シャルナーク視点
この遺跡に眠る財宝の中でクロロが興味を持って欲しがったものがあったから、それを暇潰しがてら回収に来た俺たちは鎖野郎ご一行と遭遇することになった。
しかもあっちにはも同行してて。というよりの遺跡巡りに付き合ってた、ってところなのかな。
因縁の相手ではあるけど、俺としては鎖野郎をどうこうしてやろうという気持ちはいまのところない。
それはクロロも同じみたいで、敵意剥き出しのフィンクスたちとは対照的に落ち着いてる。

ゴンとキルアって言ったっけ?子供二人は油断なく気を張ってる。
奥にいるおじさんは逃げ腰に見えるけど、隣にいる鎖野郎を気遣う素振りも見せてる。
んではというと。

俺たちのこと放置して部屋の外にさっさと出てっちゃったんだよねー。
もともと騒がしいところは好きじゃないし、俺たち蜘蛛と鎖野郎の因縁にあいつは関わらない。
あと単純に遺跡の調査に集中したいんだろうなーって感じ。だから俺も引き留めはしなかった。
だけどフェイタンやフィンクスの殺気はますますひどくなっていくばっかりで。
しまいにはオーラも膨れ上がってきたからどうしたもんかな、って思ったところで声が聞こえた。

「おいガキども。それ以上暴れるようなら片っ端からぶっ飛ばすが構わんか」

しゃがれた声に顔を上げると、舞台のように高くなっている場所に老人が立っていた。
あれ?こんな男いたっけ?と首を捻る。ヘルメットにピッケル装備ってことは探索者かな。

「ああ?なんだこのジジイ」
「この男急に現れたね。殺すか」
「落ち着けよフィンクス、フェイタン。あんまり暴れるとに怒られるよ」

前も資料をめちゃくちゃにしてボコボコにされてたことあるのに懲りない奴等だなぁ。
三日徹夜して不機嫌だったから余計だろうけど、あのときのの鬼神っぷりはすごかった、うん。
フィンクスとフェイタンは強制だったけど、ただ同じ場所にいただけの俺とノブナガまで正座したからね。刺すどころか貫くような殺気とオーラに威圧されて、ゴミを見るような据わった目は本当にヤバかった。
とばっちりで怒られた俺たちは後でフィンクスたちを改めて殴ったのも懐かしい。

またあの二の舞はやめてくれよ、と続けようとしたところで足音が響いた。
振り返ると何だか妙な濁りを見せている焦げ茶の瞳。

「あ、おかえりー。調査済んだの?」
「一応ざっとは」

いつもと違うっぽいに普段通り声をかけると、とりあえず返事はしてくれた。
どうしたんだろ、はっきりこれって言えるわけじゃないけど変だ。
けど俺がその疑問を口にする前にキルア?銀髪の子供が声を上げる。

!こいつらどうすんだよ」
「……可能なら穏便にお帰りいただきたい」
「はいそうですか、って帰ると思ってんのか?」

せっかくが穏便に場をまとめようとしてるのに何で煽るようなこと言うかなもー。
俺フィンクスたちの尻拭いまでしてられないからね?自分で責任とってくれよ?
隣のクロロも我関せずって顔で、俺と同じこと考えてるんだろうな。

このままフィンクスたちが再び説教されるのかと思ったんだけど。
は部屋に渦巻く殺気にはまったく興味がないらしく、突然現れた年寄りを見上げた。

「…………あんた、なんでここにいるんだ」

ん?ってことはの知り合い?

不機嫌な顔だったじいさんがを見てきょとんと目を瞬いた。
それを受けてなぜかは渋い顔。
まるでそれが合図だったかのように、じいさんが躊躇いのない動作で右手を振った。
となれば握っていたピッケルが吹っ飛ぶわけで。

半瞬すらもかからないような速さでの殺気が膨れ上がる。
そして弾けたオーラに背を押されるようにしてじいさんの間合いに飛び込んだ。
何かを伝えようとするかのように、じいさんの顔を両手でつかんで目を覗き込む。

すると本当に通じたみたいで。

「…………お前、か?」
「それ以外の何に見える」
「いや……だが、お前まだこんなんだっただろう」

親指と人差し指で挟むように示した大きさはどう考えても胎児サイズ。
馬鹿にされたと感じたのかのオーラと殺気が刺々しさを増していくけど、じいさんは怯えたり応戦の構えを取るでもなく。むしろ楽しそうに豪快に笑っての手をばしばしと叩いた。

「確かにその目はお前だなぁ。随分とでかくなったもんだ」

……この口ぶりからして、の子供の頃を知ってるっぽい?うわ何それずるい。
どんな関係者なんだろう、と耳を澄ませる。隣のクロロも興味津々な様子を隠していない。

「…………じーちゃんが知ってる俺っていまいくつ?」

じーちゃん……おじいちゃん?まさか、祖父?
そういえば遺跡を調べるきっかけになったのは祖父の影響って聞いたことがあるような…?
あれ、でもって天涯孤独の身の上だったような気がするんだけど。

待てよ。はじいさんに自分の年齢はいくつかなんて確認してる。
それはつまり、いま現在このじいさんに会う可能性はないからってことなんじゃ。
え、じゃあなに?まさか過去から飛んできたとかそういう系?
遺跡はオーバーテクノロジーなものが眠ってるとはいえ、時間を超えたりもできちゃうわけ?

でもそれならの説明しがたい瞳の色も納得。
あいつもともと不思議な色合いというか、澄んでるんだか濁ってるんだかわからない目してるけど。
いまは色々な感情がない交ぜになってるような感じで。自分でも制御しきれてないっぽい。
常に淡々としてるがこんなにはっきり動揺を見せるのってすごく貴重だ。
それだけ、あのじいさんが大きな存在ってことなんだと思う。

じいさんが知ってるの年齢を確認されて、意地の悪い笑顔を見せる。
そして告げられたのは予想外の情報だった。

「そうさの。先週初めて大物を捌いて返り血に泣きそうにな」
「おいやめろわざわざ黒歴史引っ張り出すなジジイ」

今度こそ殺しそうなオーラを爆発させてが制止をかけた。
なのにじいさんは意に介した様子もなく飄々と笑ってる。ほら、フィンクスたちなんて昔のこと思い出したのか思わず正座しそうになってるよ。何あれ笑える。

……それにしても返り血浴びたぐらいで泣きそうになってたとか。
にも可愛い時期があったんだなーってついにやける。いまじゃ眉ひとつ動かさないくせにね。
本人も未熟な頃を引き合いに出されるのは嫌なのか黒歴史とまで言ってる。
泣きそうになってるの姿とか想像つかないや。感情の起伏がないわけじゃないんだけど、あんまり表情と連動してないから。
つまりこんだけ無表情になったのは生まれつきではないわけか。
昔は表情豊かだったのかな……うわあ、見てみたい。絶対笑うけど。

「……って、随分昔なんだな」
「わしもまさかこんなに大きくなった孫を見るとは思わんかった。ひょろひょろ伸びよって」

逞しくなったな、って笑うじいさんにのオーラがぐらりと揺らいだ。
いつもの警戒や殺気を含んでの揺れではなくて、もっと気持ちに起因した動揺に近いもの。

……俺とが会ったとき、すでに身長はいまとあんまり変わらないぐらいだったと思う。
その頃にははひとりで行動してたから、このじいさんとは随分前に別れたんだろう。
恐らく、もう死んでるんじゃないかな。故郷はないって言ってたし。
特別それに傷ついてる様子は見せなかったけど、いざ奇跡の再会をすればこんな風に揺れるのか。

なんかちょっと、面白くないな。

の意識が、心が、強く過去に吸い寄せられるのはなんとなく腹立たしい。
俺の無意識に滲み出たオーラに気付いたのか、じいさんがこっちに視線を向けた。
に容赦なくピッケルを投げつけたり、圧迫されそうなオーラを前に平然としていたり。
きっとこの老人も常人ではないんだろう。の強さはこのじいさん仕込みの可能性が高い。
綺麗にオーラは隠したまま、じいさんは部屋の中にいる俺たちをぐるりと見回した。

「して、そこにいる不届き者はお前の知り合いか」
「……あ」

そこでようやく思い出した、って感じでが振り返る。うわ忘れてたんだ俺たちのこと。
随分と薄情じゃないのそれ。ほらキルアって子もすごく拗ねた顔してるよ。

が慌てて弁解するために口を開いた。……慌てた顔してるよ、え、ほんと珍しい。
別にそこまで焦って弁解することでもないけど?と思ったんだけど。
どうやらは俺たちに弁解しようとしてたわけじゃないらしい。

「知り合いというか」
「この遺跡を傷つけようとするなら明日の朝日は拝めないと思え小僧ども」

頭が痛いといわんばかりに額に手をあてて血の気を失う。
そんなを初めて見た俺たちは、そろってぽかんとしてしまった。

…………このじいさん、どんだけ怖いひとなの?




フィンクスたちをボコボコにできたのは、遺跡への愛もありますが
徹夜続きによるナチュラルハイだったためと思われます(酔っ払い時とほぼ同じ症状)

[2015年 3月 21日]