「まあ、座りなされ」

今年は有望なルーキーが多くて楽しいことじゃのう。
最終試験の参考のため、受験生ひとりひとりの面接をしてみたのだが。
ふむ、これまで見事に偏った結果になっておって面白い。

部屋に入ってきた受験生は350番。
今年の受験生の中で念能力をすでに習得している者のひとり。

彼は畳を前にして目を細めると、当然のように靴を脱いで上がってきおった。
そしてそのまま正座する姿が流れるように自然。
ほう、この文化に馴染みのある者なのか。ハンゾーと同郷、というわけでもあるまいに。

「まず、なぜハンターになりたいと思ったのかな」
「…仕事で必要になったから。あと、身分証明書が欲しかったから丁度いいと思って」

淡々と語る350番の声に熱はない。
言葉の通り、ただ単に必要だから。それ以外に意味はないらしい。

「ほう。つまりお前さんは身分証明ができんということか」
「まあ」

つまりは流星街出身、ということかのう。
まあ他にも様々な理由で身分証明のできない者など沢山おるわけじゃが。
ハンターは試験に合格さえすれば名乗ることができる。
犯罪者と変わらん者も多くいる。そのあたりは特に問題ではない。
ほい、次の質問。

「この中で一番注目しているのは?」
「……注目。99番と405番、かな」

並べられた写真の中から彼が選んだのは子供二人。
44番のヒソカでもなく、301番のギタラクルでもないところが面白い目のつけどころじゃ。
恐らくは伸びシロを考えてのことか。ヒソカもギタラクルも、ある程度は形になっている。
しかしキルアとゴンは成長過程どころか原石のようなもの。
これからどう磨き上げられていくのか楽しみということかもしれん。

本当に、あの二人は化け物のような素養があるからのう。
わしが言うなと周りの者には言われてしまうじゃろうが。

「では一番戦いたくない相手は?」
「…誰とも」

確かに、44番と違ってこの者は戦意を表に出すことはほとんどない。
向けられる敵意に関しては、凄まじい反応を見せるというのにのう。

「ふむ、その理由は?」
「自分の身を守る以外での戦いは嫌いです。そもそも、勝負にならない」

念を習得していればそうじゃろう。
それがなくても、相当な手練れであることが試験の中でわかっている。
念をとっても熟練度はかなりのもの。いまも纏は力強く静かだ。
うむうむ、良い能力者じゃ。

「どうしても戦わねばならん場合、それでも避けたいのは?」
「…44番と301番。性質が悪い」

念を体得しているからこそ、よりそう感じるのだろう。
あの二人は異質。まあ、目の前の男も十分その部類に入ると思うがの。
ぶわりと一瞬オーラが強まったが、やはり総量はかなりのもののようじゃ。

もういいですか、と丁寧に確認する350番に頷く。
ようやく終わったとばかりに溜め息を吐いた彼は、靴を履いて退出していった。

「ふーむ」

なんともアンバランスな受験生よの。
44番や301番のように裏の世界で生きる匂いを漂わせている気もするのに。
面と向かって話してみると、ごくごく普通の若者とそう変わらん。
実力はある。しかし、それは当人の望んだものとはかけ離れたものなのかもしれん。

色々と、厄介なものを背負っていそうな男じゃ。




だいたい合ってる。

[2012年 7月 16日]