「ほら、イルミ」
「ん」

が差し出してきたナイフ。そこに乗った貝の刺身をつまんで口に放る。
これにつけても美味しいぞ、と出されたのは茶色い液体。ショウユ、だっけ?
試しにもう一個つけて食べてみると、確かにアクセントがきいてる。

「新鮮だから、別にそのままでも美味いけどな」
「ねぇ、これもう食べていいのかい?」
「…あぁ、もういいけど。ちょっと待て」

厨房から持ってきたらしいバターを開いた貝の中に落とす。
…あ、すごく良い匂い。いきなり火鉢持ってきたときは何かと思ったけど。

「火鉢じゃなくて七輪な」
「…細かい」
「火鉢は暖をとるためのもの、七輪は調理器具。使用される目的が違う」
「あぁ、そういえばは遺跡発掘が趣味だっけ。クロロから聞いたよ」

バターで味つけされた貝をおいしそうに食べながら、ヒソカが目を細める。
もともと細い目だけど、さらに細くなると本当にピエロそっくり。
ヒソカってピエロのイメージでこんな恰好してるのかな。
俺もひとのこと言えないけど、ヒソカの恰好もだいぶあれだよね。

ヒソカに声をかけられても視線を向けないまま。
は自分用の貝にバターとさらにショウユを落としてる。でも一応口は開いた。

「…まぁな。発掘というか、色々と調べるのが好きなだけだ」
「ハンターにある意味ふさわしい趣味だよねぇ。そういえば今回の受験理由は?」
「仕事」
「俺も。ヒソカと違って働きものだからね、俺たち」
「ボクだって働くときは働くさ。趣味と実益を兼ねるケド」

ま、ヒソカもそれなりに金持ちっぽい。腕が良いのは確かだろうし。
ハンター試験って興味もなかったけど、ヒソカやが参加してるときに来れたのはよかった。
退屈しないで済むし、ヒソカはこれから色々と良い仕事をできそう。
俺ひとりでキルアのことを見るのは不安だなーと思ってたから、の登場も嬉しい誤算。

最初はのとこに家出したのかと思ってたけど、違ったらしい。
もしキルアが行ったら、のことだから連絡しただろうけど。

「ねぇ、。その刺身、ボクにもくれよ」
「………」
「できれば、アーンで」
「………………。………ほら、食え」

アーンってさ、ナイフに乗せたまんまでやるもんだっけ。
俺が本とかテレビで見たのとはちょっと違う気がする。スプーンとかフォークじゃなかった?
ナイフに貝の刺身を乗せて差し出すの目は据わってる。
オーラも凄い勢いでぶわりと噴き出して、どうやら怒ったらしい。
でもそんな威嚇すら、ヒソカは楽しそう。

「ヒソカって、マゾ?」
「ん?状況によりけり」
「俺、サドなんだ」
「知ってる」
は?」
「痛めつける方が好きそうだよねぇ。そんなタイプを跪かせるのが楽しいんだよ」
「………お前らの基準にひとを当て嵌めようとするな」

それこそ呆れた顔で。
こうやって俺たちと普通に過ごせてるヤツが、言う台詞かなぁ。

常識家ぶろうとするところが、面白いんだけど。

うん、これ美味しい。




普通じゃない、全然普通じゃない。心の中は悲鳴の嵐に違いない。

[2012年 5月 2日]