「どうしてホームに炬燵が…」
「たまたまゴミ山の中にあって、ノブナガがうるさいからシャルが修理したんだよ」
ぬくぬくと温まりながらマチが説明してくれる。
廃墟となっている建物の中、瓦礫が転がる部屋に畳が敷かれ炬燵が置かれている。
なんとも不思議な光景だと思いながらも、俺は机の上に依頼の品をどんと置いた。
「突然ミカンなんて運べって言うから何かと思えば」
「炬燵にはミカンだとマチが言うものでな」
「これは外せないね」
「まあ、それは俺も同感だ」
「も炬燵を知っているのか」
割と違和感なく炬燵におさまっているクロロが、籠の中からミカンを取り出す。
俺も開いてるスペースに入らせてもらうことにした。
「俺の故郷じゃ、冬といえば炬燵だったな」
「そうか。確かに温かいな」
「そのまま寝ると風邪引くから気をつけろよ」
「あと、下手すると炬燵から出られなくなるよ。自堕落な生活にならないようにしてほしいね」
「…ふむ。そうだな、ここから動きたくなくなるのはわかる」
すでに炬燵の魔力に魅入られている男がいる。
でもまあ仕方ないよなー、炬燵に一度入っちゃうとホント出たくなくなる。
おかげで炬燵の周囲に必要物を並べて、動かなくて済むようにするという。
そういったサークルが出来上がることも珍しくはない。じーちゃんもひどいもんだった。
遠くのものを取りたいときは俺に命令してばっかだったからな。自分でとれよ!
あ、そういやミカン使ってじーちゃんが子供みたいなことしてたな。
「…?どうした。ミカンなんか眺めて」
「……ちょっと、懐かしいことしてみようかと思って」
「あら、。来てたのね」
姿を見せたパクに、あんたも食べる?とマチがミカンを差し出した。
いただくわ、と微笑んだ美女は長い脚を炬燵に入れる。あ、ぶつかった、ごめん。
パクと足がぶつかったからよけようとしたら、また別の誰かの足にぶつかった。
「………!!」
「…?もしかしてクロロの足か」
「あ、ああ…」
あれ、涙目になってるんだけど。
………ひょっとして?とちょっと足をずらしてみる。
クロロの足にちょっとだけ触ったかと思うと、びくりと震える肩。
無言で何かに耐えているっぽい様子に、はっはーんと笑いそうになる。
これ、足痺れてる。そうだよな、椅子に慣れてそうだもんなクロロって。
畳生活とかあんましなさそうだし。
無言の殺気を感じてきたところで、俺はポケットから紙を取り出した。
遺跡調査用に持参している道具のひとつ。和紙みたいなものだ。
「あんた何してるんだい?」
「ミカンの皮なんてしぼって、何かあるの?」
「気をつけろパク。この汁、目に入るとすごく沁みるぞ」
そう注意しながら、ミカンの皮をしぼりつつ紙の上にたらしていく。
すぐに水分を吸収する上に乾くのも早いこの紙は、あっという間にまた白くなった。
「これ、あとで火にあぶってみてくれ」
「?どういうことかしら」
ホント子供の遊びなんだけどな。けっこうテンション上がったよ俺。
受け取ってくれたパクは首を傾げてたけど、わかったわと頷いてくれる。
その後はミカンの皮の剥き方で話が盛り上がった。
俺は面倒臭いから半分にまず割っちゃうんだけどさ。
ちまちま剥くクロロがなんか可愛かったよ。最終的にはマチが呆れて剥いてあげてたし。
「………あら」
「?あぁ、さっきの紙かい」
「見て。真っ白な紙に字が浮き上がってるわ」
「……何?見せろ」
「ほら。がミカンの汁で書いた字ね」
「へえ、ミカンの汁であぶり文字なんてできるの」
「懐かしいこと…と言ってたな。まったく、本当に面白い男だあれは」
「それで?何が書いてあるんだい?」
「………ミカンの請求額だ」
「………」
ミカンの汁が目に入って悶絶したことってありませんか。
[2013年 1月1 日]