「あ」
「?どうした?」
カレンダーを眺めていてつい声を漏らしてしまったという様子の彼女にが本から顔を上げた。
俺の足元ではゴンとキルアがカードゲームに夢中になってて騒がしい。
「さん、もうすぐお盆です」
「………あぁ、そんな時期か」
本を閉じて立ち上がったは故郷が同じという彼女の後からカレンダーを覗き込む。
ゴンたちから話は聞いてたし、クラピカからもなんかよくわからん報告をもらってた。
皆が言う通り、本当に普通の女の子って感じだぜ。
黒髪と焦げ茶の瞳はと同じ。肌の色も…近い、か?
ただ表情はくるくると変化するし、が見せる気圧されるような眼差しは持ってない。
オーラも垂れ流しっぽいから完全に一般人なんだろ。
もう故郷はないって言ってた気がするから、数少ない生き残りに会えたってわけだ。
もともと身内に甘い男だが、相手が女の子の上に同郷の人間だからか態度がさらに柔らかい。
それをキルアが面白くなさそうに睨んでるのが、飼主をとられた猫みてぇだな。
「おぼんって?」
ゴンが不思議そうに声を投げると、二人が揃って振り返った。
そうそう、俺もそれを聞こうと思ってたんだよ。皿をのせるトレイのことじゃないよな?
「なんと言ったらいいのか…。俺たちの故郷の風習で、毎年この時期に亡くなったひとを偲ぶ…ためのものかな。いや弔うのか?」
「この時期に亡くなった家族が家に帰ってくる、っていう言い伝えがあって。それをお迎えして一緒に過ごして、また送り出すっていう感じです」
「はあ?」
「へえ、また家族に会えるんだ。素敵だね」
「死んだ人間が帰ってくるわけねーだろ」
キルアが呆れたような表情を見せるが、ゴンはそうかなぁと首を傾げた。
どうやらくじら島にも似たような習慣があるらしく、それを説明しはじめる。たちのとはまた違うみたいだが。
どちらにしろ、死者を記憶にとどめていくための習慣、というのは俺も思うところがある。
もう会うことのできない家族、友人、知人。それらは俺の人生に何かしらの影響を与えていて。
いまここに俺がいて、ハンターとなり医者を目指すことができているのも、そういう存在のおかげだ。
………たまにはあいつの墓参りに行ってやらねーとな。墓らしい墓は作ってやれなかったけど。
「さんはお盆に何かしてるんですか?」
「昔はもちろんやってたけど…いまはな。墓がない」
「あ……そうか、そうですよね………お墓ないんだ」
いま思い出した、という口ぶりで呟いて俯いてしまう少女の頭をがぽんと叩いた。
…………故郷を失った二人には弔いに行く墓すらも残ってないのか。
「だーかーらー、そういうものなんだってば!」
「ぜんっぜんわかんねぇ、死んだらそれで終わりだろうが!」
「キルアだってご先祖様に何かしたりするでしょ?」
「知らね。だってうち、曾爺ちゃんだってまだぴんぴんしてるぜ」
ゾルディック家はマジで化け物揃いだな。
つか喧嘩なんてしてんじゃねえよ、まったく。仲良いくせにくだらんことでぎゃーぎゃーと。
「……いや、レオリオもクラピカと似たようなやり取りしてるぞ」
「俺の心を読むなよ!?」
「レオリオさん、口に出してました」
「あっ、そうすか」
俺が小さくなるとたちは顔を見合わせてふふっと笑う。
あまりにもその笑顔に翳りも曇りもねえもんだから、逆に俺は居た堪れなくなった。
こいつらは、なんだってこう強いんだか。
故郷を失って、帰るべき場所もなく、故人を悼む墓すらも残っていない。
許されているのは記憶の中をなんとか探って過去を思い返すことぐらいだろうに。
「勉強に悲鳴上げてる場合じゃねぇやな…」
「医者の勉強は大変だろ?ま、ここにいるときぐらい頭休めておけよ」
「おう………ぐっふう!!」
「れ、レオリオさーん!?」
「キルアの分からず屋!!」
「ゴンの頑固者!!」
「……お前たち、レオリオが下敷きになってる。そのままだと死ぬから解放してやれ」
頭どころか身体すらも休められないような予感がするのは、俺だけだろうか。
…………ま、この能天気さに救われてきたってのもあるんだけどな。
きっとたちも同じなんだろう。
騒々しさすら感じる部屋で、なんだかんだと笑ってゴンたちを見守ってるんだからよ。
この世界にはないだけなんだ、墓
[2014年 8月 17日]