「仕事の依頼か?」

面接を終えて船内を歩いていると。
ラウンジで食事をとるを見つけた。携帯を開いて何やら確認している。
向かいの席に腰を下ろすと、嫌がるでもなく見ていた内容を教えてくれた。

「いや、個人的に集めてる情報が寄せられたから」
「…情報?」
「俺の故郷の手がかり。遺跡を回ってるのは、それが理由のひとつだったりする」
「………も故郷には戻れないのだったな」
「まあな。クラピカと事情はだいぶ違うけど」

キルアから聞いた話では、彼も故郷はないのだという。家族もすでにいない。
私と事情が違うというのは、どういうことなのだろう。
虐殺されたわけではないということなのか、他に何かあるのか。

どちらにせよ、もう家族や仲間に会えないことは同じで。

「…辛くなったりはしないのか?」
「それはむしろお前だろ。俺は親の顔もまともに覚えてないから、そういうことはあんまり」

故郷がない、というのはそういう意味なのかもしれない。
親の顔を知らず、家族や仲間というものをほとんど知らずに育った。
しかし、それでも確かに温かいものに包まれてはいたのだろう。
そうれなければの優しさは生まれない。

「…日常って、毎日続くもんだと勝手に思い込んでるものなんだよな」
「………そうだな。それが突然崩れることがあるとは、そのときになってみなければ気づかない」
「心配してくれてありがとう、クラピカ。俺は大丈夫だよ」
「…別にそういうわけでは」
「俺も諦めたわけじゃないんだ」
「え?」
「クラピカがハンターを目指してるように、俺も手がかりを探し続けてる。多分、これからもずっと」

彼の言葉は力強かった。
失われた故郷を探しているのか、温かい何かを奪ったものを探しているのか。
それはわからないけれど。にはの目的があって、ここにいる。

「ハンターになれば、立ち入れる場所が増えるしな」
「確かにそうだな」
「まずは、試験に合格すること優先だけど」
「呑気に携帯をいじっておきながら何を言う」

この試験中ずっと、彼は余裕の表情で過ごしていた。
いまだって最終試験前の緊張感などほとんどない。

「そういえばクラピカ」
「?」
「戦いたくない相手、誰にした?」
「…理由がないのなら、誰とも戦いたくはない」

無益な戦いはしたくない。他人を傷つけることは嫌いだ。
しかし、私の目的を阻むものや危害を加えるものに屈するつもりはない。
そっとの顔を確認する。
いつも通り静かな表情は、穏やかにも見えるし冷たくも見える。
彼の感情は、いつだって読み取ることが難しい。だから、言葉をぶつけて確認するしかない。

は」
「……ん?」
「何と、答えたんだ?」
「クラピカと同じだよ」

驚いた。

彼は戦いと隣り合わせの世界に生きていると知っていたから。
それなのに、理由がないのなら誰とも戦いたくないと感じていることが。

やはり、優しいのだ。
私と出会ったときも当たり前のように手を差し伸べてくれた。
危険な世界で生きる者にとって、それは危険で命取りな行動であるはずなのに。
その手を、温かいと思い。愛しいと思う。

「安心した」
「?何が」
「出来ることなら、には誰とも戦ってほしくない。そう思う」
「クラピカ…」

の焦げ茶の瞳が、かすかに揺れる。
私はそっと背中を押すように、笑みを深めた。





望んで戦いと隣り合わせに生きているわけでは。

[2012年 7月 16日]