「……っ……!!」

誰かの声が聞こえて、腹部に衝撃があったと同時に燃えるような熱が走った。
身体がゆっくりと傾いで、視界が真っ白に染まる。
力が入らなくて、気がついたときには背中が地面に触れていた。

「おい!!」
「動かすな!ナイフも抜くんじゃねえ!!」
「………あの野郎」
「キルア…?」
「許さねぇ」

クラピカとレオリオが処置をしてくれてるのがわかる。
そして不意に聞こえたのは、キルアのびっくりするぐらい冷たい声。
なんとか起き上がろうとしても、少し動くだけで全身を痛みが駆け抜ける。
目だけでも薄らと開けるけど、焦点が定まらない。
だけど、オーラの揺らめきだけは感じられた。凝を使わなくてもだ。

すごく、禍々しくて、同時に悲しいオーラ。
キルアにこんなオーラを出させちゃいけない、と俺は力を振り絞って腕を伸ばした。
ほとんど力の入らない手でキルアの腕をつかむ、とびくりと揺れる。

「………キルア……俺は、大丈夫」
「……っ……」

俺が引き留めようと必死で声を発すると。
応急処置をしてくれてるレオリオとクラピカが同時に口を開いた。

、そのまま意識を保て。眠るんじゃないぞ!」
「そうだぜ、ここで寝たらおしまいだからな。おいクラピカ、ナイフを固定する。布よこせ」
「わかった」

わ、わかってるって。ここで寝たら俺ヤバイってことぐらいは。
だけどどんどん身体が重くなっていって、すごく中が熱く感じられる。
うう、息も苦しい。でもそんなことを言ってる場合じゃなくて、キルアだ。
せっかく家業から抜け出したのに、こんなところで殺人とかさせられない。

「…敵討ち、なんてしなくていい」
「けどっ」
「それより、病院………シャンキーのところに…運んでくれ」

でないと俺、死んじゃう。けっこう、切実。
うー…意識が、薄れてきたぞ…。

「もしもし!いまからそっちに運んでくから!!」

キルアが電話してるらしい声を聴きながら、全ての感覚が遮断されていく。
………ヤバイ。本気でこれは助からないかもしれない。
そう思いながらも抗いきれず、俺は意識を失った。






人間、死ぬときは思い出が走馬灯のように巡るっていう。
俺が思い出すのはどんなことなんだろうか、と緊張感もなく思ってたんだけど。

ふと目に飛び込んできた景色に首を捻った。
あれ、なんかビルとか都心っぽい街並みが目の前にあるんだけど。
ってか俺、普通に公園のベンチ的なものに座ってるんだけどこれいかに。
お腹を触ってみても、傷はないし痛みもない。
………はっ!!まさかここは、天国か!!……いや地獄かもしれない(ネガティブ)

それとも生死の境をさまよう俺が見てる、夢なんだろうか。

きょろきょろと辺りを見回してみるけど、知ってる場所ではない。
行き交う人達は東洋人っぽい顔立ちが多い。ふと落ちてた新聞を拾い上げる。
………漢字だらけだ。これ、もしかして中国語?
ハンター世界に中国語ってあんのかな…漢字はハンゾーが使ってたからあるんだろうけど。

「………?」

俺を呼ぶ声があって振り返ると、本を数冊手にして足を止めてる男。
見覚えがある………とじっと見つめて、それからびっくりして目を見開いた。
な、え、うそお!?

「……お前……」
「本当にか。何してるんだ、こんなところで」

それはこっちの台詞ー!!

声をかけてきたのは、俺の高校時代の友人。
教師になると言ってたはずの友人は、俺の記憶よりも大人っぽくなってて。
くそう、背も伸びてやがる。相変わらず整った顔してるなうらやましい。
俺が二十代になってるんだから、こいつも同じだけ大人になったってことか。

………えーと…日本での友人だったはずなんだけ、ど。
ここがハンター世界ってわけじゃないよな?こいつも異世界に飛んだとかじゃないよな?
ってことはまさか。

俺、日本に帰ってこれたの!?






混乱しながらも久しぶりと声をかけると、友人はそうだなと頷いて近づいてきた。
隣に適度な距離をあけて座った友人に俺はとりあえず現在地を尋ねる。
不思議そうな顔をしながらも、ここが香港だということを教えてくれた。
…香港……ってことはやっぱり、中国なのかここ。

「考古学の研究で中国に来たのか?」
「………いや。…そういえばお前、教職は」
「取った。教師もやったけど、現在は家族旅行中だ」
「家族旅行……ってことは、妹さんたちも来てるのか」
「まあな」

友人には三人の妹さんがいて、皆可愛くて良い子たちだ。
きっと大きくなってるんだろうなー。

いっつもこいつの女癖の悪さとか、怪我をどこかで作ってくるところとか。
そういうのを心配して叱っていた妹さんたち。
…そういえば、と友人の顔をしげしげと観察して変化に気づいた。
なんか、前と違ってちょっとすっきりした顔してる。痩せた、とかじゃなくて。
どこか気だるげっていうか、疲れたような諦めたような顔をしてたのに。
いまはそんなことはなくて。さっぱりとしてるっていうか。

「…変わったな」
「何が」
「お前」
「そうか?相変わらず、あいつらには怒られてばっかりだ」
「心配してもらえてるなら、良いじゃないか」
「そうでもない。そろそろ、俺からも卒業してく頃だよあいつらも」

ちょっとだけ寂しそうな表情で肩をすくめる友人。
両親がいないという彼らは、兄妹で身を寄せ合って生活していた。
こいつが父親代わりのようになって、家族を支え守っていたことを俺は知ってる。
まだ高校生という、俺たちも未成年の頃から。ずっとそうやって生きてきた。
色々と問題は多いヤツだけど、そこは素直にすごいと思ってる。

「じゃあ、今度はお前のために時間を使えるわけだ」
「いきなり好きにしろ、って言われてもどうしていいかわからないけどな」
「…十分好きにしてきただろ」
「そこはそれ。…これから世話になってるホテルに行くが、お前も来るか?」
「え?」
「あいつらも顔見たら喜ぶだろうし。…あ、騒動に巻き込まれる可能性もあるから、そこは自己判断でよろしく」

え、何その怖い台詞。

「…騒動?」
「最近、この辺り物騒だからな」

そうにやりと笑う友人は、やっぱり俺の知る姿よりも明るい。
きっと良い出会いや経験があって、変わってきたんだろうな。
俺も、あいつから見て、少しでも良い感じに成長できてるといいんだけど。





まさかの帰還と再会。

[2012年 4月 11日]