「ここがお前の言ってた病院か」
「けっこう大きいんだねー」
「そうかぁ?普通の一戸建てじゃね」
「キルアの感覚だとそうなるのかもしれないが、開業医であるなら十分な建物だと私も思うぞ」

興味津々といった様子で病院を眺めるゴンたち一行。
相変わらず賑やかにマイペースな面々は好き勝手に感想を言ってる。

「…いいから、とりあえず中入るぞ」

俺が促せば聞こえるそれぞれの返事。
けっこう久しぶりに訪れたここは、シャンキーの経営する病院である。

初めて訪れたときは命の危機で、普通なら間違いなく死んでいた。
俺の念能力のおかげと、院長であるシャンキーの的確な処置のおかげで一命を取り留めたけど。
いま思い返してもあのときのことは恐ろしい。ジンと付き合うとロクなことない。
…まあいまはジンの息子であるゴンと過ごし、やっぱり色々巻き込まれているわけだが。

「シャンキー、いるか」
「あ、さん?お久しぶりです」
「アン。元気そうだな」

扉を開いた先には、大量のシーツを抱えたアンがいた。
病院ではあるのだが、ここは受付というものはない。玄関にはいくつか長椅子が用意されていて。
時間をつぶす用の本と、あとはお茶が備え付けてある。
シャンキーに診てもらうひとは奥に進んで、順番待ちのひとはここに待機。
ただ単に近所のひとと雑談をするためにここを利用するひとも多いんだとか。

今日は珍しくまだ誰もいないようで、アンは洗濯物を片付けていたところらしい。
って、すごい量だな。抱えたシーツがアンの頭よりも高くなりそうなんだけど。

「手伝う。どこ運べばいい、リネン室?」
「そんな、さん診察にいらしたんじゃ…」
「いや、シャンキーに紹介したい奴らがいて」

ゴンたちの方を振り返れば、なんかすごい顔でこっちを見てるキルアとクラピカ。
な、なんだ!?すんげー怖いんですけど!

「お嬢さん、その細い腕に荷物は重いでしょう。このレオリオがぜひ、お運びを」
「え、えっと…?」
「これはレオリオ。医者を目指してるんだ」
「…あ、それで先生に?」
「そう。貧しいひとでも助けられる医者が目標らしいから」
「わ、それは素敵ですね」
「そしてあなたのような白衣の天使が手伝ってくれるなら俺は…げふうっ!!」
「…いいかげんにしないか、恥ずかしい」

クラピカの鉄拳を受けてレオリオが沈んだ。
呆れた顔を浮かべるキルアの隣で、ゴンがはじめまして!と元気にご挨拶。
おー、相変わらず自分のペースだなゴン。自己紹介する流れだったかいま。

素直な笑顔を見せるゴンにアンも笑顔で挨拶する。
キルアやクラピカもそれぞれに名乗り、倒れ伏したレオリオはスルー。

「あんれー?なんか珍しい客がいるじゃないの」
「あ、先生」
「また団体さんだねぇ。どうしたの色男、今度はどんな重傷負ったわけ」
「……いつも怪我ばっかりみたいに言うのはやめてくれ」

奥から顔を出したシャンキーは、変わらずビン底メガネ。
赤い髪はいつも結んでいるというのに今日は肩に流れたままだ。まだ診療時間ではないのだろう。
白衣を肩に引っかけた状態のまま、まあ座ればと長椅子を指さした。

「飲み物がほしかったらそこから適当にどーぞ」
「じゃあ私これを片付けてきますね」
「俺も手伝う。レオリオ、好きなだけシャンキーと話せ」
「え、なになに俺に用なわけ?えー、男とどうこうって趣味はないんだけどねぇ」
「俺にもんなもんはねえ!」
「あ、レオリオが生き返った」
「なんつーか、やたら頑丈だよなこいつ」
「それだけが取り柄だからな」
「………キルア、クラピカ。あとで覚えてろよ」

賑やかな一同の声を背中に受けながら、俺はアンからシーツをもらってリネン室へ。
互いに顔を合わせるのは本当に久しぶりで、これまでどうしていたかを手早く報告。
いまは彼らと過ごしているんだと伝えれば、アンは妙にほっとした顔で。
素敵な仲間ができてよかった、と微笑んでくれる。

………アンに心配されるぐらい、俺って友達いなさそう……?







レオリオの夢を形にした存在、それがシャンキーだ。
だからなんだかんだと熱心な様子でレオリオはシャンキーの話を聞いていた。
こういうこと苦手なんだけど、と肩をすくめながらもシャンキーは質問に答えている。
ジンや俺みたいに払える能力のある患者からは、法外な治療費請求するけどな。
でもま、それで困ってるひとの役に立てるならいいかなと思うわけで。

いまは入院患者もいないそうで、レオリオがもっと話したいと言ったこともあり。
そのままシャンキーの病院に泊まらせてもらうことになった。
夕飯はいまアンが作ってくれてる。俺も手伝おうかと思ったんだけど。
お客様なんですからゆっくりしていてください、と追い出されてしまった。

「はー、おじさんクタクタ」

診察室に顔を出すと、机に顎をのせてだらけるシャンキーを発見。
レオリオの情熱に押されてだいぶ疲労したらしい。

「お疲れ」
「その後どうよ?」
「どうって…何が」
「ナニの方」
「………………」

俺にその手の話題を振るの、ホント好きだよなシャンキー。

「どうもこうも、別に変わりない」
「やれやれ、相変わらずダメっぷりを発揮してるわけだ」
「………そう変われるか」

変われてたらとっくに変わってるわ!!(心からの叫び)
どーせ俺はダメ男だよ!生まれてこのかた、恋人なんてできたことないよ!!
そもそも告白する勇気すらもてないヘタレだよ、畜生…っ…。

「けど大人のたしなみ大事よー」
「……はあ」
「というわけで、特別にタダでこれを進呈しよう」
「シャンキーがタダでなんて珍し……」

ぎゅ、と俺の手に握りこませた何か。
なんだいったい、と思って手の平を開いてみれば。

………学生時代に保健の時間で配られたアレが。

「………………」
「ちょ、いきなりゴミ箱に捨てることないでしょーに」
「俺が使うことはない」
「そこまで断言って…それじゃいかんってば」

うるせーな!!使えるような状況になれるもんならなりてえよ!!
でも絶対そんなの…そんなの…!(自分で言ってて悲しくなってきた)

って、こら、勝手に俺のポケットにねじ込むな。
思い切りシャンキーを睨んでやると、たしなみだからたしなみ、と人差し指をちっちと振った。
…くそう、なんだそれ腹立つな。使う機会ないのに持ってるって、すげえ虚しいじゃんか。
むしろこんなん持ってたら、恥ずかしくね?そんなこと考えてるヤツ、って感じで。

でもここで捨てても、またシャンキーに新たなアレを押し付けられるだけだし。
とりあえずここじゃない場所で捨てることにしよう、と俺はため息を吐いた。








10万ヒット記念のお話。
以前開催した茶会でいただいたリクエストを元にしております。
久々にシャンキーとアンの登場。

[2011年 10月 2日]