レオリオ視点

食事を終えて、俺らはの病室に顔を出した。
イリカちゃんが食事のトレイを下げてるところで、俺たちにぺこりと頭を下げて洗い場に。
ったく、あんな可愛い子に世話焼かれるとか羨ましいったらないぜ。
他にもアンちゃんと、メイサちゃんと、なんだってこいつの周りには集まってくるんだ。

、俺たちクラピカとレオリオを空港まで送ってくるね」
「ぜってー、動くなよ。おとなしく寝てること!」
「………もうそこまで重傷じゃないんだが」
「今回は呪術が関わっていた。どんな後遺症が出るかもわからない。万全を期しておくべきだと言ったのにもう忘れたのかお前は」

クラピカがしかめっ面を見せると、は観念した様子で溜め息を吐く。
……ま、こいつの説教の長さはシャレにならんからな。俺も何度も経験してるからわかる。
だんだん聞こえてる言葉が言葉じゃなく感じられて、音楽でもなくただ耳を通り過ぎるようになる。
そんでもって、ちゃんと聞いているのか!と怒られるんだから、たまったもんじゃない。

今回はうるさく言われても仕方ないとは思うけどな。
あんときのは本当に危なかった。助かる確率の方が低かった、と正直思ってる。
それでもいまじゃ元気そうな顔してんだから、しぶといっつーか運が良いっつーか。

「………うん、きっとこういうところなんだろうな」

ぽつり、とが脈絡のないことを呟いた。
説教を丸々スルーしてたかのような物言いに、クラピカの眉がぴくりと震える。
お、おいおい、火に油を注ぐようなことは勘弁してくれよ。とばっちりは俺にくるんだぜ。

「何の話だ」
「いや、イリカがさ。クラピカのことを、特別な女の子かと思ったって言ってたから」
「は」
「イリカさんって、ケーキ屋さんのひとだよね?そっかぁ、クラピカのこと女の子だと思ってたんだ」
「ま、前に女装してたこともあったもんなー。クルタの民族衣装って性別わかりにくいし」
「お前らなぁ…そういう問題じゃねぇだろ」

当人を前にして言いたい放題のゴンとキルアに冷や汗が出てくる。
女顔ってのを自覚してるらしいクラピカは、そこをからかうと烈火か流水のどちらかで怒る。
しかもその迫力たるや。……女のヒステリーに近い、というのは言わないでおく。

恐る恐るクラピカの様子を横目で確認すると、意外に怒ってる感じはなかった。
………むしろなんか嬉しそうじゃないか、こいつ。

「そ、そういうこそ」
「ん?」

おいおい、声が裏返ってんぞクラピカ。

「イリカさんやメイサさんとは、どういう関係だ」
「…お世話になってる店の店員さんと、常連さん」

浮気を疑う彼女、みたいな追及だろそれ。
で、戸惑ったり慌てる様子もなく淡々と答えてる。つまり、そういうことだ。
あんだけ可愛い子たちだってのに淡泊なヤツだ本当に。あーあ、もったいねぇ。
その返事に安心したのか、クラピカはそうかと頷いて静かになった。うし、いまだな。

「んじゃ行くか。出航に遅れちまったら面倒だ」
「明日には帰ってくるからね!」

そう、こっからだと空港まで一日近くかかっちまう。
クラピカは仕事、俺は勉強があるからそれぞれ帰らないといけない。
それをたちが見送る、って予定だったんだが。今回は仕方ない、しっかり養生してもらおう。
手を振るゴンとキルアに手を上げて応えるは、少しだけつまらなそうだ。

扉を閉めて廊下を歩いていくと、シャンキーと店長ズが待合室で紅茶を飲んでるのに遭遇。
女の子たちは三人で洗い物の最中らしい。ちぇ、見送りしてもらいたかったぜ。

「おんやー?出発?」
「うん、クラピカとレオリオを空港に送ってくるよ」
「あいつが勝手に動き出さないよう見張っててくれよな、おっさん」
「お兄様と呼べマセガキめ」

腕の良い医者とは思えないだらしない姿のシャンキーに、キルアはべーと舌を出す。
そんなやり取りから少し離れた場所で、ダークグレーの髪の男が分厚い本を読み耽ってる。
確か古書店の店長…だったか?かなりの読書好きだから、本の扱いには気を付けるべしとか。
読書中の邪魔は絶対にするな、とが妙に真剣にアドバイスしてきた男だ。
身体はしっかり男の造りだが、顔は中性的。それも禁句らしいが。

そんでシャンキーに紅茶のおかわりを淹れてるのが、ケーキ屋の店長。
がよく持ってくる絶品のケーキは、この店長が作っているらしい。
俺より年上らしいんだが、童顔なのか下手するとと同じか年下でも通りそうな…。
この店長は甘い顔立ちをしてて、女装とかさせたら可愛い感じになりそうだ。
………そしてこれも禁句のひとつらしい。
穏やかな店長なんだが、怒らせると変わらない笑顔のままで怖いことになるらしい。
ま、男にそういうネタは確かに地雷だよな。クラピカだってめちゃくちゃ怒るし。

男三人はのんびり同じ場所で過ごしてるが、一緒に何かをするでもなく。
自由に思い思いの時間を楽しんでいるらしい。…ちょっとじじくせぇ。

「医者の卵、勉強頑張れよー。んで、俺のような立派な医者になれ」
「あ、お、おお」
「…こいつを見習ったら最後だぞ」
「ユリエフくんひどい!」
「大丈夫。シャンキーは規格外のお医者さんだから、安心して」
「ラフィーくんもそれはフォローという皮をかぶせた暴言!」

落ち着いて見える三人だが、集まると突然賑やかになったりする。
…男ってのは大人になろうがガキのままってことか。ひとのこと言えねぇよな。
ガキの頃となーんも変わっちゃいねえ、って感じることは俺もよくある。

いつか俺らもこんな風になんのか、と考えながら病院を出た。

「なんかいいよね、ああいうの」
「そうかー?」
「…あまり大人の見本として誇れるものではないと思うが」
「でもカッコイイと思う。好きなことを追及して、それを仕事にしてるって」
「ゴンの親父さんと近いっちゃ近いか。あ、そういやシャンキーってジンの知り合いなんだろ?」
「うん、友達だって」

例えば、俺が将来医者になって自分の病院を開くことができて。
普段はばらばらに好きなことやってるこいつらが、ひょっこりと顔を出す。
怪我して来たヤツには説教たれたり、懐かしい顔ぶれとは酒盛りしたり。
くだらないことで笑って、騒いで、いくつになろうがガキみたいに過ごして。そんな未来。

大きな夢ってわけじゃないが、いいよなって思うんだ。
ダチが集まれる場所。変わらない場所があるって、最高だろ。

いつもふらふらしてて、ふとしたときに消えちまいそうなも。
そういう場所があれば、この世界のどこかに留まってられんじゃねーかって。
らしくもないことを考えて、照れくささに自分で笑っちまう。

「あ、レオリオがひとりで笑ってる」
「思い出し笑いかよ、スケベじゃん」
「最低だな」
「高尚な俺の思考も理解できないくせにてめぇらは〜!!」

俺が拳を振り上げると、ゴンとキルアが笑いながら走り出す。
そのまま追いかける俺の背中に、はしゃぐと後で疲れるぞとクラピカの呆れた声。

うっせ!!俺だってまだ若いってーの!!





仲間思いなレオリオが大好き。

[2012年 5月 13日]