天空闘技場に来て、キルアと出会い。なぜか一緒に過ごすようになって。
そして俺は、キルアの誕生日というものに遭遇することになった。
…そうだよな、そういえばこっちの世界にもあるんだよな誕生日。すっかり忘れてた!
というわけで、キルアを連れ出しケーキ屋へ。そのまま好きなケーキを選んでもらう。

「え、マジで!?1ホールたべていいの!?」
「今日は特別だ」

っていうか、食べたいと思っても実際は食べられないぞ1ホール。普通は、だけど。
キルアもシャルも平気な顔してぺろりとたいらげるよなー。
俺も甘いもの好きだけど、そこまでは食べられないぞ。

キルアが選んだケーキを手に部屋に戻り、昨日のうちに用意していた食事を温める。
いやあ、キルアにバレないように準備するの大変だった。
俺が本当に小さい頃は、こうやってばーちゃんが準備しててくれたんだよなぁ。
クリスマスっていう習慣が俺の家はなかったから、誕生日と正月だけが楽しみで。
……まあ、誕生日って言ったってプレゼントもらえるわけじゃなかったけど。
けど、皆で囲むちょっとだけ贅沢な食事は、それだけで幸せで。

「よし、好きなだけ食え」
「うまそー!」

目をきらきらと輝かせてフォークを手にとるキルアに、微笑ましくなる。
ばーちゃんもこんな気持ちで食事の用意してくれてたのかな、そうだといいな。

「んーまい!」
「それは良かった。この肉は自信作だぞ」
「どれ?すっげー、中にライスが入ってる」
「この間ネットで分かりやすい作り方を見つけて、チャレンジしてみた」

ハムスターのように頬に物をつめこむキルアに苦笑しながら、俺も食べる。
おお、なんか俺の料理の腕前どんどん上がってきてないか?
やっぱりあれか、キルアと一緒に過ごすようになって料理する機会増えたもんな。
喜んでくれるひとがいると、つい頑張ってしまうのは人の性だ。

「なあ、
「ん?」
のたんじょうび、っていつ?」

くるくるの猫目が俺を見上げてくる。ほっぺにご飯粒ついてるぞー。
それを取ってやりながら、なんでこんなこと聞いてきたんだろう?と首を傾げる。
っていうか、こっちの世界の暦って俺の世界と一緒なのかな。一応365日っぽいけど。
閏年の概念もこっちにはあるんだろうか、とどうでもいいことまで気になってくる。

もしかして、キルアも俺の誕生日を祝おうとしてくれてるんだろうか。
色々と考えたせいで答えられずにいると、じれた様子でキルアが口を開いた。

「おれも、おかえししたい」
「キルア…」

なんていい子なんだお前…!!
ゾルディック家で誕生日を過ごせたら、きっともっと豪勢なパーティになっただろうに。
俺の手料理なんかで喜んでくれて、さらにお返しまで考えてくれる。お兄ちゃん嬉しいよ。
思わず潤みそうになる目を慌てて押しとどめ、キルアに見られないように手を伸ばす。
ぐしゃぐしゃと髪を撫でてやれば、わ!と驚いた声が上がった。

「気持ちだけで充分だ」

本当に、その気持ちだけで。








それからまた時間が流れて。
悪戦苦闘するキルアは今日も負けてしまい、不貞腐れてベッドにイン。
することないなー、と携帯のカレンダーを確認して俺は固まった。
………おおっと、今日は俺の誕生日じゃないか。危うく忘れたまま年取るとこだった。
何も予定がないし、暇つぶしにケーキでも買ってくるかなと立ち上がる。

閉店時間ぎりぎりに滑り込んだ俺は、ふたつほどケーキを買う。
そして部屋に再び戻ると、やっぱりキルアは寝たままだった。
起こさないように部屋の明かりは点けないまま、俺は窓際にあるテーブルに腰かける。
うん、月明かりだけで充分明るいな。

これで俺も二十歳かー………あ、堂々と酒飲めるんだ俺。
よし、今度なんか試しに買ってきて飲んでみよう。じーちゃん達には止められてるけど。
いまは紅茶で我慢。ケーキといえば紅茶だろ、やっぱり。
頬杖をつきながら食べるのは行儀が悪いけど、いまはひとりだしいいだろう。
闇夜の中、月明かりに照らされてフォークが銀色に光る。お、紅茶に月が浮かんでる。
なんか良いな、こういう静かな雰囲気も。よく眠れそう。

「………?」
「…起こしたか?」

もぞもぞとベッドから顔を出したちびっ子に、寝てていいよと笑う。
けれど俺ひとり甘いものを食べているのが不満なのか、じとりと睨まれた。
え、これ食べたいのか?けど寝起きにケーキってどうなんだ、キルアくん。

「……悪いけど、これはやれないぞ」

こんな時間にケーキ食べたら太るぞー。俺に言えたことじゃないけど。
それにただでさえ甘いもの好きのキルアなんだから、少しは我慢しないと。
食べた後でちゃんと歯磨きできるかも疑問だしな。虫歯になったらどうしてくれる。

俺のもろもろの心配を汲み取ったのか、別にいらない…とそっぽを向かれてしまった。
あれ、拗ねたか?

「こんな時間に、なにしてんだよ」
「そうだなぁ……忘れないように、確認?」

うっかり自分の誕生日逃しそうになったからな。危ない、危ない。
こうやってきっと、いま自分が何歳かも分からなくなってくるんだぜ。

「ほら、もう眠れ。明日も試合があるんだろ?」

いつまでも起きてそうなキルアの枕元に座り、そっと銀色の髪を撫でる。
渋々といった様子で枕に頭を預けたちびっ子は、俺のことをじっと見上げてきた。
な、なんだよ、おねだりはなしだぞ。

「………って、だれかをいわうとき、なにあげる?」
「祝う?」
「たんじょうびとか」

なんだ、前に俺が誕生日教えなかったこと引きずってんのか。
誰かを祝うときねぇ…。俺の周りにいる大切なひとって、ごく少数だったしな。

「覚えてるのだと…祖父母にお手伝い券っていうのをあげたな」
「おてつだい…けん?」
「そう。紙に何枚か券を作ってさ、それ一枚ごとに俺が手伝うっていう」
「てづくり?」
「その方が嬉しい、って言われてな」

ばーちゃんは一緒に洗濯物をたたむ、とか優しいお手伝いだったんだけど。
じーちゃんのお手伝いは………うん、思い出さないことにしよう。容赦ねえよ、あのひと。
俺が大きくなってからは、プレゼントらしいプレゼントはしなくなったな。
その分、海外を飛びまわってるじーちゃんが、その日は必ず一緒に食事してたけど。

「じゃあさ…」
「ん?」
「おれが、にそれあげたら、よろこぶ?」
「キルア…」

おおおおおまえ、俺の誕生日が今日だって勘付いてるんじゃないだろうな。
うとうと眠りに落ちそうなキルアの髪を撫でながら、若干怯える。

「……?」
「………キルアが一生懸命に作ったものなら、なんでも嬉しいよ」

これは本当。俺のために何かしてくれるって、すごいことだ。
本心だってキルアも分かったんだろう、安心したように目を閉じて寝息を立てはじめる。
よしよしと髪を撫でてやってから、俺はまた窓際に戻った。

俺を祝ってくれる月明かり。
テーブルには好きなケーキと紅茶が並んで。

そしてちびっ子のあったかい気持ちに祝福された日。

それはとても、とても幸せな誕生日。






主人公の料理の腕が飛躍的に上がったのは、キルアの存在があったからのようです。

[2011年 5月 6日]