シャルナーク視点
「好きなものを持っていってくれ」
本の山を背景に笑うクロロに、が気のない返事を返す。
暇さえあれば本を読んでるヤツなのに珍しい反応。
まあそれだけ、クロロの呼び出しを面倒だと感じてるんだろうけど。
俺の予想を肯定するかのように、が溜め息をひとつついた。
「シャル、にホームに来いと伝えておいてくれ」
クロロにそういわれたのが発端なんだけど。
確かクロロはの連絡先を知ってて、あっちもクロロの連絡先をいまでは知ってる。
でもなんでかクロロはに着信を拒否されてるらしくて、普段は連絡のやり取りはない。
それでも連絡が必要なときはこうして俺を介してっていう形になるんだけど。
とりあえずにメールしてみれば、ものすごーく嫌そうな返信がきた。
こんなに嫌がられるって、クロロは何したんだろ。
俺は別にが無理に来ることはないと思ったんだけど、なんだかんだで彼は律儀だ。
結局は来ることにしたらしくて、それで現在に至るわけ。
クロロって団長として頼りにはなるけど、普段は割と変人なんだよね。
というかマイペース?旅団のメンバーほとんどそんな連中ばっかりだけどさ。
「仕事かと思えば…」
「困る話でもないだろう?」
「そりゃ、本をもらえるのは嬉しいが」
クロロがを呼び出した理由は、部屋を埋め尽くす本を処分するためだったらしい。
とりあえず俺も手近な山に近づいて背表紙を目で追ってみる。
「あ、」
「ん?」
「これなんかいいんじゃない?<呪い教本>」
「何がどう良いんだ」
「ヒソカとか試しに呪ってみなよ。あいつ、喜んで呪われるだろうし」
「俺が嫌だ」
きっぱりはっきり即答してきた。まあ気持ち悪いよねーあいつ。
諦めて物色することにしたのか、も近くの本をとってぱらぱらとめくったりしている。
「<呪いコレクション100選>…?」
「ああ、有名どころが載ってるやつだな。けっこう信頼できるぞそれは」
「…これに載ってるものを見たことがあるのか?」
「興味を引いたものはとりあえず愛でたくなるだろう?」
「……そういうものか」
興味のない様子で次々に本を眺めては捨てていく。
部屋の入口にはシズクがいて、不要と判断された本をデメちゃんで吸い込む。
躊躇いなく捨てていく姿はいっそ清々しい。
目的がはっきりしているのか、それ以外のものには目もくれないみたいだ。
そんな様子に興味を覚えたのか、クロロが座る場所を作りながら口を開いた。
「は普段、どんな本を読むんだ」
「俺?…歴史関連が多いと思うが」
「けどけっこう地理とか植物関連の本も読んでるよねー」
「調べてる土地に関係ある資料なら読むな。食べ物とかも、意外に情報の宝庫だったりする」
「面白みがあるのかいまいちわからんな俺には」
まあ、俺らからすると地味に思えるよね。
けどそれを読んでるときのって本当に楽しそうなんだ。他の奴らに教えるつもりはないけど。
クロロは何か見つけたのかまた本をに差し出した。
えーと「これであなたも意中のひとをゲット」…って、なんでこんな本持ってんのクロロ。
そういうことに不自由していないらしいも無関心で、すぐさまシズクの方へ本を捨てた。
けど、それをすっと拾う手がある。
「随分と面白そうな本だねぇ」
「………ヒソカ」
あれ、なんでここにいるんだろう。こいついる予定だったっけ?
がいるとこにはいつの間にかいるんだよねー。もうストーカーの域って感じで。
ものすごく嫌そうにが顔歪めてるよ。普段無表情なのに。
その視線も気持ち良さそうに受けたヒソカは、拾い上げた本をぱらぱらめくる。
そしてをちらりと見て、ニタァと笑った。
「クロロ、この本試してみたのかい?」
「試そうかとも思ったが、手に入らない意中の人間などいなくてな」
クロロとヒソカが会話してる間にものオーラが揺らめきはじめてる。
「ふぅん、ならボクが試してみようかな」
「で?」
「うん」
ぶわりと拒絶するように刺々しくオーラが迸った。
臨戦態勢にも近い状態でがヒソカから距離をとる。
あーまあねー、こんな変態に付きまとわれたらうんざりするよねー。
「まず、呪いたい相手の髪を……、髪ちょうだい」
「材料にされるとわかってて誰がやるか。そもそもお前にやるものなんぞない」
「相変わらずつれないなぁ。そういうところがソソるんだけど」
「お前に付き合うと本当に疲れるんだ、勘弁してくれ」
いつも思うんだけど、この「付き合う」って単語さ。どういう意味合いのものなわけ?
「何言ってるんだい。あの程度じゃ君は満足できないだろう?」
「………お前を相手にして、満足できる日なんてくるわけがない」
「そんなこと言わずにさ。僕はまだまだ足りないんだよねぇ。もっと君の色々な顔を見てみたいし、全部を知りたいんだ」
ヒソカって男でもいけそうだよなーと思うし。
は普通に女しか相手にしないだろうけど、男相手の経験があっても驚かない。
どこからどう見ても立派な成人男性なんだけどさ、妙に色っぽいとこあるから。
女装とか違和感なくできちゃうぐらいだしね。
ヒソカがそういう意味でを狙ってんなら、ちょっと面白くない。
そろそろ何か言ってやろうかと腰を浮かせると、なんでかクロロも立ち上がった。
なんでクロロまで立ったのか知らないけど、言いたいことは言っておこう。
「ヒソカ、前々から言いたかったんだけどさ」
「何だい」
「に対してのその変態的な行動はどうにかなんないわけ?」
「うーん、無理」
ヒソカのおかげではもちろん、マチも不機嫌になって面倒なんだけど。
「に興味がつきないのは俺も同じだ。だからヒソカ、あまりちょっかいをかけるな」
「クロロも何言ってんの」
頭湧いてんのかこの二人。
呆れて半眼になる俺の後ろで、はまた本を物色しはじめてる。
どうやらこの話題に付き合う気は全くないらしい。淡泊だ、相変わらず。
「ちょっかいをかけるなと言われてもねぇ、おいしそうな果実があったら味見したくなるものだろう?それを邪魔しないでほしいね」
「変な虫に食われれば果物は傷む」
「………あのさ、二人ともすごく気持ち悪いんだけど」
発言がおかしいよ、いろいろと。
笑顔で会話しながらオーラが二人そろって禍々しいんだけど、やめてくんない?
俺は俺で、と過ごす時間を気に入ってるんだからそれを邪魔されるのは面白くない。
これは一度ちゃんと言っておくべきかな、と思案していると。
俺たち三人のちょうど真ん中に、割って入るように本が投げつけられた。
振り返れば作業を続ける背中が見えて。
こちらを全く見ないまま、淡々とが俺を呼んだ。
「シャル」
「何?」
「手伝ってくれ、終わらない」
やっぱりあの二人にはも辟易してるらしい。
そういうことなら、と俺も手伝うために傍に腰を下ろした。
「ゆっくりしていけばいいだろう」
「俺は早く帰りたい」
「せっかく熱い夜が待ってるっていうのにかい?」
「だから帰りたいんだろうが」
二人ともうるさいから、さっさと引っ込んでくれない?
が声をかけたのは俺なんだしさ。
そんな優越感を感じた、ある日のこと。
シャルが良い思いして終わった…。
[2011年 10月 14日]