「………綺麗だよな」
「それはどういう意味だ」

がぽつりと呟いた言葉に、私は憮然とした声を漏らす。
今日も彼との稽古を終え、宿をとった私たちは小さな傷の手当てをしていた。
上半身裸になった私を見てしみじみと呟かれた言葉に、つい過剰に反応してしまう。
綺麗?綺麗とはどういうことだ、そういう言葉は男に向けるものではないだろう。

眉間に皺を寄せて睨む私に、は消毒液を染みこませた布を手に苦笑する。
別に何か意味があったわけじゃないんだ、と。

「俺とは違うなと、そう思っただけ」
「………もどちらかというと悪くないと思うが」
「お世辞でも嬉しいよ」

世辞ではないのだが。
どうやら彼は自分のことに無頓着なようで、私は溜め息を吐いて腕を差し出す。
消毒液が沁みるが、稽古の後でこのぐらいの怪我ですんだのならマシな方だろう。
は加減が上手く私の力量に合わせて戦ってくれている。
いつか本気の彼と手合わせできるようになりたい、と思ってはいるがまだ先のことだろう。

「よし、終わり」
「ありがとう。は」
「いや、俺は大した傷じゃ」
「化膿する危険があることを指摘したのはそちらだっただろう。手当てさせろ」
「………はい」

渋々差し出された腕は、私のものよりも太く筋肉に覆われている。
かといって太すぎるということもない。むしろ戦う者としては細い部類に入るだろう。
いったいどこにその強さを隠しているというのか、不思議で仕方がない。

治療を終えると、ありがとうと律儀に挨拶しては携帯を確認する。
着信かメールがあったのか、わずかに目を瞠って操作しはじめた。
どうやら電話をかけるつもりらしい。あまりプライベートに突っ込むべきではないだろう。
私は早々にベッドに潜り込み、眠る態勢に入った。
するとこちらに気を遣ったのか、彼が声をひそめる。
それでも同じ部屋だ、どうしたって聴こえてきてしまう。

「あぁ、悪かったよ出れなくて。……ん?うん、あと少し時間かかるかな」

電話の相手は、先日話していた大切なひとだろうか。
とても柔らかな笑顔を浮かべて可愛いと言った
普段ほとんど表情の変わらない彼に、あんな笑顔を浮かべさせる存在。
それはいったい、どんなひとなのだろう。

「うん、俺だって寂しいよ。…嘘じゃない本当だって。わかった、埋め合わせはする」

優しい声を向けられる電話の相手が、少しうらやましくて。
ひとりでいることを好みそうな彼に、恋人がいることが驚きで。

どうにも、眠る気分にはなれなかった。



大いなる誤解のクラピカさん。

[2011年 4月 1日]