この世界って、バレンタインの風習はどうなんだろう。
恋人にあげるものなのか、告白に利用されるのか、親愛を示すものなのか。
女の子からあげるのが普通なのか、男からあげるものなのか。

俺の世界でも国によって色々と違いがあったから、ハンター世界でも同じなんだろう。
………元の世界でバレンタインに良い思いでなんてほとんどないけどな。
どれもこれも義理でさ。…いや、もらえるだけでありがたいとは思ってたけど本当。
好きです!みたいな感じで渡されたことなんてないもんなー……あれは漫画の世界だけか?
さっさと俺に押し付けて去っていく女の子が大半だった。
そしてそんな寂しい俺を、友人はいつも呆れた目で見てたっけ。
ふん、どうせ俺は義理しかもらえない男だよ!本命ばっかのお前と違って!

…なーんて懐かしい記憶を思い出したのは。
今年になって、バレンタインという行事に触れる余裕が出てきたせいだ。
前日である昨日、ふらっと寄った先でチョコやらお菓子やらをもらったのもあって。
…俺も何かするべきなんじゃね?と思ったわけだ。

日本だとお世話になってる友達とかにもあげるもんなー。
………女の子の習慣かもしれないけど、まあいい。そこは気にするなってことで。

「クラピカ。悪い、仕事なのに呼び出して」
「…いや、ちょうどお前の顔が見たいと思っていたところだ」

少しだけ疲れた顔で待ち合わせ場所に立ってたクラピカ。
なんかやせたなー、やっぱり仕事忙しいんだろうな。慣れないだろうし。
真面目なクラピカのことだから、根を詰めそうだもんな。
センリツが傍にいてくれるなら相当ヤバイことにはならないと思うけど。

「それで、用件は?お前から連絡が来るなんて珍しいな」
「…いや、それほど重要なものでもない。…ある意味重要なんだけど」
「?」

不思議そうに首を傾げるクラピカに俺は苦笑。
仕事の邪魔してまで渡すのもどうかと思ったんだけど。
クラピカの仕事の都合上、郵送ってのもなしだと思ったんだ。
それに市販のものと違うから、あんまり長持ちしないだろうしこれ。
………といいつつ、レオリオには郵送したけどな!あいつ家で缶詰だろうしいいだろ!

俺は小さな紙袋をクラピカに手渡す。
えっと、包装とかあじけないけど許せ。

「…これは」
「チョコ。普段世話になってる礼と、甘いものは疲れたときにいいかと思って」

本当はセンリツとネオンにも用意するべきかなって思ったんだけど。
ネオンはちょっと後で怖いし、センリツに渡したらなんかクラピカに悪い気もする。
っていうかあれだよな、女の子に渡すのってやっぱ気が引けるんだよな!
べ、別に下心があるわけじゃないんだけどさ、でも変な印象与えたら申し訳ないじゃん?

「………ありがとう。私は、何も用意していないが」
「いや、クラピカの顔が見られただけでよかった」
…」
「あんまり無理するなよ。何かあれば俺か、ゴンたちを頼れ」

俺じゃあんまり頼りにならないかもしれないけど、せめてゴンたちとかさ。
ゴンは仲間としてかなり心強いよなー。色んな状況を打破してく強さがあるから。

愚痴とか聞くぐらいなら、俺でもできるし。

「………も」
「ん?」
「…何かあったときには、私たちを頼ってくれ」
「これ以上は、甘えすぎな気もする」
「そんなことはない。お前はもっと甘えるべきなんだ」

ええええぇぇぇぇ………クラピカに言われるってどうなの俺。
そ、そりゃ、皆と違ってスペックの低い小心者だけどさ!
だからこそ、クラピカたちに頼ってばかりじゃなくて、自力で乗り切らなきゃと思うわけじゃん!

………でも、うん。
その優しさが嬉しくて、俺はなんかもう言葉にならなくて。

ありがとうの意味をこめて、クラピカの頭をぽんと撫でた。




お互いに相手に甘えていると思ってる。

[2012年 2月 14日]