「ぶー」
「機嫌を直してください、ボス。何より貴女の身の安全が優先されるのです」
「せっかく見つけたのにー」

さっきから膝を抱えてこの調子だ。
車の中でも、屋敷の自室に帰ってからも、ひたすら不貞腐れてやがる。
…本当に、なんであんな厄介な男に執着するんだこのお姫様は。

「ダルツォルネ、いいか」
「どうした」

同じくネオン=ノストラードの護衛であるスクワラが顔を出した。
ノストラード氏に今回のことを報告したら、すぐに戻ると連絡があったらしい。
やれやれ、娘のこととなると本当にあの男は。
………まあ、ノストラードファミリーはこの娘が支えているようなものだ。
金のなる木を、失ってなるものかと必死になるのは当然だろう。

「ボス、ノストラード氏がお戻りになるそうです」
「えー?会議があるから帰ってくるのは明後日って言ってたのに」
「ボスが襲撃に巻き込まれたと聞いて、心配になったのでしょう」
「別に怪我ひとつしてないもん。あーあ、いっそがボディーガードになればいいのになー」

そうしたら一緒にいられるのに、と膝に顎をのせてぶつぶつ。
ああなるともうダメだ。しばらくはあの男の話題しか出てこなくなる。

「まるで恋する乙女だな」
「ありゃ病気だ」
「…、だったか?どんな奴なんだ」
「腕の良い運び屋だ。完全にあっち側の人間だよ」
「…俺たち以上にってことか」
「あぁ。比べちゃならん程にな。…不思議とボスには甘いらしいが、まあ猫を構うようなもんだろう」
「その猫も、構われるのが嬉しいなら問題ないんじゃないか」
「どうだかな。とりあえずノストラード氏は、快く思っていない」
「そうか」

ひっそりと消そうとしたこともあったらしいが。
それを全く意に介することもなく、涼しい顔してあの男は行方をくらましたらしい。

正直、あの男を抹殺しろとか命令がきたら俺は遠慮したいね。

消されるのはむしろ、俺たちの方になるだろうから。





めっちゃ怯えて逃げ出したんだすけどね、ゴミ山から。

[2012年 9月 10日]