ゾルディック家にて―キルア視点
「んまああぁ!こんなに可愛らしい姿になって!」
「……おふくろ、がびびってるからあんまテンション上げんなよ」
いまにも飛びかかりそうなおふくろに、が肩を強張らせた。
俺よりもふたつかみっつぐらい年下になってるに驚いたのなんの。
クラピカから連絡受けて、けど違う大陸にいたから到着にはちょっと時間がかかった。
あいつが子供になるとかどういうマジックだよ、と思ったけど。…マジで小さくなってんだもんな。
マフィアの邸に預けるのも、って言ってたクラピカだけど。
暗殺一家の家に預けるのも微妙なんじゃね?と気付いたのはを引き取ってから。
ゴンはいま別行動だからつかまらないし。俺個人の家とかないし。
となると、結局は実家であるここに連れてくるしかなくて。…ま、反対するヤツいないだろ。
つーか、大歓迎する連中ばっかだよな。目の前のおふくろが良い例だ。
「こんにちは、お邪魔します」
「遠慮なく寛いでちょうだいね。部屋はどうしましょう、新しく作らせようかしら」
「いーよそんなん。いつも通り俺の部屋で」
「キルア兄様、が来てるって本当?」
ひょっこりと顔を出したのはカルト。
が来ると喜んで会いに来るんだけど、今日はちょっといつもと事情が違う。
振袖を揺らしたカルトは俺の横に立つを見て、不思議そうに首を傾げた。
「………?」
「そう」
「僕と同じぐらいだ」
「なんか変な薬飲んだんだってさ。元に戻るまで時間かかるらしい」
「カルトちゃんと並んで写真を撮ったら映えそうね。ちゃん、着物を着てみない?」
いつの間にやら呼び方が「ちゃん」づけになってるし。
おふくろの勢いが怖かったのか、一歩後ろに下がったはふるふると首を振った。
助けを求めるように視線を向けられ、俺は手を繋いで歩き出す。
ほっとしたような息が聞こえてくるのがちょっとだけ優越感。
「キル、どこに行くの?」
「部屋。長旅で疲れてっから」
「僕も行っていい?」
「好きにしろよ」
「うん」
俺の部屋に入って、ミルキから強奪してきたゲームで遊ぶ。
俺より小さいとか不思議で。ゲームに負けて悔しがる姿とか、レアすぎてドキッとする。
いつも余裕で落ち着いてるから、こんな顔滅多に見られない。
子供の頃は色んな表情を見せてたんだな、と思うと……なんか、こう。
「おいキルア!勝手にゲーム持ってくなってあれほど…」
「ノックもせずに部屋に入ってくんなよミルキ」
「………そいつ、誰」
鼻息荒く侵入してきた豚くんは、を見つけると不審な顔をした。
俺とカルトに挟まれてコントローラーを握る子供。そんなのがいたら驚くとは思う。
顔を上げたはお邪魔してますと丁寧に挨拶した。いいよあいつにそんなのしなくて。
「おい、キル。そいつ」
「だよ。いま事情があって小さくなってんの」
「なんだ事情って」
「どうでもいいじゃん。何日かすれば元に戻るって話だし」
「キルア兄様、僕も対戦してみたい」
「んー」
「カルトちゃん、これ使って。僕が見学してるから」
はい、と自然と渡されたコントローラーにカルトが目を丸くした。
お客様なのに、と遠慮しようとするカルトにがふわりと笑う。
「やり方よくわからなくて。お手本にしたいから」
「!うん、頑張る」
カルトのやつ、顔赤くしちゃって興奮気味。こりゃ本気で勝ちに来んだろうな。
いまだに入口でぶつぶつ呟いてるミルキに、俺はコントローラーを向けた。
お手本、と促せばやたらと自信満々な顔でテレビの前にどかりと座る。
一気に狭くなった気がして、俺はと二人でベッドの上に寝転がってテレビを眺めた。
ミルキは引き籠りの上にオタクだから、ゲームだって気持ち悪いぐらいやり込んでる。
けどカルトはカルトでけっこうえげつないから、白熱した試合が観られそうだ。
「キルアさんは、どっちが勝つと思う?」
「キルアでいーよ。んー、腹立つからカルトに勝ってほしい。おいカルト、遠慮なくぼっこぼこにしてやれよー」
「はい、頑張ります」
「じゃあ僕はミルキさんの応援しよー。ミルキさん、がんばってー」
「任せておけよ」
ふふん、と鼻を鳴らすミルキにカルトがむっとした表情を見せる。
そりゃがミルキの応援したら面白くねえよ。けちょんけちょんにやっちまえ。
結局は入れ替わりで対戦をすることになって。だいぶ夜更かしをした。
ごそり、と隣で動く気配がして俺は目を覚ます。
もう朝になってるらしくて部屋は明るい。目をこすりながら横を見ると、の背中。
あ、昨日よりまたちょっと大きくなってる。俺とあんま変わらないぐらいかも。
起き上がったはベッドを抜け出そうとしてて。
もう起きんの?と声をかけたら、顔だけ振り返ってこくんと頷いた。
「顔、洗う」
「洗面所知ってるっけ」
「あ」
「……こっち」
まだ寝惚けた頭のまま、俺は案内のために廊下に出る。
するとまだ朝も早い時間だってーのに、いつも通りの恰好をしたじいちゃんと会った。
「なんじゃ二人とも早いのう」
「おはようございます、ゼノさん」
「うむ、おはよう」
「はよ」
「どうじゃ?これからシルバと共に朝の運動をするんじゃが」
「朝の運動?」
「じいちゃんたちのは軽い運動じゃすまないじゃん。いーよ俺たちは。夜更かしして眠いし」
「なんじゃつまらんのう」
気が向いたら来ていいぞ、と笑うじいちゃんにはよくわからない様子で頷く。
近頃孫たちは付き合いが悪いからのう、とボヤいてじいちゃんは去って行った。
マジ勘弁してほしい。じいちゃんも親父も化け物なんだからさ。
洗面所に到着して、せっかくだからと俺も顔を洗うことにする。
ばしゃばしゃと水の冷たさで頭もすっきりしてきた。
「はい、タオル」
「あぁ、悪い」
………ん?俺と以外の声が聞こえたような。
「おはよう、キル」
「っイルミ!?」
振り返れば人形みたいな顔のイルミが立ってて、俺はつい背中にを庇った。
ぼたぼたと水を滴らせながらが目を丸くしてる。そりゃそうだ、兄貴見たらそうなる。
大人のも無表情だけど、イルミはもっと異質。お面が顔に貼りついてるみたいだ。
弟の俺ですらそう思うんだから、他人はもっと妙に感じるだろう。
「本当に小さいね」
「えっと」
「兄貴、仕事だったんじゃないの」
「母さんが緊急事態だって言うからさ。何事かと思ったら、が弟もいいんじゃないかってハイテンションで語られて」
「………あぁ、まあ。おふくろのテンションは確かに異常だったけど」
きっと興奮しすぎて訳わかんない連絡したんだろうな。
じっとを見てたイルミは、ぽんと手を叩く。
「こんな面白い、独り占めはよくないよね」
「は?」
「たまにはサービスしてあげようかな。俺って優しい」
「何言ってんだお前」
「というわけで、借りるよキル」
「え」
よっこらしょ、と抑揚のない声でいつの間にかを肩に担ぐイルミ。
って、おい!どこに運ぶつもりだよ!
俺が止めようと手を伸ばすよりも先に、イルミは飛び出していて。
はでろくに抵抗もしないから、運ばれていく。
ああくそ、何やってんだあの馬鹿兄貴!!
ゾルディック家の兄弟たちは可愛くていいですね
[2013年 3月 31日]