アンが作ってくれた料理をおいしくいただいて(ホントうまかった!)
俺はクラピカと一緒に皿洗いをさせてもらってた。せめてこれぐらいはな、うん。
レオリオはゴンとキルアを連れて風呂に入りに行ってる。
…あの三人そろうと遊びはじめそうだけど、まあ今日は俺たちしかいないしいいか。
「やっぱり、ひとに作ってもらう料理はうまい」
「………私たちが作ることもあるだろう」
「もちろん、感謝してる」
けどさ、やっぱ女の子の手料理って特別だよなー。
じーちゃんに育てられたに近い俺は、ばーちゃんが死んでから女のひとの料理とは無縁で。
むしろひとに作ってもらうことが滅多になかったからな。自分で作るしかなかった。
じーちゃんに作らせてみろ。秘境の料理だ、とかいって謎な物体食べさせられるから。
俺たち男が作る料理と違って、女の子ってやっぱり繊細な食事を作ると思う。
なんだろうな、包丁の使い方ひとつとっても違うよなー。
ざくざく切る俺らと違って、こう…トントンと気持ち良い音がして…。
「朝起きたら誰かが食事を作ってくれる、ってのは憧れるな」
「………そもそもは、仕事の都合で朝に寝ることが多いだろう」
「…それもそうか」
いい加減運び屋は引退したいんだけど、結局ずるずると続けてる。
だ、だってさ、イルミからの依頼とか断れないじゃん!断ったら殺されそうじゃん!
それに普通に良いお客さんもいるし、常連もそこそこいるからなぁ…。
「今度、また私たちで朝食を作ろう」
「あ……いや、それは前ので懲りたし」
「あれは勝負事だったから失敗したんだ。冷静に皆で協力すれば問題ない」
「…協力できるのか?」
「してみせよう」
力強く頷いてるけど心配だなぁ。
クラピカだけならまだ良いにしても、こいつら四人で何かすると絶対ひと騒動ある。
その騒ぎで俺は気が気じゃない朝になりそうだ。平穏な朝が欲しい。
けど気持ちは嬉しいから、ありがとうととりあえずお礼を言っておく。
うし、これで洗い物は大丈夫かな。
んじゃ俺もそろそろ風呂に入るか。ゴンたちはもう上がってるかな?
できれば、ひとりでゆっくり湯船に浸かりたい。
「あ、さん。洗濯物あったら出しておいてくださいね」
「わかった」
廊下ですれ違うアンに頷いて、着替えをとりに今晩泊まる部屋へ。
すでに風呂上りのゴンたちがベッドでごろごろしてて、レオリオは牛乳をぐびぐび。
おお、日本人じゃなくてもそういうことするのか、って最初びっくりしたんだよな。
「みんな、洗濯物あったら渡してくれ」
「はーい」
「が洗うのか?」
「いや、アンが洗ってくれるらしい」
「アンちゃんか〜、可愛いよなぁ。料理もうまくて気配り上手。言うことなしだぜ」
「いらん妄想をしている暇があるなら洗濯物を出したらどうだレオリオ」
「いらん妄想ってなぁ…健全な成人男子なら当たり前のことだろ!な、」
ええ、俺にそういう話題振るなよー。
そりゃ実際に女の子と付き合ったことなんてないから?想像するしかできないけどさ。
でもそれがいかに虚しいことかわかるぐらいには年とってんだぞー。
しかもキルアやゴンの前でんなことに頷けるわけないだろ!
クラピカの顔も怖いし、レオリオのでれ〜っとした顔はひどいし。
俺は見てられなくて顔を背ける。ヤバイ、俺アンの前であんな顔になってたらどうしよう。
「俺には無縁のものだから、話を振るな」
「無縁って……お前どんな」
うるさいなー!!どうせ恋愛経験なんてねえよー!!
この話は終わり、とばかりに洗濯物を出せと手をひらひら振る。
素直なゴンはすぐにはい!と渡してくれた。よしよし、ゴンはそのままでいろよ。
キルアもなんだかんだできちんと洗濯物を出してくれる。
クラピカは自分で抱えているから、そのまま運んでくれるのだろう。
レオリオがばさばさと部屋を散らかしている間に、俺も今日の洗濯物を出そう。
旅暮らしに近い状態だから、そんなに荷物ないけど。
きちんと洗濯できる環境ならコートも洗っておこうかなぁ…だいぶ薄汚れてきてるし。
コート洗うならポケットの中身出しておこう、とがさごそ。
…あ、レシート入れっぱなし。小銭もじゃらじゃら出てくるな、財布に入れとかないと。
これは何のチケットの半券だ。ポケット多いからって入れすぎだろう俺。
がさ、と最後に触れたものに気づいて俺は一瞬動きを止めてしまった。
………やべ、これさっきシャンキーに押し付けられた…。
「?どうしたの」
「あ、いや。………レオリオ」
「あー?」
ゴンたちには見られないようにぎゅっと手に握りこみ、レオリオの前に。
ようやく洗濯物をまとめたらしい彼の手をとって、その手の平に強引に押し込んだ。
「俺は必要ないから、やる」
「?何をだよ…………って!これ!」
「何もらったの?」
「お前にはまだ早い!」
「えー」
「何なんだいったい」
「お前にはより見せられん!!」
確かにクラピカに見せたら大変なことになりそう、怒られるよなきっと。
慌てて後ろ手に隠すレオリオにクラピカは不審な表情。
いったい何を渡したんだ?と視線を向けられるけど、俺は洗濯物を抱えて部屋の出口へ。
ふははは、ここは逃げるぞ。チキンとでもなんとでも叫ぶがいい!
お風呂上りにすっきりして部屋に戻ると、妙な沈黙に満たされていた。
わしわしと髪をふきながら俺は目をぱちくり。え、いつもならもっと騒がしいのに。
どうしたんだろうか、と首を捻っていると椅子に座っていたレオリオが牛乳を差し出してきた。
テーブル挟んで隣の椅子に俺も座って、ありがたく牛乳をもらう。
やっぱ風呂上りはこれだよな!と口をつけると、あのよ…とレオリオが小さく声を発した。
「さっき渡されたアレなんだが。…お前、どんな付き合い方してんだ?」
「………付き合ってるひとはいない、って前にも言わなかったか」
嫌がらせか!いじめか!
神妙な顔して何聞いてくるかと思えば!
「それに、俺は……」
「俺だから言わせてもらうが、お前はもう少し自分も他人も大事にした方がいいぜ」
「…レオリオ」
「他人を傷つけることで、どうせお前も傷つくんだろ。だったらそういうのはヤメロ」
な、なんの話かいまいちわかんないんだけど。
えーと、これは俺を心配してくれてるんだよな?レオリオってなんだかんだ優しいから。
人付き合いの苦手な俺に、もうちょっと頑張ってみろって応援してくれてるんだろうか。
お前は誤解されやすいぞ、と高校時代の友人が忠告してくれてたし。
…やっぱ誤解から生まれるすれ違いとかって悲しいもんな。そうだよ、少しずつ。
「変に壁がない方が、いいよな」
「おまっ…!」
え?あれ?違った?なんかレオリオがすごい顔になってる。
俺どうしたって臆病だから、いつもひとに対して壁を作ってしまう。
ゴンたちとはもうだいぶ打ち解けたと思うけど、それでもいまだに緊張することはあるんだ。
「ただ楽しめる関係が、好きだ」
だから俺もみんなとそんな風になりたい。
ゴンならきっと、俺は一緒にいると楽しいよ?って言ってくれると思う。
キルアやクラピカも渋い顔で、まだ遠慮してるのかと言ってくれるだろう。
レオリオは一番ある意味で緊張しない相手なんだけど、俺はどうしても気後れしちゃって。
なのにこうして、あいつらからいつも手を差し伸べてくれる。
それはとても、とても幸せなことなんだ。
「ありがとう、レオリオ」
「な、何がだよ」
「…いや、良い仲間を持ったなと思って」
俺なりに、こいつらを大事にしていけたらいいなーなんて。
そんなことを改めて思った。
もうちょい続きます。
[2011年 10月 3日]