「こんなとこで何してんだよ」
「キルア。お前も食べておけ」
「むぐ」

ようやく飛行船に戻った俺はを探してラウンジまで来てた。
何してんのかと思って声かけたら、ハムを口の中に突っ込まれる。
それを食べてから、なんでいまメシ?と尋ねれば。食べられるときに食べるようにと。
そう言われて、俺は久々にの作ったもんが食べたくなった。

二次試験でおにぎり、軍艦島で焼き魚食べたけどさー。
どうせならちゃんとしたもん食いたいよな。
そうリクエストすると、試験が終わったらなと焦げ茶の瞳が笑った。

「あ、そうだ!試験終わったらん家行っていい?」
「…俺の家?」
「行ったことねーんだもん」
「……まあ、誰も呼んだことないしな」

だろうな。ってガード固いし。
自分の家ってのは簡単に知られていいものじゃないんだろうから。
天空闘技場にいたときは、あそこで過ごす部屋が俺との家みたいなもんだった。
でもそこを出てからは、完全に違う生活になって。
いま俺は、こいつがどこに住んでるかすら知らないんだ。

そう思ったら悔しくて、身を乗り出してた。

「合格祝いに、ん家に遊びに行きたい」
「………すぐには無理かもしれないけど、わかった」
「えー、なんで駄目なんだよ」
「…やっぱり許可取らないとだろう」
「は?許可?」
「俺だけの家じゃないんだ。もうひとつはちょっと、言えない場所にあるし」

は?何それ。

「…同棲してるってこと?」
「いや、ちょっと違う。むこうは気が向けば寄るぐらいだ」
「……ふーん」

つまり、気が向いたら家に泊まり込むような存在がいるってことかよ、へー。
…こいつモテるもんな。そんでもって節操ないし。
俺とか認めてるヤツには優しいのに、それ以外にはすげえ冷たい。
冷たいのに、女の影が絶えないってのはどういうことだよ。
つい眉間に皺を寄せると、が宥めるような声を響かせた。

「もともと俺が根なし草の生活だったからな。ちゃんとした俺だけの家を買ったら、キルアを招待するよ。もちろん、食事つきで」
「約束だからな」
「あぁ、約束だ」

そう語る瞳は、どこか遠くて。
…そうだよな、定住する場所がなかったってことか。故郷もなくしてんだもんな。

だけの家。そこに招待される日が、早く来るといい。
そんでの作った料理を食べて、昔みたいにごろごろ過ごして。
ゴンも一緒だともっと楽しそうだ。

さっさと面倒な試験なんて終わらせて、ハンターになりたい。
最初は気まぐれで受けた試験だったけど。

ゴンっていう友達になれそうなヤツができて。

との約束もかわした。




なんかもうそれだけで。ここへ来た意味はあるように思えた。







すぐには無理でも、いつか約束を果たしてもらいたい。

[2012年 5月 29日]