「好きなものを持っていってくれ」

積み上げられた本の山々に囲まれ、クロロが笑う。
俺はただそれに、はぁと生返事をすることしかできなくて。
これだけの本を前にすればいつもなら好奇心で胸がわくわくするのだろうに。
全くそんな気になれない自分に、小さく溜め息を吐いた。




えっと最初はなんだったっけ。シャルからメールがあったんだよな。
クロロが呼んでるって言う内容で、俺としてはすぐさま拒否りたかったんだけど。
わざわざシャルに伝えさせるってことは大事な用件なんだろうか、と思ったんだ。

クロロは俺の連絡先を知ってる。もちろん、教えた覚えはないんだけど。
でも俺はクロロからの着信は拒否している。いやだって、関わりたくないじゃん。
本当に用事がある場合は別の手段で連絡してくるから、困らないんだ。
今回みたいにシャルを経由してだったり、全然別の番号からだったりと色んなルートで。

「仕事かと思えば…」
「困る話でもないだろう?」
「そりゃ、本をもらえるのは嬉しいが」

クロロの部屋に山積する本はすでに足の踏み場もなくなりそうなほど。
…あれだよな、これ掃除を俺にやらせようとしてるよなこいつ。
いらない本を引き取らせようとしてるだけだよな、正直に言えこら。

「あ、
「ん?」
「これなんかいいんじゃない?<呪い教本>」
「何がどう良いんだ」
「ヒソカとか試しに呪ってみなよ。あいつ、喜んで呪われるだろうし」
「俺が嫌だ」

なんか妙な笑い漏らしながら痛みとか楽しんでそうじゃんか!

「<呪いコレクション100選>…?」
「ああ、有名どころが載ってるやつだな。けっこう信頼できるぞそれは」
「…これに載ってるものを見たことがあるのか?」
「興味を引いたものはとりあえず愛でたくなるだろう?」
「……そういうものか」

クロロの場合は愛でる=盗むだもんなー。
けど信頼できる、ってことは…本当に呪いアイテムなのかこれら。
いや、俺そんな情報いらねえよ。欲しいのは呪いの石版であって、呪いグッズじゃない。
あなたも簡単呪い講座、実践呪い返し、とかいらないから!

ぽいぽいといらない本を部屋の入口に投げ捨てていく。
そこでデメちゃんを構えていたシズクが次々と本を吸い込んでいた。
………おい、売ればけっこうな値段になる本じゃないのかこれら。

は普段、どんな本を読むんだ」
「俺?…歴史関連が多いと思うが」
「けどけっこう地理とか植物関連の本も読んでるよねー」
「調べてる土地に関係ある資料なら読むな。食べ物とかも、意外に情報の宝庫だったりする」
「面白みがあるのかいまいちわからんな俺には」

肩をすくめたクロロはまたも本を俺に差し出してくる。
これであなたも意中のひとをゲット!って、呪いでゲットすんのか!?
こえーよ!いらねえよそんな方法!
高速でそれをシズクの方へ投げ捨てる。吸え、吸ってしまえそんなもん!

「随分と面白そうな本だねぇ」
「………ヒソカ」

デメちゃんの口へと滑り込もうとしていた本を拾い上げたのは変態ピエロ。
…じゃなかった、ヒソカだ。
思わず俺が顔を歪めたとして、仕方のないことだろう。
ぱらぱらと中を確認したヒソカは、こっちを見て楽しげに口の端を吊り上げた。
ま、待て、落ち着け。まさか俺にそれを試そうとしてんじゃないだろうな!?

「クロロ、この本試してみたのかい?」
「試そうかとも思ったが、手に入らない意中の人間などいなくてな」

あ、ちょっといまの発言イラッときた。

「ふぅん、ならボクが試してみようかな」
で?」
「うん」

ちょっと誰か止めてえええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!

じりっと後退する俺から視線をはがし、本を読み続けるヒソカ。
やべ、どうしよう、逃げたい。でも入り口にヒソカ立ってるわけだし。
つーかシャルもクロロも止めろよ!なに見守ってんだよ!!

「まず、呪いたい相手の髪を……、髪ちょうだい」
「材料にされるとわかってて誰がやるか。そもそもお前にやるものなんぞない」
「相変わらずつれないなぁ。そういうところがソソるんだけど」
「お前に付き合うと本当に疲れるんだ、勘弁してくれ」
「何言ってるんだい。あの程度じゃ君は満足できないだろう?」
「………お前を相手にして、満足できる日なんてくるわけがない」
「そんなこと言わずにさ。僕はまだまだ足りないんだよねぇ。もっと君の色々な顔を見てみたいし、全部を知りたいんだ」

いやあああぁぁぁぁ、マジでやめてくれえええぇぇぇぇぇ!!
ヒソカが満足するまで戦えるわけないじゃんか!弱いんだぞ俺!
そんなに戦いたいならクロロとやりあってろよ!俺を巻き込むな!!
そんでもって、その変態趣向にゴンとキルアを巻き込むのもヤメロ。

俺が鳥肌を立てていると、クロロとシャルが無言で立ち上がった。
あれ、どうしたんだ二人とも。

「ヒソカ、前々から言いたかったんだけどさ」
「何だい」
に対してのその変態的な行動はどうにかなんないわけ?」
「うーん、無理」
に興味がつきないのは俺も同じだ。だからヒソカ、あまりちょっかいをかけるな」
「クロロも何言ってんの」

そこだー!もっと言ってくれシャルー!!
俺はいまのうちにさっさと本の整理終わらせるから時間稼いでてくれー!!
もう帰りたい、早く帰りたい。こんな場所いたくない。

……って、お、この資料良さそうじゃね?
呪いアイテムの中でも古代文明関連のがまとめてある。
書かれてるのも用途というよりは、その起源とか発見された場所とか現在の展示場所。
あ、これはもらっていこう。変なオーラもついてないみたいだし、普通の本だ。

えーと次は…って、これめっちゃ禍々しいオーラ放ってんですけど!?
こんなもんよく自室に置いとけるよな。俺ならまず手にとるのも嫌だ。
ていっとシズクの方へ本を投げて、次の本を物色。日が暮れるまでに終わるかなぁ。

「シャル」
「何?」
「手伝ってくれ、終わらない」
「ゆっくりしていけばいいだろう」
「俺は早く帰りたい」
「せっかく熱い夜が待ってるっていうのにかい?」
「だから帰りたいんだろうが」

お前と過ごす命がけのお泊りなんて断固お断りだ!!





10万ヒット記念のお話。
以前開催した茶会でいただいたリクエストを元にしております。
クロロと読書会、というリクエスト………だったはず(曖昧な記憶)

[2011年 10月 14日]