−ケーキ屋視点−

「いらっしゃいませ。2名様でよろしいですか?」
「ああ」
「お煙草は」
「吸わない」
「ではご案内します」
 
 こうやって案内する青年と少年連れは、一応常連客なんだけど。
 時々、うちの店に来ては、銀髪の少年が美味しそうにうちのケーキを食べていく。
 勿論男性も、食べてくれているのだけれど、その表情は、寧ろ弟さん? の食べている姿を微笑ましく見守っている様子で。

「とりあえずショートケーキ!」
「今日のオススメは?」
「店長はタルト・オ・ポンムが最高に似合う、といってますが」
「じゃ、それを」
「かしこまりました」

 彼らのいつもの注文。銀髪の少年は、ひとつめはショートケーキを必ず注文し、青年はオススメを訊いてくる。
 もはや慣れたものだけれど、楽しそうに話をするのは、とても微笑ましい。
 椅子が、少年には少し高すぎるのか、足をぶらぶらとさせ、何かを青年に向かって話している。
 青年も、少年を諌めることなく、自由にさせ、やわらかい笑みで話を聴いている。

 それにしても、今日の店長のオススメは、タルト。
 年中出回っている洋酒漬けではなく、生のりんごを直接型に入れて焼いているタイプだから季節商品であることには変わらないのだけれど。
 なんで、『最高に似合う』という表現をするかな、あのひと。普通にオススメすればいいじゃない。
 まぁ、いまでは旬を逃しても、りんごくらいは入手可能だから、季節商品、といっても、名ばかり。
 普通に、フルーツタルトやフルーツケーキのデコレーションには年中居座っている果物だ。
 ま、地元の旬、が一番美味しい、という店長の言葉は否定しないのだけれど。
 ということは、今日は特別『焼きりんご』に適したりんごが手に入ったってことなのかな。
 別に、当初から今日のショーケースに並ぶ予定にあったわけでなし、気まぐれに店長が焼いたのだから。

 ふと、紅茶を蒸らす手を休め、ちらりとふたりに視線を向ける。
 やっぱり、そんな風には見えないんだけどなぁ。
 彼らが、うちの常連になってくれて、結構経つ。噂では、天空闘技場の出場者らしいのだけれど。
 どこからみても、仲の良い兄弟。あんまり似てない兄弟だけれど。
 ころころと変わる少年の表情は、本当に幸せそうで。そんな殺伐とした世界で生きているようには見えない。

 紅茶を蒸らし終わって、店長から店内用のデコレーションをしたショートケーキとタルトのプレートを受け取る。
 淹れたての紅茶は、自分でいってはなんだが、いい香りがする。やはり、ケーキには紅茶だろう。ま、たまにコーヒーで、という方もいるけれど。
 ケーキを運ぶと、いっただっきまーす、と少年は元気よくフォークを突き刺す。うん、相変わらず可愛らしい。本人にいったら、怒られそうな年齢かな?
 青年の方を見れば、その様子を一通り見守った後でタルトに手をつけていた。
 もぐもぐと咀嚼されるケーキを、どんな気持ちで食べているんだろう?
 うちをリピートしてくれるくらいには、好いてくれているんだと思うけど。

「仲良いよね、あの兄弟」
「ですよね。弟さんの方がケーキ好きなんでしょうか」

 作業場から出てきた店長兼パティシエに話しかけられて、それに返す。
 何をしてなくても目を惹く兄弟だから、あのふたりだと判ってそれに応える。

「いや。お兄さんも相当うちのケーキ好きと見るね」
「え?」
「作ってる僕がいうのもなんだけどね。この間、別の、彼と同じくらいの歳の青年と一緒に来てたから」
「あれ、弟さん以外とも来たんですか?」
「あ、そういえば君が入ってない日だったかな。でもやっぱり、目を惹く子だったよ」
「・・・・・・それは見てみたかったです、店長」
「あ、写メ撮ったけど見る?」
「あー、良いですね! っていうか、お客さん隠し撮りなんかしていいんですか、店長!」
「あははは、ここは僕の城だから〜」

 そういって作業場に戻っていく店長に、確かにここはあなたの城ですけどね、と呟きながら入り口のベルが鳴ったのを耳にして営業スマイルを浮かべる。

「いらっしゃいませー」

 ショーケースを覗き込むお客さんを前に、お勧めのケーキを紹介しながら、ふと考える。
 そういえば、今日のタルト、やけにデコレーションが豪華だったような・・・・・・・?
 いや、店で食べてもらう分には、多少の装飾をするのが常なんだけれど、それが、いつもより豪華だった。
 丁寧にキャラメリゼされた表面が熱い内に添えられたバニラアイス・・・ミントの葉・・・・・・。
 ひょっとして、それで帳消しになさるつもりですか・・・・・・店長????






−蕎麦屋視点−

 時計塔広場を通り過ぎようとしたときに、目を奪われました。
 って、今の私はそんなことしている場合じゃなくって、遅刻遅刻ーーーーーーーっ!!!

 ピッとカードを通して息をつく。何とかぎりぎりセーフ。
 猛ダッシュしたせいで乱れた息をロッカールームで整えて制服に着替えて、手洗い。
 一応コレでも飲食店勤務ですからね。

「せんぱーい」
「ん? どうしたの?」
「今案内した人の注文、取ってください・・・」
「は?」
「セットはしてきたんですけど、注文訊きにいく自信がなくて」

 そんな後輩の姿に、私は首を傾げる。
 あれ、この子、いつもはこんな事いう子じゃないのにな。寧ろ率先してオーダー取りに行ってくれるのに。
 何なんだろう? そんなに強面??
 確かにこの辺、そういう人もいない事はないけど、私たち接客業はお客さん選んでらんないよ?
 ため息をついて、その子のいう、テーブルへと向かう。
 ―――あれ? この人たち、先刻、時計塔広場で会ったような・・・・・・? あれ??

「ご注文はお決まりでしょうか?」
「俺、温かい蕎麦」
「同じで」
「かしこまりました。少々お待ち下さい」

 短い時間でしたが、再会をありがとうございます、神様!
 というか、強面じゃないじゃん。凄く良い! あ、だからか。動悸息切れしちゃって平静が保てなかったのか、あの子。
 良いよね、あの良い感じの青年ふたり連れ。通り過ぎたときに二度見しちゃうくらいには凄く良い。
 こういう接客業してるとたまにあるんだよね、こういう体験。役得役得。
 オーダーを厨房に通して、他のテーブルも回るものの、やっぱり気になるあのふたり。

「お待たせしました。ごゆっくりどうぞ」

 そういって出来たての蕎麦をテーブルに置けば、どうも、と返ってきて。
 それに関しては、にっこりと微笑むことが常だ。―――が、何だか嬉しくて営業スマイルがうまく出来てる自信がない。
 うぅぅ、何たる失態! たとえ有名人が来ようとも、知らないふりして通すのが接客の鉄則なのにっ!
 でも、あの人たち、有名人なのかな。顔のつくりは整ってるけど。

「ね、あの人たち、テレビかどこかで見た?」
「んー、私は憶えがない」
「あれだけ顔が良かったら、みんな憶えてますよ」
「だよねー。じゃぁ、一般の人なのかな?」

 でも、あの身に纏っている空気。あれは常人には纏えないものだと思うんだけどなぁ。
 遠くからでも目を奪われる。近くに行ったら尚感じる、あの空気。
 何だろう。あれが、念能力、ってやつなのかな。うーん、でもあまり怖い感じはしなかったけど。
 美味しそうに蕎麦をすする様は慣れていて、あれは作法は独学ではなく、本当に幼いときから自然に身に付いたようで。
 あの黒髪のお兄さん、ジャポン出身なのかな・・・・?
 そんなことを考えているうちに厨房から出来たての蕎麦が上がって、お客さんに届けなければいけなくなる。
 まぁ、いっか。そんなことを考えていても、私にはどうにも出来ないのだから、私は私の仕事をこなそう。
 何しろ蕎麦は、のびる前に食べてもらわないとだもんね!




「うっそ・・・・!」

 帰ってネットのニュースを見ていたら、今日来たお客さんの金髪の方が載っていて。

「幻影旅団? のシャルナーク?」

 あわー、まさか盗賊として名高い一味の青年だったとは。
 手配書にばっちり載っている、シャルナークの顔写真は、今日会った印象とは少し違うが、同一人物。
 もっとやわらかい印象を、今日は受けたんだけどなぁ。

「じゃぁ、一緒にいたのもメンバー?」

 そういってネットに載っている手配書を探すが、黒髪の青年はいない。

「んー、じゃあ、どういう関係なんだろう?」

 濡れた髪を拭きながら、そんなことを考える。
 明日は明日で、また忙しくなるだろうけど、またいつかくるかな、このふたり。







3万ヒットのお祝いに海梨様からいただきましたよヤッホウ!!
一般人から見た主人公のお話、ということで。
彼はこんな風に見えてるのかぁー、とにやにやが止まりません(笑)
どうしよう、このときめき…!!

[2011年 6月 26日]