レオリオ視点
「アンちゃんの料理うまかったよなぁ」
「…レオリオ、さっきから鼻の下のばしすぎ。きもちわりー」
「んだと!」
「アンさん見てると、ミトさん思い出すよ。…もしかしてここが、の帰る場所なのかなぁ」

ゴンの何気ない言葉に、キルアと俺は息をつめた。

ハンター試験で知り合うことになった
いまは一緒に行動してるけどよ、最初の印象は正直お近づきになりたいヤツではなかった。
ヒソカ程じゃないにしても、やっぱり空気が堅気のもんじゃなかったんだよな。
どんな人生歩いてきたら、そんな濁った眼するようになんだって思った。

ヒソカとよく戦ってるし、キルアの兄貴と仕事をすることも多いらしい。
つまりは俺からすれば人外の強さ、ってわけだ。人を殺すことも躊躇わない。

…けどよ、本当は優しいヤツなんだよな。それをいまではわかってる。
クラピカとキルアは昔からの知り合いらしいし、ゴンは本能でそれをわかってたみてぇだ。
俺だけ、なかなかを信用することができなかったんだよな。
いや、仲間としては認めてたぜ?ただ、怖かったんだ、情けないことにな。
俺と生きる世界があんまりにも違って、家族も故郷もいまはないって言うし。
寂しげに遠くを見つめてることがたまにある。

そんなあいつにも、帰る場所があるってんなら。
少しだけほっとできる気もした。





風呂から上がって、ベッドでプロレスもどきを始めるゴンとキルアを放置。
ったくまた汗かいたらどうすんだか。元気だねぇ、ちびっ子どもは。
呆れながら牛乳を飲んでると、皿洗いしてたクラピカとが部屋に顔を出した。

「みんな、洗濯物あったら渡してくれ」
「はーい」
が洗うのか?」
「いや、アンが洗ってくれるらしい」
「アンちゃんか〜、可愛いよなぁ。料理もうまくて気配り上手。言うことなしだぜ」
「いらん妄想をしている暇があるなら洗濯物を出したらどうだレオリオ」
「いらん妄想ってなぁ…健全な成人男子なら当たり前のことだろ!な、

ガキのゴンたちに話しても意味ないし、クラピカは真面目すぎる。
だから話を同じ大人であるに振れば、あいつは不自然な間を置いて顔を逸らした。

「俺には無縁のものだから、話を振るな」
「無縁って……お前どんな」

あんだけタラシのくせに無縁も何もないだろお前。
アンちゃんとだって良い感じだったじゃねえか、うらやましいぜこの野郎!って思ってたのに。
この話は終わり、とばかりに洗濯物を出せと手をひらひら振る
触れられたくない部分だったってことか、と俺もとりあえず洗濯物を出す。
自分の洗濯物を取り出したは、おもむろに俺に近づいてきた。

「………レオリオ」
「あー?」

何かを手に握りこまされる。小さな袋っぽいが…。

「俺は必要ないから、やる」
「?何をだよ…………って!これ!」

手の中にあるものを確認して俺は目を瞠った。
なんてもん渡してくれてんだ!?

「何もらったの?」
「お前にはまだ早い!」
「えー」
「何なんだいったい」
「お前にはより見せられん!!」

慌てて俺が渡されたブツを隠そうとしてる間に、は素知らぬ顔で部屋を出ていく。
おい、我関せずって顔してんじゃねえー!この事態を俺はどうすりゃいいんだ!

パタン、と扉が閉じたと同時にクラピカとキルアがずずいっと近づいてくる。
………お前らホント、がいるときといないときで態度違うよな。
どんだけ猫かぶってんだ、くそ。

「何を渡されたんだ」
「だから、その、お、大人のたしなみってやつだよ」
「大人のたしなみだと…?」
「あー、わかった。それさっきがあの医者に押し付けられてた」
「医者…シャンキー氏か」
「そ。いらないって一度捨ててたんだけど、たしなみだからってポケットに無理やり」
「大人のたしなみって、子供ができないようにするやつ?」
「「「!?」」」

あんまりに普通にゴンが言うものだから、一瞬聞き間違いかと思った。
俺だけでなくクラピカやキルアもぎょっとして、ベッドに座るゴンを振り返る。
きょとんと大きな目を瞬くゴンはゴンのままで、えーといつも通りのゴンでだな(混乱)

「お、お前…どこでそんな知識を」
「くじら島の漁師さんたちに色々教えてもらったよ。女のひととお付き合いするときは、きちんと相手のことを考えて行動しないといけないんだって。自分が家族を養えるようになるまでは、特に気をつけろって」
「お、恐るべしくじら島…」
「まあ、必要な知識とはいえる。少々早いような気もしないでもないが」
「キルアはそういうこと教わったりしないの?」
「なっ!するわけねーだろ!?」

ま、キルアの場合は年相応にそういうことに興味があるらしい。
だから好奇心で色々な知識を持ってはいるんだろう。それが普通だよな。
クラピカは逆に知識ばっかりでめんどくせータイプだろうが。
それはまあいいとして。

「………のヤツ、これ必要ねえって言ってたよな」
「?うん」
「キルアの話では、一度捨てたようでもあったしな」
「あんだけねーちゃんたちに囲まれておきながら必要ないってのはどういうことだ」

まさか。そういうのしてると気持ち良くねえから、とかそんな理由か…?
それはまずいだろ、なんてーか色々と。







しん、と部屋が静まり返って会話が途切れしばらく。が部屋に戻ってきた。
どうやらあのまま風呂に入ってたらしく、濡れた髪をタオルでふいてる。
こっちの妙な空気に目を瞬いて、不思議そうに首を捻った。
この空気はお前のせいだぜ、と言うこともできず俺はとりあえず牛乳を差し出す。
それを受け取ったは、のんびりとした動作で椅子に座った。

「……あのよ」

俺が恐る恐る声をかけると、焦げ茶色の瞳がこっちを向く。
よ、よーし、ここは医者の卵としてきちんと言ってやらにゃ。

「さっき渡されたアレなんだが。…お前、どんな付き合い方してんだ?」
「………付き合ってるひとはいない、って前にも言わなかったか」

そりゃ特定の恋人はいないんだろう。けど、そうじゃねーだろ?
男女の大人の関係を持つなら、それなりにルールってもんがあるだろうが。
それに色々と面倒なことになるのは避けた方がいいに決まってる。

「それに、俺は……」
「俺だから言わせてもらうが、お前はもう少し自分も他人も大事にした方がいいぜ」
「…レオリオ」
「他人を傷つけることで、どうせお前も傷つくんだろ。だったらそういうのはヤメロ」

何を言われてるかわからない、といった表情の
こいつは生きてきた道がすでに普通じゃねえから、根本的なところで理解できないんだろう。
考え込むようにして、けど率直な感想を言ってきた。

「変に壁がない方が、いいよな」
「おまっ…!」
「ただ楽しめる関係が、好きだ」

そりゃ、そのままでできる方が気持ち良いんだろうが。
真顔で言っちまえるこいつはホント、どこか壊れてるんじゃないかと思う。
普通、っていう言葉に憧れてるくせに、一番遠い場所にいるんじゃねえかって。
そう感じるたび、俺は泣きたくなってくるんだぜ。見てて、妙に歯がゆくてよ。

「ありがとう、レオリオ」
「な、何がだよ」
「…いや、良い仲間を持ったなと思って」

なのにそんな風に笑ってみせるから。
余計にやりきれない気持ちになるんだ、この俺が。

黙ったまま会話に加わってこないクラピカたちも、きっと同じ。







翌朝、目が覚めたらはすでにいなくて。
クラピカが言うには朝食の準備をしてるらしい。またアンちゃんと一緒か。
そんでもって何の気まぐれか、キルアも手伝ってるとかなんとか。
マジか、毒でも入れやしねえだろうなあいつ。

「彼女にをとられてしまうようで、落ち着かないんだろう」
「お前も同じか?」
「………否定はしない」
「大丈夫だよ。だもん」

あっさりとゴンは言って、笑った。

「俺たちがの帰る場所になったらいいんだよ」
「ゴン…」
「待て待て。ここがあいつの帰る場所だって言ったのはお前だろーが」
「うん。けど、いくつあったっていいでしょ?大切なものが多いのって悪いことじゃないよ」
「…そう考えられるのはゴンの強さだな」

クラピカが苦笑するのも当然だろう。
普通は、大切なものが増えるってのを怖がる。守るものが増えるってことだしな。
失う怖さを知ってると、それ以上大切なものを増やせなくなってくるもんだ。
けどこいつは、当たり前のように大切なものを大切だと言い切って突っ走る。

その姿、俺もクラピカたちも忘れてた気持ちを思い出してきた。
………きっともそうなんだろう。

「メシできるってさー」
「ああ、いま行こうとしていたところだ。私たちも手伝えることはあるか?」
「皿と飲み物運ぶのやってほしいってさ」
「アンちゃんの朝ごはん、くう〜幸せだねぇ」
とキルアが作ったご飯でもあるよ」
「うるせー、そこは黙っとけゴン。男の料理って考えるより、可愛い女の子が作った料理って方がうまいだろうが」
「レオリオ、てめー食材にされたいか」
「手を変形させんな!!」

ぎゃあぎゃあと大騒ぎしながら顔を出せば、おはようと迎える淡々とした顔。
けど、その瞳は優しく微笑んでいることをいまは知ってる。

それだけで、とりあえずは十分だ。




妙に長くなりましたが、とりあえず10万ヒット記念話の第一弾です。
最後を綺麗にまとまれば許されると思った(おい)

[2011年 10月 3日]