イルミ視点
俺たちのような人間は、他人がいる空間で眠るようにはできていない。
俺たち一家は死と隣り合わせの仕事だ。寝ていたとしても危険を察知できるよう訓練されて育つ。
似たような環境で育ってきたもそれは同じで。結婚したいまも誰かがいると熟睡しない。
俺としてはゆっくりが眠れるようになってから、夫婦の絆っていうのを深めたいんだよね。
ちょっと急いで結婚しちゃったからこれからはゆっくり相互理解?っていうのをしようと思って。
俺は家族の傍なら普通に熟睡できる。勿論殺気を向けられればすぐに反応するけど。
でもやっぱり他人がいる場所では眠りながらも半分意識が起きてる状態だ。
現在がこの状況で。俺の隣で熟睡することができない。
要は慣れだよね。
だから毎日一緒に寝るようにしてる。でも全く眠れないっていうのも健康に良くないし。
一応ひとりで眠れるように朝早く起きて部屋を出るようにはしてるんだけど。
それでも疲労は蓄積されてるみたいで、最近は気絶するように眠ってることもある。
「あらイルミ。さんは?」
「そろそろ起きてくると思うけど。ぎりぎりまで眠らせてあげて」
最近はやっとうちの食事を食べるようになってきたから、朝食までゆっくり眠ってても問題ない。
少し前までは自身が作った料理しか食べなかった。その警戒心は当然のものだから俺も家族も何も言わなかったけど。あ、母さんは新妻が夫のために料理してるんだって喜んでたっけ。
ようやく一緒に同じ食事をとるようになったことも喜んでたけど。
定位置の席に腰を下ろしたところでも食卓に顔を出した。
うん、やっぱりいまいち眠れてない顔。母さんもそれは気付いたみたいだ。
「さん、ご機嫌よ…………ろしくはなさそうですわね。どうなさったの?」
「……おはようございます、キキョウさん」
「もう、義母に対していつまでも他人行儀なのですから」
嫁ができた!って大喜びの母さんだけど、一応は男だからね。
そこんとこ気にしてないみたいだ。俺もあんまり気にしないけど。
「それにしても本当に顔色が悪いですわよ」
「ごめん母さん。それ俺のせい」
「イルミの?」
喋るのも億劫そうなに代わって挙手する。
振り返った母さんの顔は心配そうで、ひとつ頷いて返してからを隣に促した。
のろのろではあっても素直に従ってくれるようになったあたり、ちゃんと夫婦の絆は深まってきているように思う。うん、俺の努力も無駄じゃないね。
「俺のせいで寝不足なんだ。無理させてるから」
「まあ」
母さんの声がすごく高く響く。ついでにやたら血色も良くなったみたいだ。
それに反しては隣で重々しい溜め息ひとつ。
「……無理って自覚あるならそろそろゆっくり寝させろよ」
「慣れの問題だから。頑張って」
「おい」
俺が隣にいると眠れないのは知ってる。でもだって表立って抗議や反抗はしない。
慣れようと努力してくれてるんだと思う。
かといって一朝一夕でどうにかなるもんじゃないよね。ああひどい隈ができてる。
「……毎晩毎晩、俺は気絶するように寝てるんだが?」
知ってる。実はその寝顔を見るのが気に入ってたりするけど内緒。
「キルア。なんでアルカの耳塞いでるんだ?」
「こいつにんな話聞かせられるか!」
不思議そうなはわかってないようだけど、いまの会話聞きようによっては際どいから。
夫婦の夜の営み的な話題に聞こえなくもないから。
ってそういう話題に関しては頓着しないから逆に鈍いんだよね。
真っ赤なキルアはなかなか貴重だから写メっておこう。母さんがビデオ回してるからあとで俺の分もデータもらっておかないと。
「ふふ、この調子なら孫を見られるのもすぐかもしれませんわね。あなた」
「ああ」
母さんたちの会話に無表情のままがガキリと固まった。
すごい勢いで殺気が渦巻いてるけど、爆発するほどのレベルには達してない。
だから皆のんびりと女の子がいいか男の子がいいかなんて話し続けてる。
俺はどっちでもいいかな。まず作る方法をどうにかしないとだけど。
あと夫婦の営みができるぐらいに慣れてもらわないと。
「期待されてるね、」
「ふざけんな」
刺すような殺気を飛ばしてきた。
でも少し涙目になってたから、むしろ可愛いだけだったよね。
イルミさんの頭がだいぶ春めいててすみません
[2015年 6月 20日]