命からがら逃げ出せたとかなんとか。
[2011年 4月 21日]
「クロロ、石版はあった?」
「あぁ、これか?俺は興味がないから好きにしろ」
「ありがとう」
今回の仕事はあるマフィアが溜め込んでいたお宝をもらうこと。
といってもあっさりと仕事は終わってしまって、いまは戦利品の分別中だ。
あまり興味がないものだったのか、クロロは俺が求めていた石版には目を向けない。
まあ、他にも価値のあるものはたくさんあるから。そっちを愛でるのに忙しいんだろう。
ひょいとガラクタにしか見えない石版を拾い上げ、ひっくり返してみたりする。
こんなものに何の価値があるのか分からないが、一応仕事でもある。
これがの探している物かは分からないけれど確認はしておかなければ。
「メール…よりも電話の方が早いか」
せっかく現物が手元にあるのだから、彼に直接会って見てもらった方がいいだろう。
となるとスケジュールの確認もあるし、メールだと面倒臭い。
自室へと戻ってから携帯の中から何度か使用した番号を呼び出す。
留守電機能を使わないの電話は、彼がとらない限りずっと鳴り続ける。
ずっとコール音が聞こえてくる状態に、仕事中だろうか?と俺は耳から携帯を離した。
とそのとき、コール音が切れる。
『……もしもし』
「あ、?いま大丈夫?」
『…シャルか…』
どこかかすれた声が艶めかしく、俺の耳に直接流れ込んでくる。
あれ、ってこんな色っぽい声してないよな。どうしたんだろう。
出るまでに時間がかかったことといい、もしや取り込み中だったのだろうか。
「?」
『……っ………。何か、用があったんだろ』
「あ、うん。今日石版のひとつを入手したから、また会える日があればと思ってさ」
『分かった。………いま電話してるんだ、見れば分かるだろ』
誰か近くにいるらしい。が珍しく棘のある口調だ。
わずかに呼吸が乱れてるっぽいし、これはまさかまだ最中なのでは。
うわー、それで電話に出た上にこんな冷たいこと言うって相当だなぁ。
クロロと同じぐらい酷いんじゃないか?と思う。
またの吐息がこぼれた。
なんか俺の方が妙な気分になるからやめてほしい。
『都合つく日、送って。俺はだいたい暇だから』
「分かった。えっと…邪魔してごめん?」
『邪魔なんかじゃない。電話、ありがとう』
そして通話は途切れる。
………なんていうか。
「って、大人ー」
滴る汗を拭い、閉じた携帯をポケットにねじ込む。
そしては再び襲いくるカードを横に転がりながらかわした。
しかしすぐさま陰に隠されたバンジーガムが狙ってくる。
「…っ…いい加減にしろヒソカ!」
「ホント良い顔をするよねぇ、キミ」
ほんと、ほんとこの殺人鬼を誰かなんとかしてくれー!!
せっかくシャルが俺の頼みを聞いて電話してきてくれたのに、お礼もまともにできなかっ…。
「……!!」
「あれ、避けられちゃった。すごいね、どんな勘してるんだい」
「お前ほどの精度はない」
絶してるカルトすら感じ取れる、本物の変態には敵わない。
というわけで、俺いますごく絶対絶命のピンチ!誰か助けてー!!
心の中で絶叫する俺のポケットで、携帯がメールの着信を報せた。
命からがら逃げ出せたとかなんとか。
[2011年 4月 21日]