いきなりピンチから始まった1周年記念話。
[2012年 4月 10日]
全部、一瞬のことで。
俺もキルアも、クラピカやレオリオだって何が起きたのかわからなかった。
しっかりとこの目で全部見ていたはずなのに、心が拒絶したんだと思う。
そんなことあるわけない、って信じたくなかったんだ。
だからスローモーションのようなそれを見ても、理解ができなくて。
「……っ……!!」
そう叫んだのは誰だっただろう。
ゆっくりに思えた時間が急に本来の速度を取り戻して、どさりと音がする。
長身の体が地面に横たわっていて、腹部にはやたらと装飾されたナイフが刺さっていた。
なら簡単に避けられただろうにそれをしなかったのは。
俺たちを、庇ったから。
「おい!!」
「動かすな!ナイフも抜くんじゃねえ!!」
「………あの野郎」
「キルア…?」
「許さねぇ」
ぽつりと呟いて、キルアはひどく冷たい目を見せた。
キルアを取り巻くオーラが揺れて、それは重く禍々しいものを感じさせる。
ヒソカの放つオーラに少し似ている。それぐらい、肌に痛い。
の応急処置をするレオリオとクラピカも、異変に気付いたみたいだった。
俺が名前を呼んでもキルアは反応しなくて。
ナイフを放った敵を見据え、その爪を変形させた。
といっても敵はもう逃げようとしてるところで、さっきのは最後の一撃だった。
だから姿は見えないんだけど、キルアはそれでも追うつもりらしい。
多分、敵を殺すために。
ぐっと膝に力をためたキルアの手を、不意に誰かがつかんだ。
周りの見えていないはずのキルアは、その手にびくりと身体を揺らす。
「………キルア……俺は、大丈夫」
「……っ……」
「、そのまま意識を保て。眠るんじゃないぞ!」
「そうだぜ、ここで寝たらおしまいだからな。おいクラピカ、ナイフを固定する。布よこせ」
「わかった」
うっすらと開いた瞼。その間から覗く焦げ茶の瞳は、いつも通りの色で。
キルアの手をつかんで、かすれた声で言う。
「…敵討ち、なんてしなくていい」
「けどっ」
「それより、病院………シャンキーのところに…運んでくれ」
死ぬつもりはない、という意思が感じられてレオリオもクラピカもほっとしてる。
そうだよ、このぐらいでがどうこうなるわけがない。
まだぼんやりしてるキルアの背中をばしんと叩いて、俺はの携帯を探した。
ようやく我に返ったキルアがすぐに携帯を発見してくれて、アドレス帳を開く。
シャンキーって言うのは、がお世話になってるお医者さん。
お金がないひとには無料で診察をする、レオリオの夢を現実にしたような先生。
金持ちからはぼったくるから、良心的とは言えないよ〜?って言ってたけど。
「もしもし!いまからそっちに運んでくから!!」
電話が繋がったと同時にキルアが怒鳴る。
それじゃ状況も何もわからないよ、と思うけど誰も止めなかった。
俺たち全員、それぐらい焦ってたから。
の額には汗が浮かんで、呼吸がどんどん弱くなっていくのがわかる。
レオリオが止血したのに、布がどんどん赤く染まっていく。
「レオリオ、俺が先にこいつ連れてく」
「連れてって…おいまさか」
「神速(カンムル)を使う」
ぱり、とキルアの周囲を電気の波が泳いだ。…手にしてる携帯無事かな。
≪神速(カンムル)≫っていうのはキルアの念能力。
電気の力を使って、限界以上の速度を生み出す力だ。確かにそれなら、一番早い。
レオリオとクラピカがを電気を通さない材質のもので包む。
うん、これならキルアが抱えても感電しないで済むよね。
「キルア、頼む」
「あぁ」
を抱え上げて、キルアはあっという間に見えなくなった。
シャンキーの病院は俺たちも行ったことがあるから、合流できる。
「俺らも向かうか?」
「待て。その前に敵に制裁を加えるのが先だ」
「おいおい、物騒なこと言うんじゃねえよクラピカ」
「また狙われては困る。危険の芽は摘むべきだ」
そう話すクラピカは怒ってるけど、でも冷静さを失ってはいない。
だから大丈夫だと思った。多分、クラピカなら相手を殺さないで解決してくれる。
そう思えたから、俺もうんと頷いた。
「ちゃんと解決して、それから病院に行こうよ。のことはキルアに任せて」
「お前ら…あーくそ!俺だけ落ち着かなくてみっともねぇ」
「そんなことないよ。レオリオの優しいところ、俺好きだよ」
「んなっ!?好きとか簡単に言うんじゃねえや!」
「………敵はあちらだな」
右手の薬指から下げられた鎖がひとつの方向を示す。
俺たちは足早にその方向へ駆け出した。
早く片付けて、のところに。
いきなりピンチから始まった1周年記念話。
[2012年 4月 10日]