ー、ってうわ…何この匂い」

メールで確認したら俺のマンションにいるっていうから、寄ってみたんだけど。
扉を開けるなり流れてきた甘ったるい匂いにちょっと息が詰まる。
甘いものは好きだけど、ここまで充満してるとちょっと胸焼けしそう。何これ。

「あぁ、おかえりシャル」

キッチンから顔を出したはなんでだか前髪をピンでとめてる。
普段は前髪がおりてるから、おでこ全開の姿は珍しい。

「どうしたの髪」
「料理中だから、髪が入ったら困る」
「普段別に気にしないくせに」
「今回はチョコなんだ。自分のための食事なら気にしないけど、ひとにあげるものには異物混入はマズイと思って」
「ふーん?」

なるほど、このやたらと甘い匂いはチョコか。
それにしてもひとにあげるってどういうことだろ?しかもチョコ。
料理は普通にするだけど、菓子類を作るとこなんて初めて見た。
いつもは買ってきちゃうもんなー。いきつけの店がいくつかあるぐらいだ。

キッチンに戻っていくに続いて俺も顔を出す。
鍋にお湯を入れて、その中にさらにボウル。そしてボウルの中にはチョコ。
うわー、どろどろだ。

「誰にあげるの?」
「お世話になってるひと。シャルも欲しいならあげるけど」
「うん、欲しい」
「わかった」

頷いたは溶けたチョコに指を入れて舐めて味を確認してる。
あんな風に溶けたチョコなんて見たことない。
そういえば今度チョコフォンデュやってみよう、って話もあったな。こんな感じになるのか。
ちょっと首を傾げたが何やら味の微調整をしてる。
また確認のためにチョコをすくったの指を好奇心でつかんだ。

「シャル?」
「キッチン提供してるんだし、味見させてくれてもいいだろ?」

溶けてるとどんな感じなのか食べてみたいんだよねー。
ぱくっとの指ごとチョコを味見。うわ、口の中にすごい広がる。
なんかいつも以上に甘い感じがする。へー、これはフォンデュもやってみたいな。

これはこれでおいしい、と素直に感想を言いながらの手を解放すると。
すごく呆れたような顔をされてしまった。

「…自分ですくって味見すればいいだろ」
「火傷したら嫌だし」
「そこまで熱くしてない」
「うん、ちょうどよかった。型は?これ?」
「そう」
「へー、また小さいのがたくさん」
「ひと口サイズの方が相手に気を遣わせなくてすむかと思って」

って淡泊なのに妙なとこ律儀だよねー。

「誰に配るの?」
「旅団のメンバーにはシャルから渡してもらえるとありがたい」
「えー、俺があいつらに配るのは嫌なんだけど」
「せめて男連中に。マチたちには直接お礼言いたいから自分で配るよ」
「あーはいはい、さすが
「?」

本当、ちゃんと付き合いのある女には優しいというかタラシなんだから。
どうでもいい女には俺でも驚くほど冷たいくせにさ。

溶けたチョコを型に流していくのが楽しそうで。
俺もやっていい?と覗き込めば頷いてくれた。
なんかこれ料理っていうより、工作とかやってる気分だよね。

冷えるのを待つ間は、いつも通り二人で過ごす。

完成品を一番最初に食べる特権は、俺に。





だからどうして君たちは。

[2012年 2月 13日]