キルア視点

と同郷の人物がいた、とは本当か』
「本当も本当。いま一緒に行動中だぜ」

電話口から聞こえてくるクラピカの声は信じられない、って感じで。
…まあ、そうだよな。俺もすげー驚いたし。

の遺跡調査についてった先で発見した女が、まさかのの関係者。
お互いに面識はない感じだったけど、そういや子供の頃に故郷をなくしてるんだっけ?
そこらへん詳しく聞いたことないから不明のまま。
大きな町や村だったら、お互いのこと知らずにいたっておかしなことじゃない。
もしくは、生き延びた先で身を隠しながら生まれた子供、とかいう可能性もある。

黒い髪に焦げ茶の瞳、ってのはと同じ。
あと肌の色も同じだな。顔の造りもなんとなくだけど近しい感じはした。

『どういった経緯で発見したんだ?』
の遺跡調査に付き合っててさ。なんかよくわかんねーんだけど、扉からいきなり出て来たんだよ。そりゃもう突然」
『扉を開けて出て来た、というわけではなく…?』
「そ。むしろ目の前にぽんって出て来た」

現れた本人がビビってたもんなあれ。
状況を理解できない、って感じだったからあの女にとっても不測の事態だったんだろう。

頼りない、ただの一般人って印象だった。
実際戦うことなんてできないらしくて、それが普通だっては言ってた。
つまり、あいつの本来の故郷は平和な場所だったんかな。
けどそこを失って、生き延びるには戦うしなくて、いつの間にか裏社会に足突っ込んで。

「…すげー普通の女だよ。平和に生きてる一般人となんも変わらない」
『……そうか。つまりその女性は運が良かったんだな』
「だろうな。だからこそもあんな過保護なんだろうし」
『過保護?』
「そう、めちゃくちゃ過保護。危ないことは何もしなくていい、って感じ」

そりゃさ?いると思わなかった生き残りと会えたんだから気持ちはわかるぜ?
けど、何もあんなべたべたしなくたっていいだろ!
知らない場所に出て来た不安で女の方がびくびくすんのもわかる。けど面白くない。
二人だけで分かり合ってる空気とかしょっちゅうなんだ。見てて苛々するっつーの。

『……キルア』
「何だよ」
が過保護なのは、いまに始まったことではないだろう』
「は」
『特に女性相手に関しては』
「………………」

確かに、と思い切り納得しちまった。

『私も暇ができたら顔を出す。と同郷の人物なら見てみたいからな』
「おう」
『あまり二人を困らせるなよ』
「そこまでガキじゃねえっての」

俺をなんだと思ってんだよ、と文句をつければ聞こえてくる笑い声。
通話を終えたところでリビングにが顔を出した。
さっきまで資料をまとめてたらしくて、いまだに分厚い本を脇に抱えてる。
あいつ研究モード入ると他のこと疎かになりすぎだろ。寝食忘れるってどうなんだ。

「あれ、ゴンは?」
「洗濯物取り込んでくるって」
「あぁ…もうこんな時間か。悪い」
「別に慣れてるしいーよ。それよりちゃんと寝てないだろ」
「ちょっと解読がいいとこまできてて」
「あ、さん。そろそろご飯できますよ」

キッチンから顔出した同郷人にはきょとんとして。

「え、作ってくれたのか?ごめん、俺がやろうと思ってたんだけど」
「といっても私じゃ大したものは。でもこの肉じゃがは自信作です」
「肉じゃが作れるなんてすごいじゃないか」
「得意料理は肉じゃがです、って言えるようにこれ一品だけ叩き込まれました」
「あぁ、それはポイント高いよな」

何かすごく楽しそうに頷いたは運ばれてきた器からひょいとつまみ食い。
俺らがやると行儀が悪いって叱るくせに何やってんだよ。

「ん、美味い」
「本当ですか?よかった、さんの方が料理上手いから気後れしちゃって」
「俺のはなんというか…。女の子が作る料理は特別だよ」
「そ、そういうこと言うからキルアくんに怒られるんですよ!」
「え」

よし、よく言った。そのことに関しては褒めてやる。
は自分の発言の意味に全く気付いてないらしくて、だからこいつは…とふつふつ怒りが。
わかってる、こいつの異性に関しての基準が狂ってるのは知ってる。
だからってこうも呼吸するように女口説いてんじゃねえよ!しかも子供の前で!

「…えーと…。俺に手伝えることあるか」
「ご飯は炊けてますし、お味噌汁もあと味噌をとくだけなので」
「そうだ、冷蔵庫に漬物あったから使おう」
「すごいですね、こんなに和食の調味料とか食材が揃ってるなんて」
「やっぱり故郷の味は恋しくなるから。知り合いのツテとか色々使って」

ちっ、話題逸らして逃げやがった。

そのうちゴンも戻ってきて、食事の準備も整う。
のとはちょっと違う、だけどなんとなく似てる味が不思議で。
きっとこれが二人の故郷の味付けなんだろう、と納得する。
深みがあって、甘くて少しだけしょっぱい。でもほくほくと温かい味。

…面白くないけど、二人に共通する空気でもあるよなと思わざるをえない。

「ごちそうさまでした!」
「ごちそうさま。美味しかった」
「お、お粗末様でした」
「四人分は大変だったろ?片付けは俺が」
「大丈夫です。さん、調べ物の途中でしょう?気にせず続きを」
「けど」
「いつも色々とやってもらってますし。このぐらいはお手伝いさせてください」

そう言われては強く出れないのか、じゃあ甘えるよとは笑った。
じゃあ俺たちが手伝う!と手を挙げたゴンに引きずられる形で、俺も皿洗いをすることに。

がすごく嬉しそうにしてるのは、きっと同じ故里のひとと会えたからだね」
「そうかな?私もさんに会えてすごく安心はしたけど」
「会えるはずもないと思ってたヤツと会えたんなら、そりゃ嬉しいんじゃねーの」

俺とゴンの言葉に首を傾げて、それからううんとそいつは首を振った。

さん、ゴンくんやキルアくんといるとすごく楽しそう。二人が大事なんだなーってわかるよ」
「な」
「うん!俺たちにとって大事な仲間で、お兄ちゃんみたいな感じだから。ね、キルア」
「お前はどうしてそうハズイことをさらっと言うんだよ!」
「別に恥ずかしいことじゃないじゃない」
「俺は恥ずかしいんだっつーの!」

俺らのやり取りを見て、声に出して笑う。
そんな女の姿は、なんとなくと似ているような気がして。

ま、俺らとの積み上げてきたものをちゃんとわかってるみたいだし。

名前ぐらいは覚えてやってもいいか、と思った。





そりゃ女の子の手料理(しかも肉じゃが)を食べられたら嬉しいだろう

[2013年 6月 25日]