ケーキ屋にて―シャルナーク視点
「シャルナークさん、どこ行くの?」
「の好きなとこ」
俺とが使ってるマンションで二泊ぐらいしたら、十代後半ぐらいに成長していた。
身長的にまだ俺より少し小さいけど、大人のにだいぶ近づいてる。
子供にしては落ち着いてたけど、さらに物静かになった。でもまだ素直な感じかな。
賑やかな通りを進んでいくと、見慣れた店が見えてきた。
ドアを開けて中に入れば聞こえてくるいらっしゃいませの声。
「あ、さん。いらっしゃいま…………あれ?」
店員の女の子が違和感を覚えて言葉を止めた。
まず目線が違うだろうから、当然といえば当然か。もちろんもうの方が彼女より大きいけど。
でも本来ならもっと上にあるはずの目線が、今日はちょっと低い。
そんなことに気づいた店員さんは首を傾げた。
「さん、縮まれました?」
って、天然な発言が飛び出したもんだからびっくり。
首を傾げる彼女と一緒になって首を傾げてる場合じゃないよ。二人揃って天然か。
「ちょっと色々あって。いま子供になっちゃってるんだよね」
「え」
「二人ともこんにちは。シャンキーが言ってたこと、本当だったんだね」
店の奥からやって来たのは店長。
のんびり穏やかに笑ってる童顔の男。…ま、俺もひとのことは言えないんだけど。
のほほんとして見えて、けっこう隙がない。得体の知れない人間だ。
…まあ、俺としては美味しいケーキが食べられればそれでいいんだけどさ。
「店長、ご存知だったんですか?」
「メールがあったんだけど、シャンキーの冗談かと思ってた」
「えっと、二人とも初めまして…じゃないんですよね。俺ちょっと覚えてなくて」
「あ、じゃあ改めてご挨拶させていただきます。私はイリカといって」
「僕のことはラフィーって呼んでくれればいいよ。一応、この店の主なんだ」
何か好きなもの食べていって、とショーケース前へとを促す。
覗き込めば様々なケーキが並んでいて、の瞳が輝いたのがわかった。
「…どれも美味しそう」
「君は子供のままでも良い表情をしてくれるね。ゆっくり決めていいよ」
「はい」
「ちなみに新作はここの棚。あと君がよく食べてるのはこれとこれかな」
けっこうな時間悩んで、結局は新作ひとつといつも頼んでるケーキのひとつに決めたらしい。
きょろきょろと店の中を見回しながら、は一番奥の方にある席を選んで座った。
…実はそこ、いつもが座ってる場所なんだよね。やっぱり同じ場所選ぶんだ。
店員のイリカ…だっけ?彼女が紅茶を運んでくる。
ありがとうございます、と律儀に感謝するに、彼女は嬉しそうに笑った。
ケーキを食べ終えた頃、店の扉が開いて新たな来客。
なんとはなしにそっちに視線を向ける。俺は知らないけど、むこうがこっちを見て目を瞬いた。
眼鏡をかけた男と、坊主頭の男の子。ひょっとしての知り合い?
「おや、こんなところで……?くん、なんだか印象が変わりましたね」
「さん、お久しぶりっス!」
近づいてきた二人に紅茶に口をつけてたが顔を上げた。
それからぱちぱちと目を瞬いて、ちょっとだけ困った顔で眉を下げる。
「…すみません、俺ちょっと」
「?」
「えーといま子供に戻っちゃってて。記憶も一緒に戻っているというか」
「あぁ、何かおかしいと思えば。少し幼いんですね」
「そ、そんなことあるんスか。自分、驚きです」
「…おかしな念がかかってる、というわけでもないようだね」
じっと観察して頷いた男は念の使い手らしい。確かに力強い纏をしている。
一緒にいる子供も、まだ未完成ではあるけど普通よりもずっと安定したオーラを感じる。
そういえば、とを確認してみていまさら気づいた。
ほぼ絶に近い状態じゃないか。
全くオーラが出てないわけじゃないけど、必要最低限以上のオーラが流れていない。
まるで余計な者には見つからないように、というような隠しっぷりだ。
まだ未熟な子供のうちはこうして身を隠して危険を避けることが優先だったのかもしれない。
だからって、こんな場所でまでそんなことしなくてもと思うけど。
こういうのって、生まれた環境で身に着いた癖みたいなものだから仕方ない。
「君は覚えていないみたいだけど、私もズシもお世話になったんだよ」
「俺にですか?」
「そう。美味しい手料理を振る舞ってもらっていてね」
「その節はお世話になったっス!」
「ええと、こちらこそ」
「久しぶりに顔を見られたし、相席でも構わないかな。あ、それとも邪魔かい?」
「いーえ、俺のことは気にせず」
の交友関係を知れるのは面白いし。
何か俺の知らない情報でも転がり出てくれれば儲けものだ。
それにしても、顔が広いよねって。
単に人見知りの上ド緊張で縮こまってただけです
[2013年 3月 31日]