救われたクラピカだから思うこと。
[2012年 8月 1日]
最終試験が終わり、私たちはなんともいえない思いで会場を出た。
ボドロを殺し不合格になったキルアは、血に染めた手でどこへ行ったのだろう。
キルアを追い詰めたギタラクル、イルミは涼しげな顔で。
さっさと先を歩いてそれにヒソカとが続く。
あの三人は最終試験において、取り乱すこともなかった。
戦うことに対して認識の甘かった私たちと、そもそも立つ場所が違うというように。
キルアがあれほど追い詰められていたとき、は何も言わなかった。
そのことをレオリオは憤っているらしいが、彼の判断は正しかったともわかっている。
しかし私の中でも言葉にできないもやもやとした気持ちが残っているのは事実。
は優しい。それに、キルアのことをとても大事にしているようだった。なのに。
「本当に殺そうとするのかと思って焦ったよ」
「うん、ヒソカのオーラすごい痛かった」
「だってせっかく見つけた青い果実なのに。ねえ?」
「………俺に振るのはやめてくれないか」
「何?も怒ってる?」
先を行く三人が、世間話でもするように声を響かせる。
淡々とした言葉のやり取りの中、がいつもよりやや低い声を発した。
「………………ゾルディックの問題に関わるつもりはない」
「ウ〜ン、そう言う割にすごく良いオーラを出してるよ」
「変態は黙ってろ」
「はどうしたかったの?キルに合格してほしかった?」
「…別に。ただ、お前の過保護すぎるところが問題だと思ってるだけだ」
「だってキルは特別なんだ。何かあってからじゃ遅い」
「……その愛情は、全く通じてないぞ」
はあ、と溜め息を吐いては足を止め、それにヒソカとイルミが倣う。
「けど、イルミ」
「何」
「本気でキルアがお前とぶつかったときには。…俺は多分、キルアを応援するよ」
静かで、けれど確固として響く言葉にレオリオが隣で息を呑む。
私も思わず目を瞠った。の想いを、ようやく聞くことができたから。
「へえ」
「今回はキルアが本心からそれを望めてなかった。だから手出ししなかった。…それだけだ」
ああ、やはり彼は優しいのだと安心する。
私たちとは違う視点で物事を見ているから、やり方が違って見えるときもある。
キルア達と同じ、暗い暗い世界で生きてきたから、簡単に手を差し伸べはしない。
自身の力で這い上がれないのなら意味はない、という実力社会に生きている者の考え。
でも、キルアを切り捨てているわけじゃない。
「…こそ、キルに甘いよね」
「お前とは違う意味でな」
「二人も、青い果実が大好きってことだね」
「「一緒にしてほしくない」」
「こういうときばっかりハモるんだもんねぇ」
そしてまた歩き出すヒソカとイルミを見送り、は息をつく。
動こうとしないのは、近づいてくる私たちを待っているからなのだろうか。
彼との距離を縮めて声をかけると、ゆっくりと焦げ茶の瞳が振り返った。
「、いまのは」
「…いまの?」
「キルアを応援する、という言葉は本当か」
改めて彼の本心を聞きたいと思って尋ねると。少し迷うように視線が逸らされた。
裏社会の人間としての本能と、キルアを想う心とで揺れているのかもしれない。
「キルアを救うのは自分じゃない、とか言ってたなお前」
「……あぁ。俺にその力はない」
「何を言っている。ほどキルアが頼りにしている者はいないだろう」
あのキルアの態度を見れば、誰もがそう思うはずだ。
実力もあるキルアはひとに頼ることはなく、自信に満ちていて。
生意気とさえいえる態度のときもあるが、にだけは素直に甘えていた。
特別なのだと、全身で訴えていたのに。
「…いや。キルアを本当の意味で救うのはきっと、ゴンだ」
「………ゴン」
「俺じゃ足りない。もっと、強く引っ張り上げてくれる存在でないと」
闇から救えるのは光だけ。
自分はその光にはなれない。なぜなら自分も、闇をまとう者だから。
そう告げるに、いよいよレオリオが頭をかきむしった。
「あーくそー!!」
「?」
「…っ…うるさいぞレオリオ!いったい何だ」
「ったく面倒臭ぇー!!おい!お前も十分キルアを引っ張り上げてるっつーの!」
「…え」
「諦めてんじゃねぇや!呆れるぐらいお人好しなら、それを通せ!!」
「………はあ」
レオリオのこういうところには敵わないな、と笑う。
真っ直ぐなこの言葉が心地よく、私たちの心の奥にまで届く。
かすかに瞳を揺らしたが私を見るから。
大丈夫、お前もキルアの力になれると頷いてみせた。
だって、私を明るい場所へと引き上げてくれたその腕は。
お前が持っていたのだから。
救われたクラピカだから思うこと。
[2012年 8月 1日]