窓から現れた人影に私は呆れてしまった。
表からやって来ればいいのに、なぜわざわざこんな場所から。
「…不法侵入だぞ」
「悪い。邸の人達に気づかれたくなかったんだ」
ここはノストラードファミリーの邸だ。つまりはマフィアが集まっているわけで。
…一応私もマフィアの一員という扱いになってしまうのかもしれない。
のような用心深い男が、マフィアと不必要に関わりたがらないのは理解できる。
だがそれをおしてまで私に会いに来てくれたことは、少し嬉しかった。
「…どうした?こんな夜更けに」
「この間借りた本を返しに。かなり面白かった」
「あぁ…いつでもよかったのに」
「返し忘れたら困る。あとこれお礼」
「?これは…」
「目にあてると疲れがとれる。クラピカは目が疲れやすそうなイメージがあるから」
それは間違ってはいない。
護衛という仕事だけでなくデスクワークも多く、あとは情報収集も重要な仕事のひとつだ。
目を酷使することになるし、緋の眼になろうものならより疲労は増す。
単純に本を読むことも好きだから、それだけでも目は疲れてしまうのだが。
渡されたのはアイマスクのようなもの。
中に氷やカイロを入れられるらしく、目を冷やしたいときと温めたいときと用途を変えられるらしい。
「…こんなものをよく見つけてきたな」
「俺も使ったりするんだ」
「が?」
「徹夜で資料調べたりしてるとやっぱり目にくるから。昔、友達に教えてもらったんだよ」
懐かしいな、と淡く微笑むの表情はどこか寂しげだ。
……もしや故郷にいた友人のことなのだろうか。穏やかな日々の中の記憶なのかもしれない。
そんな大切な記憶の中から見つけたものを差し出してもらえる。
なんて幸せなことだろうか。
「…ありがたく使わせてもらう」
「うん。あとこれはネオンに」
「…ボスに?」
「いつものケーキ。一応、ネオンなりに俺によくしてくれてるから…まあ、お礼?」
あれは完全ににまとわりついているだけに見えるが。
律儀というか人が好いというのか。白い箱を受け取り、なんともいえない返事を漏らした。
「じゃ」
「…こんな時間に帰るのか?泊まっていけばいいのに」
「いや、落ち着かないから。クラピカこそ早く寝ろよ」
あやすように優しい手が私の頭を撫でて、そしては窓の外の景色に溶けていく。
部屋に流れ込む夜風は柔らかくて。今日はよく眠れそうだ、と思った。
ネオンがいる邸に泊まれるわけがない
[2013年 3月14日]