えーと、さ。
ゴンたち一行と旅をしていた俺は、なんでだか料理対決の審判に選ばれてしまいました。

………え、なんで?どうしてそういう流れに?

記憶を辿れば朝のこと。
昨夜は野宿だった俺たちは釣りをしたり木の実を集めたりで朝食を作り上げた。
そこまではいつも通りだったのに、なんでか誰が一番料理が上手いかという議論が始まって。
結果、近くの町まで辿り着いた俺たちは料理勝負をすることに。

「どうして俺は勝負に参加しないんだ…?」
が料理うまいのは知ってんだから、意味ねーじゃん」
「私たちにだって料理ができること、しっかりと確認してくれ」

別に出来ないと思ったことはないんだけど。
いや、まあ…ゴンとキルアはな?まだ子供だし、出来なくても問題ないと思う。
クラピカもレオリオも一般的に問題ない程度には料理の腕はありそうだし。
だからそもそも、なんで勝負に。みんなで作ればいいじゃん。

「じゃあまずは材料の買い出しだね」
「あぁ、それぞれ予算内におさめること。食材を購入した者から調理に取り掛かる。いいな?」
「おう、このレオリオ様の腕を見せてやるぜ」
「どうせまた食べる価値もない、って投げ捨てられんじゃねーの。スシんときみたいにさ」
「んだともういっぺん言ってみやがれキルア!」
「もー、そろそろ行こうよキルア」
「レオリオもだ。時間を無駄にするな」

そうして四人は賑やかに部屋を出て行ってしまった。取り残される俺。

「………どうしてろと」






買い出しにもそれぞれ個性が出てて面白い。
予算内ぴったりで帰ってきたクラピカや、値切りに値切って大量に買い込んだレオリオ。
自分の好きなものばっかり買ってるキルアとか、逆に野菜メインのゴン。
……つかゴンのあれはどっかで摘んできたやつだよな。山菜、とか?
ゴンのことだから、ちゃんと食べられるものなんだろうけどちょっと不安だ。

広めのキッチンがあるホテルを選んだのだが、それでも四人が作業するとなると狭い。
食事用のテーブルも利用してそれぞれ作業を始める。

俺は相変わらずすることがないわけで、さっきから携帯でイルミとメール。
……イルミ仕事中らしいんだけど、こんなメールのやり取りしてていいのか?
キルア料理中、とタイトルつけて写メを送信。秒速で返信があって、ちょっと怖い。
えーとなになに?『ズルイ』って一言だけなんですが…えーとイルミさん?

ピルルルルルルルル

「…おいおい」

まさかの着信に俺は寝そべっていた身体を起こした。
ソファの背もたれに寄りかかりながら、とりあえず通話ボタンを押して耳にあてる。

「お前、仕事中じゃないのか」
『ズルイ』
「………いや、そう言われてもな」
『俺だってキルの手料理食べたことないのに』
「………………それは悪かった」
『母さんも発狂するよ』
「…怖いほどの愛だな」
『うん。あのキル溺愛ぶりはすごいよね』
「お前に言えたことか。好きなら好きってはっきり言え、伝わらないだろ」

がしゃーん!!

凄まじい音が響いてぎょっと視線を動かせば、散らばる小麦粉。
ちょ、白くなってる!粉舞ってる!むせるって!

『何』
「…いや、なんか料理に手こずってる」
『慣れないだろうからね』
「お前は料理できるのか?」
『人間を刻むのは得意だけど』
「それは料理じゃない」
『串刺しとか』
「………いい、もう料理しようとするな」

なんで人間を殺すこと前提なのこのひと!?いや、知ってたけどっ。
っていうかイルミさん、本当に仕事大丈夫?
けっこう幅広くなんでも請け負ってるけど、基本は暗殺業。
静かにしてないとまずいんじゃなかろーか。

「俺と電話してる暇あるのか?」
『うん、終わったから。そっち行ってもいい?』
「こっちに…いまから?」
『キルの料理食べたい。母さんに自慢しようかなって』
「お前はどんだけ嫉妬してんだ。……気色悪い」

ばっしゃあぁぁぁ!!

ちょ、今度は何ー!?
と思って振り返れば、床にまき散らされた生卵たち。
お、おいおい、せっかくの食材がもったいないだろちゃんと料理しろよ。

な、なんか電話してる場合じゃなくね?

「電話切るから」
『………』
「あーわかった、気が向いたら付き合ってやる。だからいまは諦めろ」

イルミがキルアに頼んだところで料理なんてしてくれないだろうけど。
俺からもお願いすればどうにかこうにか頷いてくれるかもしれない。
とりあえずそれで勘弁してくれないかな…!ここに来られても困るんだよ…!
キルアは不機嫌になるだろうし、クラピカとレオリオは間違いなく警戒する。
ゴンは………どんな反応に出るんだろうな。意外に想像つかないぞ。

てか、俺が怖いんだよ!!(超本音)
いま電話だからそんな緊張しないけどさー、面と向かって話すとマジ怖い。
いつ殺されるかといっつも冷や冷やさせられて泣きそうになる。

『じゃあ約束。破ったらヒソカにの家教えるから』
「………おい」
『じゃ』

って勝手に切りやがった!
ヒソカに家知られたら夜逃げするしかないじゃんか、勘弁してくれ。

「………というかお前たち」

溜め息混じりに惨状へと視線を向ける。
なんていうかさ、ホテルのひと本当すいません、って感じなんだけど。
これは掃除大変なんじゃないか…?材料飛び散りすぎ。
何を作る気だったんだよ、と呆れながら腰を上げる。

「ゴン、残ってる食材集めてくれ」
「うん」
「とりあえずみんなでここの掃除だ。こんな有様じゃ料理どころじゃない」
「面倒くせー」
「それが終わったら、全員で役割分担して作るぞ」
「おいおい、勝負はどうなっちまうんだよ」
「勝負どころじゃないだろ。それに、みんなで作った方が早いし、きっとおいしい」
「………そうかもしれないな」

何やら物憂げな溜め息を吐いたクラピカは、掃除するぞとみんなを促した。
ゴンは無事な材料を集めてくれて、それで何が作れそうかを考える。

「あ゛ー!!小麦粉がこびりついてマジ最悪!!」
「ってキルアてめえ!こっちに飛ばすんじゃねえ!」
「二人とも、遊んでいる場合ではないだろう。早く終わらせろ」
「ならお前がやれよクラピカ!」
「私は生卵の処理で手一杯だ」

…なんか、掃除すらもまともに終わるか不安になってきたぞ。

、何作るの?」
「ん?そうだな…割と手間のいらないお好み焼きでもするか」
「おこのみやき?」
「俺の故郷の料理なんだが……さすがにプロの味にはならないけど、うまいと思う」

それにお好み焼きながら俺だけじゃなくてみんな参加できるだろうしな。
材料はキルアに刻んでもらうとして、焼くのは…レオリオに頼んでみるか?
交代交代でやってもいいしな。鉄板ないからフライパンで代用するしかないのが難点だ。
でもま、本場の料理をする必要はないんだからいいよな。
………あー、久々にお好み焼き食べたくなってきた。ジャポンにあるかなー。

「なあ、
「どうした?」
「その…さっき電話してた相手って」

げ、まさかイルミだって気づいてたとか?さすがキルア。
嫌そーな顔してるキルアに、俺はどう答えたらいいかわからず視線をあらぬ方向へ。

「………聞くな」

わかってるだろ、わざわざ言わさないでくれよ。
っていうか名前出したら「や」とか顔出しそうじゃんヤだよ!!

「ふー、なんとかこれぐらいで勘弁してもらおうじゃねえか」
「…まあ、いいか。それじゃ役割分担だけど」

野菜をゴンに洗ってもらって、それをキルアに切ってもらう。
焼くのはレオリオにやってもらうとして(途中キルアとゴンがやりたがった)
最後の仕上げはクラピカに。あ、最初はこんな感じーって俺がやったけど。

本場のものとは違う味にはなったけど、でも十分おいしくて。
みんなで食べられることがただ嬉しくて。

こんな毎日が、続くといいなーって思うんだ。



………まあ、あんまり騒がしいのは勘弁だけど。






10万ヒット記念のお話。
茶会でいただいたリクエストを元にしたお話。
1万ヒット記念で書きました「おはよう」の続編です。

…結局、勝負にならなかった(笑)

[2011年 10月 30日]