ゆっくりと日が昇っていく。
朝特有の少し張り詰めた空気を肺に吸い込んで、身体を起こす。
隣りですやすやと眠るのはゴンで、反対側はキルアがいる。
二人を起こさないように気配を消しながら立ち上がり、小川がある方向へ歩き出した。

昨日は野宿で、けっこう遅くまで焚き火を囲んで話し込んだ。
キルアとゴンなんかはしゃいじゃって、なかなか眠らなかったもんなー。
クラピカの方が眠そうにしてた。レオリオは途中で眠って、火の番を忘れてかけてたし。

まさかの主人公組と過ごせているいまは、夢の中にいるようだ。
やっぱさー、ゴンたちといると心が洗われるっていうか。ほっとするっていうか。
旅団の皆やゾルディック家も嫌いじゃないんだけど(むしろ世話になってるし)
殺伐としてる日常に、俺の心が休まることはないわけだ。え、ピエロ?その話題はスルーだ。
ゴンたちと一緒にいても、それなりにトラブルはあるんだけど。
でもあの四人が一緒なら、どんなことでも大丈夫だって妙な信頼がある。

「………冷たい」

辿り着いた小川に手をつけると、やっぱりまだ水温が上がってなくて。
ちょっとだけ気合を入れてその水で顔を洗う。つべたい!でも気持ち良い!
あー…朝飯どうすっかなぁ。一応、非常食はあるにはあるけど…おいしくないし。
ゴンに頼んで魚でも釣ってもらうか?となると、起こさないと。

「早いな」
「…クラピカこそ」
「どこへ行くのかと思った」
「ただ顔を洗いに来ただけだよ」

なんだ、俺そんなすぐ迷子になるとか思われてんのか。
どっちかというとそういう心配をしなきゃいけないのは、ゴンとキルアだろう。
クラピカは心配性だよなぁ、俺の方が年上なのに。

「……冷たいな」
「まだこの時間だからな。他の奴等は?」
「ゴンは夢の中だ。キルアは私の気配で目覚めたようだった」
「レオリオは?」
「叩き起こしてきた」

………えーと、その扱いの差は。

「結局、レオリオは昨晩の火の番をサボっただろう」
「あぁ…」
はレオリオを甘やかしすぎだ。火の番まで代わって」
「レオリオも疲れてたんだろ。そういうときはお互い様だ」

基本、一行の中でもろもろの被害に遭うのはレオリオだもんなー。
一般人に感覚が近いから、すごく俺とも気が合うっていうか。一緒にいてほっとする。
やっぱりゴンたちといると規格外すぎて、楽しいけど疲れるよな。
自分の限界に常に挑戦、って感じだ。分かる、分かるぞレオリオ。

!」
「キルア。おはよう」
「気がついたらいねーから、焦るじゃん!」
「クラピカにも言われたところだ。そう心配するな」

寝癖の残る銀髪をぽんぽんと撫でると、なんともいえない顔をされた。
そんでもってなぜかキルアとクラピカがアイコンタクトしてる。
え、何、やっぱこいつ自覚ねえなって顔?そんなに迷子癖あったっけ俺!?

いやいやいや、試験中だってそんなことはー…。
少なくとも俺の意思でゴンたちとはぐれたことはない、はず。

目を泳がせる俺に、追及することをやめてくれたらしい二人。
そっとしておこう、という顔がなんか大人で…俺は情けない気持ちになる。
なんでいつも俺の方が心配されるんだよー。もう大人なんだぞ俺。
っていうか、この中じゃ最年長!

「つめて!」
「ほら、タオル」
「サンキュー」
「そろそろゴンも起こさなければならないな」
「ゴンの体内時計は正確だから、大丈夫じゃないか?」
「野生児だもんなー、あいつ」

そう話していると、レオリオと共に駆けてくるゴンの姿が。
予想通りだと笑っていると、ようやく全員が揃う。

「おはよう!」
「朝から元気だなおめーら」
「あれだけ寝ておいてまだ眠そうだな、レオリオ」

ゴンはそのまま元気に頭を川に突っ込んだ。
ぷはあ!と気持ち良さそうに顔を上げるゴンは、髪からぼたぼたと水を滴らせる。
動物のようにぷるぷると頭を振って水気を払うと、隣のキルアがわ!と悲鳴を上げた。
かかっただろ!と抗議するキルアにごめーんと謝るゴンは笑顔。
………すごいよなゴンの剛毛。あっという間にとんがりを取り戻してるぞ。

「それで朝食だが。ゴン、魚釣れるか?」
「うん、任せて!」
「私は何か木の実でもないか見てこよう」
「んじゃ俺は火の番してるぜ」
「昨日ろくに出来てなかったのに大丈夫かよー」
「うるせ!」
はどうするの?」
「キルアと皿にできそうな葉とか、串になりそうな枝を探してくる」
「わかった、頑張って釣るからね!」
「あんま大物すぎんの釣るなよー?」








そう忠告があったにも関わらず、ゴンくんはとっても大きな魚を釣ってくれました。

………でか!めっちゃでか!え、あの川ってこんな魚が収納できる深さあったっけ!?
沼の主ならぬ川の主まで釣っちゃったのかゴン!
一応クラピカに確認をとってみたところ、ちゃんと食べられる魚なんだそうで。
…でもこれ解体ショーじゃね?普通に三枚下ろしとかできる大きさじゃないんだけど…。

俺には無理だ、と切ることに関してのプロフェッショナルであるキルアに視線を向ける。
きょとんと目を瞬く少年に、できるか?と無言で尋ねてみた。
すると魚をちらりと見たキルアが、俺なりのやり方でいいならと頷く。よし、頑張れ!

「…こんな感じ?」
「ああ、上出来だ。これだけ身があれば充分だろ」

すげー、あっという間に捌いちゃったよー。
俺だったらあれ解体すんのにすごい時間かかってるわ。

ぱくり。

「あ」
「おい
「…生でもいけそうだな。けっこう、うまい」
「マジで?」
「刺身と、あとは炙るのと、あぁ…蒸してみるのもいいか。これだけあるし」
って料理好きなんだね」
「誰も作ってくれないからな」

じーちゃんに作らせてみろ。
遺跡探索をするならこれぐらい食えるようになれ!とか言ってすごいもの出してくるから。
そりゃ現地の料理を食べられないと発掘作業とかできないけどさ。
………でも食卓に虫の料理が並んだときは、さすがに泣きそうになったよ俺。食べたけど。
あれは幼心にしばらく引きずった。…よく頑張った、俺。


「…ん?」
「食べたいときには言ってくれ。私でよければ何か作ろう」
「え」
「得意というわけではないが、いくつかなら作れる」
「いいなぁ、俺も料理とか覚えた方がいいかなぁ。ね、キルア」
「俺らが料理ぃ?の料理が一番うまいんだからいいじゃん」

キルアは俺の料理を気に入ってくれてて、それがすごく嬉しい。
あんな一流シェフに囲まれて育ったんだろうに、優しいよなー。
そんでもって料理を作ってくれる、って言うクラピカもすごく優しい。俺、涙出そう。

「…ありがとうクラピカ。機会があったら、食べさせてくれ」
「あぁ、もちろんだ」
「レオリオは?料理しないの?」
「俺を誰だと思ってる。お前らの中じゃ一番常識のある人間だぜ」
「それは聞き捨てならないなレオリオ」
「あの料理試験の結果で言えた台詞じゃないよなー」
「お前らだって同レベルだったろうが!」

ぎゃあぎゃあと賑やかな会話を尻目に、炙る切り身を串に刺す。
蒸す魚は用意した葉に包んで、っと。刺身で食べる分はこのまま薄く切ってー…。

「「「「、町についたら審判!!」」」」
「………何の話だ?」

ものすごい形相で詰め寄ってくる一行に、俺はそう答えるしかなかった。





一万ヒット、ありがとうございます!
一番最初のOPのイメージからいただいた、お話です。

[2011年 4月 29日]