ちくしょー、本当にネンってなんなんだよ。
に聞いてもはぐらかされるし、ズシの師匠に聞いても本当のことは教えてもらえなかった。
イルミの強さの秘密に近づくチャンスだってのに。
すぐそこに転がってる真実をつかめないのが、すげえもどかしい。

俺が不機嫌なことに気づいたが声をかけてくるけど。

「どうせは教える気ねーんだろ?」
「俺の場合、我流だから。せっかく基礎をマスターしてる指導者がいるなら、そっちに教えてもらった方がいいに決まってる」
「何言ってんだよ、そんだけ強くてさ」

そりゃ言いたいことはわかる。我流よりは正式な流派で学ぶべきだってのも。
けどあのウイングってヤツ、俺らに教える気ねーんだもん。
だったらに教えてもらうしかないじゃんか。いくら我流だって言っても、十分に強い。
こいつが俺らにとって不利になるようなことを教えるわけがない、って確信もある。
なのになんで。

俺の不満を汲み取ったらしいは口を開いた。
そんで、真顔で恥ずかしいこと言いやがった。

「お前たちの才能は桁外れだ。だからこそ、きちんと正しく指導されるべきだよ」
「………………」
「あ、キルア嬉しそう」
「バッ!適当なこと言ってんじゃねーよ!」

確かに、こいつに認めてもらえるのは嬉しいけど!
だけどそんなことで喜ぶなんてガキみてえじゃん!!

「にやけてたのに」
「にやけてるわけねーだろ!おい!!」
「ん?」
「教えてくれなくてもいーよ、けどお前のネンってやつ見てみたい」
「……うーん」

兄貴やウイングが見せた、得体の知れない力。
俺はのそれを見たことはない。知らないところで使ってたのかもしれないけど。
だけど俺に対して向けられたことはない、ように思う。多分。

少しだけ迷う素振りを見せるに、断られるかなとどこかで思った。
あまり頻繁に使わないってことは、切り札ってことなんだろう。
そういうのは最後の最後まで見せるもんじゃない、ってのが裏稼業での鉄則だ。
だけど、もしが使えるのなら見てみたい。

すると俺の期待に応えるように、をとりまく周囲の気配が変わった。

「!!」
「……っ………!?」

最初はただ、ぞわりとうなじのあたりが粟立っただけ。
けど、次の瞬間には息をすることも難しいような圧迫感が押し寄せてきた。
心臓が早鐘を打って、汗が噴き出る。歯ががちがちと鳴りそうなのを堪えるのに必死で。
逃げたい、と本能が叫ぶ。足がいまにも床を蹴って部屋の外に向かいそうで。

俺たちの反応を見た焦げ茶の瞳はいつも通り静かなのに。
この澱んだ色が怖いと、目が離せない。

ぶわりと部屋を覆った何かは少しずつゆるやかに収束していった。
力の恐ろしさを植え付けるかのように、徐々に徐々に。思い出したように強くなって。
ようやく全ての気配が落ち着いても、俺たちは言葉を発せなかった。

「こんな感じでいいか?」
「す、ごい…俺、鳥肌立ったよ」
「………お前、こんなもん隠し持ってたのかよ」

何平然としてんだよ、あんなもん叩きつけておいて。

「言っておくが、イルミはもちろんヒソカだってこれぐらいできるぞ」
「「え」」

どうしてそこで驚く?といわんばかりにが呆れた顔をした。
…そうか、イルミやこいつができるんだからヒソカなんて……うえ、考えたくね。

「キルア」
「な、なんだよ」
「シルバさんたちも、普通に習得してるからな?」
「げっ」
「ネンって、そんなに知られてるものなの?」
「…まあ、こういう業界にいるなら知ってることが最低条件だろうな」

親父たち、んなこと教えてくれなかったけど。
つまり裏稼業において俺はまだまだ一人前と認められてなかった、ってことかよ。くそ。
裏の世界から足を洗いたいとは思ってたけど、力不足と思われてんのは癪に障る。
俺、暗殺業界のエリートだったんだぜ?なのにさ。

「だからまあ、遅かれ早かれお前たちは覚えるよ」
「…ふーん」
「俺たちもできるようになるの楽しみだね」
「そうしたら、イルミの野郎をぜってーぶちのめす」
「俺はヒソカに一発!」

別に裏稼業なんてやってなくても、ネンってのを習得してやる。
が覚えられるって言ってんだから、覚えられんだろ。

見てろよ、イルミ!





裏稼業専用の能力ではない

[2013年 1月13日]