メイサはなんとかぎこちなくはあっても、笑顔を見せてくれた。
それにほっとして、後はユリエフ店長が持ってきてくれた本の話題で盛り上がって。
イリカとラフィー店長、アンとシャンキーも病室に来てここで夕飯をとることになった。
メイサは仕事があるとかで、夕飯を食べたら病院を出ちゃったんだけど。
アンとイリカの二人が声をかけてた。いつの間にやらすっかり仲良しになったらしい。

ラフィー店長とイリカも明日には病院を立つってことで。
…なんか一気に寂しくなるなー。まあ、明日はゴンとキルアも帰ってくるけど。

食事が終わって皆でお茶会を楽しんだ後、俺はまた病室にひとり。
借りた本の続きを読んでたんだけど。
ふわり、とカーテンが揺れたのがわかって。あれ、窓空いてたっけと意識を本から離す。
もう夜だしさすがに閉めないとだよな、と横を向いたら。

「うわー、と病室とか最高にミスマッチ」

なんでか、シャルナークさんが窓に足をかけておりました。







「死にかけたって聞いてさ、瀕死の顔を拝みに来たんだけど。元気そうで残念」
「………見舞いじゃないなら帰れ」
「ごめんごめん、冗談だって」

爽やかに笑ったシャルは病室に入って窓を静かに閉める。
…それにしても情報早いな。どういうルートだ、と聞いても秘密と人差し指を立てるだけ。
ベッドに遠慮なく腰を下ろしたシャルはこっちをじーっと観察して首をことりと傾ける。

「ホント元気そう。瀕死の重傷ってデマ?」
「…いや、実際危なかった。今回は運が良かったんだ」
は悪運に恵まれてるからねー」
「できるなら、幸運に恵まれててほしい」
「あはは、無理無理」

なんで!?

「他のヤツらも来たがってたんだけどさ、病院だからって遠慮させた」
「それは…助かる」

旅団のメンバーが集まろうもんなら病院が破壊される可能性もあった。
しかもクラピカと鉢合わせるかもしれなかったわけで。…考えるだけで恐ろしい。
あ、そうだ後でイルミにメールしとかないと。急ぎの仕事はないはずだけど。

「にしても、ハイテクな病院だよねここ」
「…そうなのか?」
「ぱっと外観見ただけで、すごい設備だってわかるよ。普通の開業医が持てる病院じゃない」

機械オタクのシャルは、外観を見ただけで建物の設備とかがある程度わかるらしい。
俺からすればシャンキーの病院は、普通のものよりちょっと大きめぐらいの一般的なもの。
シャルがすごいって言うようなものには見えないんだけど…。
ま、ジンのいきつけの病院だし、やっぱかなりのものなんだろう。

「あ」
「…ん?」
「そのケーキ」

目ざとい。さすがシャル。

「…いつもの店のだ。食べるか?」
「いいの?遠慮なく全部食べちゃうよ?」
「俺は十分食べたから」
「じゃあいただきます」

俺が差し出した皿を受け取ってぱくり。
おいしそうに目を細めるシャルは、本当に何しに来たんだかって感じだ。
でもわざわざ顔を見に来てくれるんだから、ありがたい。
だって情報聞いたのって早くても今日の朝あたりだろ?なのにその夜に。
友達に恵まれてるなぁ、としみじみ感動する。

「…シャルが怪我しても、顔出すから」
「俺の瀕死の顔見に?良い性格してるなー」

なんでもかんでもそっちの基準で考えるなよな!?
訂正するのも面倒になってきて、俺はもう諦めた。冷めてしまった紅茶に口をつける。
すると甘いものを食べて喉が渇いたのか、それちょうだいとシャルが手を出してくる。
…おい、子供みたいなことすんなよな。まあ、いいけど。

ティーカップを渡すと、残ってた紅茶を全部ぐいーっと飲み干しやがった。
お、おのれ。また後で何か飲み物もらってこよう。

「んじゃ、顔も見たし俺はこれで」
「?もう行くのか」
「他の人間のテリトリーは落ち着かないからさ。全快したら連絡くれよ、祝うから」
「………まともな祝い方ならな」
「皆で酒盛り?」
「絶対連絡しない」
「えー」

どうせ旅団メンバーで酒飲むんだろ?誰が参加するか!
最終的には暴れ出す凶暴な連中と酒なんて飲みたくない。
っていうか、俺の完治を祝うことを理由に酒が飲みたいだけじゃねーか!!

んじゃ、と手を上げると窓を開けてまたそこから外へ。
見舞いっていうより、ケーキ食いに来ただけじゃね?って感じだ。

…でも、ま、嬉しいは嬉しいから。

今度、お礼しないとなーとは思った。






こういうあっさりしたやり取りも好きです。

[2012年 5月 13日]