ヨークシンでの旅団とクラピカの攻防がひとつの終結を迎えた。
蜘蛛の足はいくつか失われ、クラピカも見えない代償を抱え込んだように思える。
旅団とも鎖野郎とも親交があったことが両方に知られてしまったわけだけど。
意外にもどちらからも強い拒絶が向けられることはなかった。俺、殺されるかもって思ってたのに。
勿論なじられはしたし、何で黙ってたって泣いたり怒ったりするヤツもいた。
だけど俺の全部を否定するようなヤツはいなくて、それが余計に罪悪感を募らせた。
だって叶うことならウボォーもパクも生きていてほしかった。
あいつらがクルタ族にしたことを考えれば自業自得なのかもしれないけど、それでも。
少なくない時間を共に過ごし、あいつらが笑う姿も知ってしまった。
だから仕方ないことなんて片付けられず、かといって俺は何もできないままで。
しばらくは旅団ともクラピカとも距離を置いておこうかな、と思ってたんだけど。
「、今日はプリンはないのか」
「自分で買ってこい」
気分転換にまだ立ち寄ったことのない遺跡一覧を眺めてたってのに。
ひょっこりとリビングに顔を出したのは前髪を下ろして童顔を際立たせるクロロ。
現在は旅団から離れて行動中であるはずの男である。
「俺はいま念が使えない。そんな中、外を歩けというのか。相変わらずの鬼畜っぷりだな」
「旅団の団長に言われたくない」
「休職中だ。いまは残念ながらかよわい一般人さ」
「一般人なら自分のことは自分でやれ。ここを出て三分もない距離にコンビニがあるだろうが」
「風呂に入ったから外に出るのが面倒だ」
「…………家から叩き出すぞ」
居候のくせに我儘な男に、降り積もっていたはずの罪悪感はすでに吹き飛びかけている。
まったく何てものを押し付けてくれたんだシャルのヤツ。いや、ここシャルと共同の家だけど!
「俺とは接触できないんだけどさ、なら問題ないでしょ?ちょっと面倒見てやってよ」とか言ってきた友人を殴りたい。俺は運び屋であって御用聞きではない。
つかクロロって東に向かわないといけないんじゃないの?なんでここでまったりしてんの?
恨めし気に俺のこと睨んできてるけど、プリンのために外に出るのは俺だって嫌だ。
「うっかり外に出てシャルにでも遭遇したらどうするんだ。死ぬ」
「ならシャルも寄る可能性のある家に滞在するのをやめろ」
この家の持ち主は一応シャルナークになってて、俺は間借りさせてもらってる形だ。
勿論ここにシャルが寄るときは事前に連絡があるから、クロロは席を外すなりするんだけど。
何のためにここにいるのか謎だ。さっさと東に向かって移動すればいいのに。
……いや最終的に除念師を見つけてくるのはヒソカだから、ここにいてもいいのか。待て俺が困る。
クロロを放ってここを出ていけばいいとも思うけど、それはそれで心配だ。
こいつを気遣う義理なんて俺にはないが、シャルやマチにとっては大切な存在なんだろう。
これ以上あいつらが何かを失う姿はあまり見たくはなくて、そうなると放ってもおけない。
深い溜め息を吐き出して資料を机に置くと、俺は諦めて腰を上げた。
キッチンに入るとクロロも距離を置いてついてくる。子供かお前は。
冷蔵庫や棚を確認して必要な材料が道具があるかを確認。……まあ、これなら大丈夫か。
卵や牛乳を取り出す俺を見てクロロが首を傾げる。
「……簡単なやつだから店のみたいな美味しさはないだろうけど、我慢しろ」
「…………お前、菓子も作れるのか?」
「クッキーとかケーキは作ってやったことあるだろ」
「……そういえばそうだったな。マチたちの作品の印象が強すぎてあまり覚えていないが」
「…………まあ、あれはな」
指示通りやってるはずなのに毒物になる場合はどうしようもないよな!
しかも見た目めっちゃ美味しそうな分より性質が悪いっていう。
「すぐできる。だからお前も見ておけ」
そんで俺が二度と作らなくて済むように覚えろ。
俺はお前の料理人でも母親でもないんだからな!自分のことは自分でやれよ今畜生!
意外にもクロロは文句も言わず手元をじっと眺めてたから、俺も淡々と作業をこなす。
「店のものの方が美味い」と感想をくれたクロロのことは殴っておいたけど。
プリンを買ってこいなんて我儘は言わなくなったから、よしとしよう。
シリアスになりきれないのは全て主人公のせいでして…
[2015年 3月 9日]