「いつもお世話になってます」
「それはこちらこそ。いつも美味しそうにケーキを食べてくれるから、嬉しいよ」
「実際、美味しいですから」
「イリカもお世話になってるし」
「いや、むしろ俺が世話になってるわけで…」
「店長、さん、お茶が入りました」
いつもの笑顔でやって来たイリカに俺もラフィー店長もお礼を言う。
もう店は閉店してるんだけど、届け物があったから顔を出してるところ。
まさかお茶を出してもらえるとは思ってなくて、ちょっと驚きだ。
仕事後の一休みだよ、と笑ってくれる店長に感謝感謝。
イリカも仕事後で疲れてるだろうに、いつも通りの笑顔を見せてくれてほっとする。
「えーとですね、日頃お世話になってるのでお礼を渡したくて」
「僕たちに?」
「はい。イリカにはこれ、ヘアゴム」
「わ、可愛い」
「最近伸びてきたって言ってたから。好きなときに使って」
ありがとうございます、と受け取ってくれたイリカが早速髪を結ぶ。
似合う似合うと笑う店長にもお礼の品を差し出した。
「これ、キッチンタイマーです」
「おや」
「厳重に保護されてるものなので、店長が触っても壊すことないんじゃないかと」
「ふーん……あ、ほんとだ動くね」
けっこう機材を壊すことが多いって話を聞いてびっくりしたんだけど。
そのせいでシャンキーの病院でタダ働きをすることもある、って話だった。
だから衝撃にも暑さにも寒さにも水にだって強いタイマーを発見して買ってしまったのである。
店長なら必要ないのかもしれないし、愛用のものもあるのかもしれないけど。
あったらあったで便利だろうな、と思うから。
「ありがとう。実用的なプレゼントでいいね」
「迷ったんですけどね…。俺が作ったお菓子とかも考えたんですが、それは自信がなくて」
「さんの作られる料理、私好きですよ?」
「うん、君らしい味がして僕も好きだよ」
うおお、そんな風に言ってもらえると嬉しいけど恥ずかしい。
だってラフィー店長はプロの料理人なわけで。イリカだって毎日その味を食べてるわけで。
「そうだ、せっかくだしこれから三人で夜食でも作ろうか」
「三人で、ですか?」
「うん。それぞれ一品」
「て、店長、私あんまり自信が…」
「あ、イリカの料理食べたい」
「えっ!?」
「この間のケーキも美味しかったし。どんどん上手くなってるから」
一生懸命練習してる姿は女の子らしくていいなーと思う。
ただイリカの料理はお菓子類しか食べたことがないから、他もぜひ食べてみたい。
…あ、だいぶ図々しいこと言ってるかな。
困らせるのは嫌だから発言を撤回しようとしたんだけど。
「…さんも作ってくださるんですよね?なら私も頑張ります」
「うん、頑張ろう」
拳を握って決意を強めているイリカに撤回の言葉はしまって。
俺は何を作ろうかなぁと店長たちと厨房に向かった。
客として訪れていた場所なのに、いつの間にかこんな奥にまで入らせてもらえてる。
そのことにまた感謝したくなった。