第197話—フェイタン視点
暇つぶしに入ったゲーム。
ごちゃごちゃとルールがあると案内時に言われたものの、自分たちには関係ない。
フィンクスと始めた“お遊び”はあくまでも暇を潰すためだけのもの。そう思っていたのだが。
「ヒイィ!た、助けてくれ!全部、カードなら全部やる!!だから命だけは!!」
目の前の獲物も、とっくに聞き飽きた鳴き声を上げるばかりでつまらない。
けれど面白そうな場所にまで案内してくれたことについては褒めてやってもいい。
大量の荷物を両手に抱えた男は、妙に久しぶりに会うような気がする。
実際はヨークシンでの騒動からさして日は経っていないのだが。まあ自分にとってはどうでもいいことである。
いますべきは一人でも多くプレイヤーを狩るというミッションの続行。フィンクスに数で負けるわけにはいかないのだ。
「無理ね。どちらが多く狩れるか競争してる。お前殺すよ」
怯え切った獲物に一言宣言し、少し離れた場所にいる男へ目を向けた。
先手を打っておかなければあいつはすぐにいなくなる。そうやってクロロやヒソカはいつも煙に巻かれていた。
「、動いたら殺すね」
ちらりと振り返った視線は相変わらずの冷めた焦げ茶色。それが渦を巻くように濁る。
わずかにピリリと走る殺気は心地良いほどで、少しばかり機嫌が浮上した。
おかげで足元で鳴く虫の声も気にならない。
「殺ったら、ポイント何倍になるか」
「知らん。物騒な競争に巻き込むな」
フィンクスに連絡してルールを新たに決めるのもアリかもしれない。
がここにいると知ったら「俺もそっちに行くぜ!」と言い出しそうなのが面倒ではあるが。
「い、いやだ、しにたくない……!」
だというのに虫けらが割って入る。
歩くこともままならないプレイヤーが腕だけで近づいていくが、は冷たく見下ろすばかり。一言だって発することもない。
黙って見下ろすだけの男に恐怖心はあるのだろうが、殺気がないため必死に希望を見出そうとしているのかもしれない。
いつまでも騒がしいゴミをいい加減黙らせるか、と一歩を踏み出した。せっかくのお楽しみが転がり込んできたのだから、もうこれはいらない。
その間に震えるプレイヤーがの足に縋りついた。刹那。
眼前に黒い塊が迫り視界を遮る。
それが蹴り飛ばされたプレイヤーであると気付くのに半瞬遅れた。
がやったのだ、躊躇いなく。それこそ石ころを転がすようにして。
ほんの半瞬とはいえ視界が遮られることはのようなレベルの相手において命取り。
ゆえに身体は勝手に動き目の前の塊を弾く。
「邪魔」
「グハァッ……!?」
のオーラが蠢いているのが感じられた。
流れるように膨らむオーラにこちらも戦闘態勢に入る。知らず口角が持ち上がった。
この男と本気でやり合ったことはない。機会があれば殺してやりたいと何度も思っていたのに。
個人的な思い入れがあるわけではない。好きも嫌いもない。
ただこれと戦ったら退屈はせずに済むだろう、という興味があった。
せっかく訪れた機会、存分に楽しませてもらおうと狙い定めたと同時。
「クアアァー!!!」
「!チビ!?」
から飛び出した小さな影、恐らくは生き物だろう。
それが巨大な火炎を生み出しこちらへ放った。幻覚でもなんでもない、肌を焼く熱が迫る。
これを受けた痛みを返してやるのもいいが、そうするとあっという間に戦闘が終わってしまい面白くない。
という思考が、咄嗟に後ろに飛び退くという回避方法を取らせてしまった。
火炎が霧散した後、もうそこにの姿はない。
両腕に抱えていた荷物のひとつすら、落ちてはいなかった。
自分もまた煙に巻かれたのだ、と気付いた頃には獲物は去った後。
運び屋という職業ゆえか、の移動速度は尋常ではない。
あの男が本気で姿を消すと、準備もなしに見つけることは難しいとシャルナークが語っていた。
人探しなんてものは壊滅的に向いていないため、苛立ち混じりに舌打ちするのみ。
この苛立ちは後に合流したフィンクスにぶつけることになり。
抗議する同胞と乱闘が始まったのは当然の流れであった。誰もいなければマジギレ御法度のルールも適応されない。
その点においては、フィンクスという男とは過ごしやすいのであった。
ちなみに蹴り飛ばされたプレイヤーは重傷ながらなんとか逃げ延びています。
[2024年 3月 15日]