるし、ゴンたちもいるからあっという間になくなるだろ。
ショーケースに並んでるケーキの数を見て俺は頼んでイリカがお会計してくれる。
店長手ずから箱に詰めてくれてありがたいやら申し訳ないやら。
お釣りを渡してくれたイリカが、もしかしてと口を開いた。

「あの弟さんにですか?」
「弟…?」
「イリカ、あのお客さんは別に実際の家族なわけじゃないよ」
「あ!そうでした。あんまりに仲が良いので、ご兄弟だとばっかり」

もしかしてキルアのことかな?
天空闘技場にいた頃はしょっちゅう二人で顔出してたもんなー。
キルアみたいな弟ならホント欲しいよ、うん。

「うん、持って帰るって約束してるんだ」
「二人ともおいしそうに食べてくれるからね、作り手としては嬉しいよ」
「いえ、こちらこそ」
「今度は皆さんでいらしてください」
「うん、ゆっくり来る。イリカの紅茶も飲みたいし」
「え!」
「それじゃ、こんな時間にすみませんでした」

しっかり手土産もゲット。
いつだってこの店は温かくて、俺の癒しの場所だ。

本当に、また今度。のんびりと来させてもらおう。






遅い!と言いながらも嬉しそうに迎えてくれるキルア。
おかえり!と笑顔を見せてくれるゴン。
食事を一緒にとろうと待ってくれていたらしいレオリオとクラピカ。

皆そろって、行ける日も来るといいなと。
俺も笑ってケーキの入った箱を掲げた。





そしていつものケーキ屋さんも。

[2011年 11月 23日]