ようやくまともな場所で眠れる、と俺は荷物を投げ出す。
何度目かのハンター試験。今年こそは受かりたいもんだが…どうかな。
油断は禁物、と得物の整備を始める。弓はデリケートだから、調節は念入りに。
矢もこの潮風で傷みやすいだろうから気をつけないと。

かぶったままだった帽子をとると、頭からも潮の香りがする。
海がすぐ傍にあるんだから仕方ないが、肌もべとべとしてるぜ。
一度シャワーを浴びておくべきか。…それにしても、俺はこの部屋にひとりか?

一応ベッドはふたつあるが、夕暮れになっても誰かが来る気配はなく。
この部屋をひとりで使えるならありがたいんだが、と汗を流すためにシャワールームへ。
すっきりしたところでもう一度武器の手入れだ。
そうしてると、部屋をノックする音がして俺は顔を上げる。
開いた扉から顔を出したのは、今回の受験生の中でも際立つ実力者のひとりで。

黒髪に焦げ茶の瞳。
まとう空気がそもそも普通じゃない男は、部屋に入ってくる気配はない。
なんだ、何しに来たんだ。

「…あんた」
「この部屋の予定だったんだが、別のところで寝るから気にしないでくれ」

やっぱり俺ひとり用ってわけじゃなかったらしい。
それにしても別のところで寝るって、そんなことできる場所があっただろうか。
誰かと寝ることを好まない者はいる。特に後ろ暗い仕事をしてるヤツはそうだ。
信頼できる者以外と共にいると、警戒して休めないからってことらしいが。
こいつもそうなんだろうか、と思ったんだけど。

「別の部屋?」
「あぁ。お誘いがあった」
「………あんたな」

別の部屋で寝るよう誘いがあったって、つまり…そういうことだろ?
この男個人に興味はないが、どうやら女性関係では色々問題ありらしい。
そういえば昼間も、女を抱えて部屋に引っ込んでたっけ。誘いってもしかして。

「昼間運んでた女か?」
「女?………あぁ、ポンズか?彼女は違う」
「なんだ違うのか」

ということは他の女か。本当に節操がない。
それじゃ、と淡々と出ていこうとする男に「ほどほどにしとけよ」と声をかける。
別に俺とは関係ないんだから、そうする必要なんてないんだが。
わざわざ報告に来てくれたんだ、妙なとこ律儀というかマメというか。
そういうのは嫌いじゃない。だから試験に差し障らないようにと意味を込めたんだが。

わずかに首を傾げたのみで、男は扉の向こうに消えてしまった。
………ほどほどにするつもりはないってことか。それぐらいじゃ影響出ないって?

ったく、今年は化け物みたいな受験生が多すぎだ。
44番はもちろん、他にも異様な受験生はいるし、ルーキーも粒ぞろい。
だからといって負けるつもりはない、と俺は矢を入念にチェック。

「絶対に、合格してやる」

そのために、来たんだから。





ポックル好きです。…好きです。

[2012年 3月 31日]