「うん、異常なし。色男は本日もいたって健康っと」
定期的な健康診断をするように、と勧めてから本当に俺んとこに通うようになった色男。
こういう素直さはラフィーくんやユリエフくんにないとこだ。ジンなんて以ての外。
服を整えながら「ありがとうございました」と頭を下げる姿も、あいつらに見習わせたい。
「さん、この傷は」
「あぁ、ちょっと前に色々あって。けどもう痛くないし、しばらくしたら消える」
「そーそー、男ならこんぐらいの傷は日常茶飯事だって」
「…そういうものですか?」
不安そうなアン嬢に色男が頷いて「心配かけてごめん」と困ったように笑う。
…そういや随分と表情豊かになってきたよな。前はほんっとーに無表情だった。
オーラの変化で感情の起伏はわかったけど、基本的には警戒心ばりばりっていうか。
そういうのが薄れてきたのはいつからだったか、とカルテをしまいながら首を捻る。
…ま、もともと女子供の前じゃ色男の空気は柔らかかったんだけどさ。
「シャンキーとアンに、渡したいものがあるんだ」
「?なになに、ラブレターならお断りだぜ。俺の心は万人に捧げられているからな」
「そういう適当なとこ、さすがジンの友達だな」
「…うぐっ…!それは俺の心を抉る言葉だぞ色男…!」
胸を抑えてうずくまるものの、色男はスルー。
……いいんだけどね、なんか俺の扱い慣れてぞんざいになってきてるよな。
皆最終的にこうなるのが解せん。アン嬢だって笑ってるけど結局放置だからな!
「病院の庭にこれどうかと思って。苗木もらってきた」
「これは…?」
「桜。俺の故郷にあったのとよく似た品種で、ひと目惚れした」
まだ小さな小さな木ともいえないような苗。
それを大事そうに抱えた色男の眼差しは随分と柔らかい。
桜って淡い色の花がつく木だったよな。ほー、春に庭で見られるのはいいかもな。
庭の手入れが大好きなアン嬢がそっとその苗木を受け取った。
色男の故郷に関連したものと聞いたからか、大事に育てますねと請け負う。
「嬉しいけど、自分ん家に植えた方がいいんでないの?」
「…ここは俺が落ち着く場所のひとつだから。俺の家は管理ロクにしてないし」
仕事で飛び回ってるから、確かに家っていってもあんま意味ないんだろう。
こんな小さな病院を落ち着くって言ってもらえるのは嬉しいね。
「ふっふっふ、そーかそーか、俺がいつでも帰りを待っててやるぞ」
「ありがとう」
「………そこでお礼言われるとビミョー」
「私もお待ちしてますねさん」
「…うん、ありがとうアン」
「あ、そのニュアンスの違いに傷つく」
俺の抗議に怪訝そうな表情の色男。
そりゃねー、おじさんなんかより?可愛い女の子に迎えられる方が嬉しいだろうけど?
可愛くない色男の帰りを待っててやろうじゃないか。
俺ってなんていいひとだろう。
お礼というかむしろ桜植えてくれっていうお願いになってしまった
[2013年 3月14日]