「あ、キルア。帰ってきたみたいだよ」
「おっせーよ。もう寝る時間じゃん」
「………ずっとゲームしてたくせに」
「うるせ」

念を習得してからの気配をより鮮明に感じることができるようになった。
まあ、もともとすげー空気だったんだけどさ。オーラを肌で感じるとまた違う。
纏からして違うんだ、ホント悔しいったらない。くそー、いつか追い越してやるんだからな!

扉が開いて部屋に入ってくるにゴンが「おかえりー」と声をかける。
ちょっとだけ目を瞬いた後で「…ただいま」って言うの顔は複雑なもの。
…なんだろうな、嬉しいのと戸惑うのとくすぐったいのが混ざった感じっていうか。
ゴンだけじゃなくて、クラピカたちに言われるときもあんな顔する。
そう迎えられることを想像もしてなかった、みたいに。

………その気持ちは少しだけわかるんだ。
俺も普通じゃない家で育ったから、ゴンがくれる「普通」の温かさが眩しくて。
どうしていいのかわからなくなるときがある。

けどさ、がそんな風に戸惑う姿を見るのってあんま気持ち良くない。
昔から一緒だったのにさ、俺にまで遠慮するときあんだぜ?
俺がガキだからか、って思ったこともあるけど。多分、違う。
はどこかでひとと距離を置いてて、見えない一線があるんだ。
それを感じるときは本当に腹立つ。

!」
「…ん?」
「おっせーじゃん、どこ行ってたんだよ!」

そのままにタックルしながら抱き着く。
この年になってこういうことすんのハズイけど。いまはこいつの傍にいたい。
は嫌な顔ひとつせず、むしろ当たり前のように俺の頭に手を置いた。

「…色々と挨拶回りをしてた。遅くなって悪い」
「挨拶回り?」
「日頃お世話になってるひとに。………あ、キルア」
「?」
「口、開けろ」
「は?」

なんでいきなり口?と声を漏らすと。
開けた俺の口に何かが放り込まれた。うわ、びっくりした。

………あ、これチョコじゃん。

「ゴンも」
「うん!あーん」

ひと口サイズのチョコ。なんでこんなもんをが?
…この味、市販のものって感じじゃないよな。
じっと見上げると、もうひとついるか?と首を傾げられた。
べ、別に欲しくて見てたわけじゃねえよ!………もらうけどさ。

俺もゴンもの手からチョコを食べさせてもらう。
なんか雛鳥みたいだな、って笑われた。

「けど、なんでチョコ?」
「ゴンは知らないか。バレンタイン」
「ばれんたいん?」
「あー、女が好きな男にチョコ送る行事だろ?って、まさかこれもらったチョコじゃねえだろうな」
「…もらい物をひとにやるような失礼なことはしない。俺の手作りだよ」
「「手作り!?」」

が料理すんのは知ってるけど、お菓子まで作んのかよ!?

「…あまり良い出来にはならなかったけど」
「ううん、すっごく美味しかった!ね、キルア」
「お、おう。…まあ、悪くないんじゃねーの」

知ってたらもっと味わって食ったっつーの。
ああくそ、そういうことは先に言えよな、すっげー損した気分じゃん。

また作れよな、って言えばそんなに気に入ったのか?と驚かれた。

そこで頷くのは恥ずかしかったし悔しかったけど。

その後ですごく嬉しそうにあいつが笑ったから。




もう全部、いいやって思った。





やっぱり最後はちびっ子たちと。

[2012年 2月 14日]