貴女視点
「なん……で?」
聞こえてきたのは私の声なのに、妙にかすれて辛うじて言葉を形成しただけ。
瞬きを忘れて目の前の光景を凝視することしかできなかった。だって、だってだって!
いま見えているものが現実として受け入れられない。ありえないはずだ、と頭が理解を拒む。
だけどそんな私を笑うように、目の前の異常な存在は声をかけてきた。
「お姉さん、大丈夫?怪我とかしてない?」
「そこの扉開かないって言ってたのに、なんでひとが出てくんだよ。呼んでくる」
「うん、その方がいいかも。お願い、キルア」
「りょーかい」
キルア、と呼ばれた男の子は肩をすくめるとどこかへ行ってしまう。
そこで初めて私は自分が石で造られた部屋の中にいることに気づいた。
随分と古いみたいで、ヒビが入ってたり崩れてる箇所があったり。まるで遺跡みたい。
かび臭い感じもするから、ひとがいない場所だったのかもしれない。
「えっと、とりあえず自己紹介。俺はゴン、ゴン=フリークス」
「………ゴン?」
「そう。一緒にいたのはキルアで俺の友達。ここには知り合いと一緒に遺跡調査に来てるんだけど、お姉さんは?そこから突然出て来たみたいだったけど」
ゴンが指差したのは私の後ろ。
恐る恐る振り返ると、石の壁にひとつの扉のようなものがあった。
だけどそれは堅く閉ざされていて、私が出て来たにしては妙な状態。
ひとが出て来たなら開いてるはずなのに。というか、どうしてこんな場所に私はいるのか。
学校の課外授業でちょっとしたゴミ拾いをしていただけなのに。
気が付けば知らない場所にいて、目の前にはゴンという少年が。
「………………ゴン?」
「なに?」
「…………。…………………え、ゴン?」
「うん、どうしたの?」
え、ゴン?ゴンってあのゴン?ゴン=フリークスっていったこの子?
「ゴン?キルア?え!?」
「ど、どうしたのお姉さん」
「ゴンー。あいついま資料まとめてっから、もうちょいしたら来るってさ」
「うん、わかった」
「んで?その女のことなんかわかった?」
こっちを見るキルアの目は少しだけ警戒しているようで。
知らないひとを前にした猫みたい、なんて思ってしまう。
………どうしよう、私この子たちを知ってる。
ゴン=フリークス、キルア=ゾルディック。どちらも私の世界では有名な存在だ。
だけどいくら有名とはいえ、こうして直接お目にかかることなんてできるはずもない。
だって彼らは漫画の中のキャラクターで、二次元と三次元は交差しないのだ。
なのになぜ目の前に彼らがいるのか。妄想?これ私の生み出した妄想?
「えっと、お姉さんはどうしてここに?」
「遺跡を調べに……ってわけでもなさそうだよな。んな軽装で」
「そ、の…気が付いたらここに…」
「は?」
「誘拐されたとか?」
「なら犯人が傍にいるだろ。こいつ金持ってなさそうだし、特別顔が良いわけでもねーし」
失礼な!!確かにその通りだけど!!
キルアは鋭いけど失礼な部分が多々ある。思わず頬を膨らませてしまった。
………って、ここがハンター世界だとして。どうしたら。
この世界で生きていける気がしない。好きな作品だけど、すごく危険な世界で。
割と簡単にひとが死んでいったりするから、私のような一般人じゃ生き残れないんじゃ。
なんでこの世界に来たかもわからないし、身を寄せる場所もない。
最初に出会えたのがゴンとキルア、っていうのは運が良いのか悪いのか。
多分ゴンならそんなひどい扱いはしてこないと思うけど、キルアは警戒してくるだろうし。
この二人と一緒にいると絶対にハプニングに巻き込まれる。
かといってハンター世界じゃ右も左もわからない。………泣きたくなってきた。
「二人ともお待たせ」
「あ、やっと来た」
「、このお姉さんがね、そこの扉から出て来たんだよ」
新しい声が聞こえてきて顔を上げると、黒髪の青年が顔を出す。
顔のつくりは日本人っぽくて、って名前も私には馴染みのあるもの。
こっちを見て焦げ茶の瞳を瞬いた彼は、確認するように私の後ろの扉をちらりと見た。
その後で目の前までやって来るとしゃがみ込んで目線を合わせてくる。
「この遺跡の関係者?」
「ち、がうと…思います。気が付いたら、ここにいて」
というかこのひと誰だろう。漫画で見たことのないひとだ。
ゴンたちの物語が漫画になっているとはいえ、彼らの生活全部が描かれてるわけじゃない。
だから知らないひとがいたって当然なんだけど。でも。
ゴンもキルアもすごくこのひとのことを信頼してるみたい。特別な感じがする。
私の答えになっていない答えを聞いても、ってひとは不審な顔は見せなかった。
ちょっと首を傾げてから「じゃあその前はどこに?」と質問を続ける。
「課外授業で……ゴミ拾いを、してました」
「ゴミ拾い?」
「ボランティアみたいな。参加すると評価にプラスしてもらえるから」
「あぁ…学生か。東洋人っぽいけど、国は?」
「………………日本」
って言っても、通じないと思うけど。ハンター世界で日本っぽいのは…ジャポン、だっけ?
でも忍者がいるような国を私は故郷としては認めない。日本の歴史としては認めるけど!
当たり前のように忍者が現代日本にいるわけないじゃない!外国の認識おかしいから!
……実際、現役で忍者さんはいるのかもしれないけど。ハンゾーのようなレベルは違うと思う。
「日本?………え、西?東?」
「え」
「あ、北海道とか沖縄の可能性もあるのか」
「え、は」
当たり前のように地名が出てくるんだけど、ジャポンにも同じ地名があるの?
ぽかんとってひとを見上げる。彼も少しだけ戸惑った表情で。
「ここがあの世界だってのはもうわかってるんだよな?」
その一言だけで、十分で。
「……っ………じゃ、じゃあ!」
「うん、俺も同じ。…はは、まさか同郷の人間と会うとは思わなかったな」
ふわりと柔らかい眼差しが向けられて、ほっとしたからだろうか。
じわりと今度こそ本当に涙が滲んできてしまって。
泣き出す私の頭を、さんは優しく撫でてくれた。
「と同じ出身って、マジで!?」
「驚いた。まさか会うことがあるとは思わなかった」
「私もです。絶対この世界にひとりぼっちだと思ってたのに」
遺跡から一番近い場所にある町に入った私たちは、ホテルで状況説明をしていた。
それなりに距離があったから、申し訳ないことにさんに運んでもらうことに。
しかもすごく速いからびっくりした。念、覚えてるんだって。
何年もこっちにいるから、って説明してくれたさんはちょっと困った顔してた。
「よかったね、仲間に会えて」
「うん、まあ」
「…言われてみりゃ二人とも似てるか」
キルアがじーっと私とさんを見比べる。
外国人からすると日本人は皆同じ顔に見えたりするらしいから、そのせいかも。
髪も目の色も同じだしね。顔も堀りが深くはないから、印象に残らないんだと思う。
……こうして見ると、キルアって本当美少年。
「ゴミ拾いをしてるとき、何か触ったりしなかったか」
「え?」
「拾ったゴミの中に、気になるものがあったりとか」
「……う…ん。なんかゴミにしては大きい石があった気はする。さすがに捨てられないから、それは邪魔にならない場所によけておいたけど」
「……それかもな」
「?」
どういうことかと目を瞬くと、さんがこそっと耳打ちしてきた。
「俺がこの世界に来たのは、石版を触ったのが多分きっかけ」
「…石版?」
「そう。だから帰る手がかりを探して、遺跡巡りをしてる。似たような石版があるかもって」
「……え、何ですかそれ、呪い的な?」
「いまんところ可能性があるのはそこかな。俺は心当たりそこしかないから」
こそこそと二人で喋ってると、キルアが不満そうにしていることに気づく。
二人だけで何の話してるんだよ、と拗ねたふうにも見える。
だけどさんはキルアとゴンに違う世界から来たってことは話してないみたいで。
「悪い。これは二人の秘密だ」
「なんだよそれ!」
「キルアとゴンにはまだちょっと話せないかな」
「お前はまたそういう…!」
キルアが顔を赤くして机を叩く。……いまの流れでどうして顔を赤く。
と思ったけど、内緒話をしてたせいで私とさんの距離はすごく近いまま。
その上に二人の秘密とか、まだ話せないとか言われたら。…おませなキルアは誤解するかも?
だけどここで怒るというか不満そうな顔をするって。
キルアは相当さんのことが好きみたい。お兄ちゃんをとられた弟、って感じで可愛い。
「さん」
「ん?」
大事にされてますね、とこそっと伝えれば。
きょとんと目を瞬いたあとで、ふわりと笑ってくれた。
「…うん、すごく幸せだよ」
………男のひとのこんな優しい笑顔を間近で初めて見たよ!!
主人公夢といっていいのかこれは…
ヒロイン以上に私が混乱しているため、文章がいつも以上にまとまってなくてすみません orz
[2013年 6月 2日]