「えっと、多分買い物はこれでOKだよね」

さんに書いてもらった買い物メモと袋の中身を確認して頷く。
ハンター世界に来てしまって一か月くらい。ようやくひとりで外に出れるようになった。
といっても本当に近場だけなんだけど。遠出するときはさんが一緒。
もしくはゴンかキルアが付き添ってくれる。

そんなに心配しなくても、と思う。
確かに念能力者とか武器を普通に持てるような危険な世界ではあるんだけど。
一般人だって当たり前のように暮らしてるわけで。
むしろハンターや能力者たちの存在の方が圧倒的に少ないはずなのに。
そう思ったんだけど、さんがすごく真剣な顔で首を振ったことを思い出す。


「…望んでなくても、俺の周りには危険なヤツばっかり集まるから。警戒するにこしたことはない。本当に危ないんだ」


わかってくれ、って懇願にも近い顔で言われて頷くことしかできなかった。

よく考えてみれば、さんは主人公であるゴンたちと一緒に行動してる。
ということは原作キャラと関わりあうこともよくあるわけで。
つまり…プロハンターとか念能力者とか、キルア関連でゾルディック家などなど。
そういった面々と顔を合わせることもあるのかもしれない。…確かに危険だ。

(私はそういうのとは関係ないけど……おや?)

ポケットの中で携帯が震える。取り出してみるとメールが一件。
ちなみにこれはさんの携帯。買い物の間ちょっとだけ借りてる。
メールはさんのパソコンから発信されてて、荷物が重いようなら迎えに行くという内容。
優しいなぁ、と笑って買い物は終わったからいまから帰りますとだけ返信した。

「あれ、それの」

不意に聞こえてきた明るい声に振り返る。
こちらの手元を見て大きな目をぱちくりと瞬くのは童顔の青年だ。
色素の薄い髪と、甘い顔立ちとは裏腹に逞しい筋肉に覆われた腕。

(え、まさか)

「同機種はもう古くて販売してないはずだけど」
「あ」

ひょい、と携帯を奪われてしまった。
勝手に携帯を確認した男性は「やっぱりのだ」って呟いている。

「………あの、さんのお知り合いですか」
「うん。元同居人」
「へ」
「今でも場合によってはそうなるかな。俺の家のひとつ提供してるから」

え、だって、え?

「もしかしての恋人とか?特定のひとがいるって話は聞かないけど」
「………えっと、ちょっと色々とあってお世話になってるだけです」
「あぁ、お人好しだしね」

妙に納得したように頷く。どうやらさんのことをよく知っているらしい。
だけど目の前にいる青年が自分の中の記憶と同一人物だったとしたら。

……な、なんて危険人物と知り合いなんですかさん。

「シャル?なんでここに」
「あ、お迎えだ」
さん!?だ、大丈夫だって言ったのに」
「ごめん、やっぱり心配で。結局シャルに捕まってるし」
「それは」
の携帯見かけたからさ。珍しいね、ひとに預けるの」
「…そうか?シャルにだってよく好きにさせてるじゃないか」
「あー……それは。だって、俺が提供したようなもんだし?調整してるし」
「変な使い方しないってわかってるから、問題ない」

………す、すごい。さん普通に話してる。

シャル、と呼ばれた青年はシャルナークだ。
悪名高い幻影旅団の団員であり、念能力はもちろん頭の回転がものすごく速い。
穏やかそうに見えるし戦闘狂というわけではないけど、笑顔で人を殺せる。
そんなひとと当たり前のように話して、なおかつ信頼関係まで持ってるっぽい。

しかもシャルナーク、さんのさらっと信頼してる発言にちょっと照れてる。可愛い。
つい微笑ましく見守ってると、視線に気づいたのかシャルナークがさんを肘で小突いた。

「で?この子ダレ」
「最近保護したんだ。俺と同じ故郷の…」
「え」
「あ、けど俺と違って戦う力はないから。他の連中には内緒にしとけよ。特に強化系連中には」
「それはいいけど…」
「あとクロロとヒソカには絶対言うな」
の同郷か…そりゃあの二人は面白がるだろうね」

個人的にクロロもヒソカも大好きですが、リアルにはお会いしたくありません。
…正直なところ、一回は生で拝んでみたい気もする。絶対美形だし、あの二人!
シャルナークも美形だなぁ、ちょっと可愛い系だけど。
あ、クラピカも生で見てみたい。素で女の子と間違われるような美人だし。

「…言われてみれば、顔の感じがと似てるかも?」
「俺の民族はだいたいこんな感じ。黒髪に黒い目に、黄色の肌」
「ふーん」

じろじろ遠慮なく見てくるところは、さすが旅団の団員。
どうしたものかと戸惑ってさんを見上げると、ちょっとだけ苦笑された。
そしてシャルナークさんの視線から守るようにこちらの腕を引いて背中に隠してくれる。

「こら。あんまり不躾に見るんじゃない」
「だって珍しくて。の同族がいるなんてさ」
「まあ、俺も会えるとは思ってなかったけど。この子は本当に一般人だから」
「あはは、と同じ故郷出身ってだけで一般人にはなれないと思うよ」
「は?」

異世界からやって来てしまった時点で一般人ではないよねぇ、と思う。
しかしこうして話してる二人を見ると仲良さそうだ。
ちびっ子組と過ごしてるときとは違う、年相応の雰囲気と言えばいいだろうか。
キルアやゴンといるときはお兄ちゃんの顔をしてるさん。

でもシャルナークと喋ってる姿は、自然体の男のひとで。
旅団の人間相手にこんだけ普通にしてられるのは本当に尊敬する。
…念習得してるから落ち着きが違うのかな。

「あ、シャル。よかったらこの子用に携帯見繕ってくれないか」
「いいよー。どうせなら俺たちと同じシリーズにする?」
「え、シャルさんも猫の携帯なんですか?」
「俺のはこれ。デビルシリーズ」
「猫にも見えるけどな」
「可愛い…」
「確かうさぎとかもあったよ、ピンクの」
「あぁ、可愛いなそれ。似合うんじゃないか」
「そ、そうですかね」

男のひとが当たり前のような顔して可愛いって言うのはドキドキする。
並んで歩く二人は道行く人達がなんとなく振り返ってしまう雰囲気を持っていて。
その後を恐る恐るついていってたら、見失いそうだからってさんに手を繋がれてしまった。
多分これキルアたちにするような子供扱いなんだろうと思う。思う、けど。

「…この風景、皆に見せたい」
「?言うなって頼んだだろ」
「だって反応見たい、絶対面白いことになるって」
「怖いことの間違いだろうが。あいつらに襲われるのは御免だ」
「あぁうん、二重の意味で危ないよね。が」
「は?俺?」

この口ぶりからすると、さんは他の団員たちとも面識があるみたいだ。
それでけっこう仲良いのかな?クロロとヒソカは避けてるっぽいけど。

望んでなくても危険なヤツばっかり集まってくる。
そう言ってたさんの言葉はどうやら本当らしい、と理解した。
念を習得してる時点で、さんだって危険人物に分類される可能性もあるわけで。
類は友を呼ぶっていう感じなんじゃないかな?と思う。

もちろん、荷物を持つと言い出してくれた彼を危険だなんて感じない。
すごく優しいひとだな、って思う。

ピンクのうさぎ型携帯を差し出すさんはむしろ、可愛いところもあるひとだ。





ある意味、両手に花でうらやましい

[2013年 9月 21日]