第17話

気がつけば、天空闘技場に来て軽く一年が経過しておりました。
………おかしいな、まさか200階にこのままいることになるとは思わなかったぞ。
いま現在の俺の成績は3勝1敗。ちなみに負けた一回は不戦敗。
キルアが熱出しちゃってさ、看病したかったから試合は休んだんだ。
だってあんな苦しげなキルア見てたらほっとけない!すごい寂しそうだったし。

すっかり元気になったキルアは、今日も試合にのぞんでいる。
怪我をすることは減ったけど、たまーに思い出したように負傷してくるのが心臓に悪い。

俺は今日も今日とて、念の修行。
とりあえず基本中の基本である「点」をいま重点的に行っている。
心をひとつに集中し、自己を見つめ目標を定める。
こうすることによってオーラ量を増やすことができるのだそうだ。

「…電話?」

聴こえてきた電子音に首を傾げる。シャルだろうか、この間も電話きたし。
けどディスプレイを見ても番号が表示されるのみ。あれ、誰だろう。

「もしもし?」
『イルミだけど』
「………」
の電話だよね、これ。聴こえてる?』

ええええええ、なんでイルミが俺の番号知ってんのおおおぉぉぉ!?

『ねえ、返事しないと殺すよ』
「あ、合ってる、合ってます!」
『キルが世話になってるね。実はそのお礼に仕事を紹介してあげようと思って』
「………仕事…?」
『うん、うちの仕事で』

ブツッ ツー ツー

はっ、思わず切ってしまった。
いやだってゾルディック家の仕事って、暗殺だろ!?
そんなん俺が受けられるわけないじゃん!無理無理、殺しなんて無理っ。

って、またかかってきたー!?

「………もしもし」
『何で切るの』
「…俺は殺しはやらないぞ」
『ああ、それはいいよ別に。俺の仕事だし』
「…?じゃあ…」
『運び屋みたいなもの。殺しと一緒にそういう仕事まで頼まれて面倒なんだよね』
「はあ…」
『仕事ないんでしょ?どう』

俺に運べるようなものなんだろうな、それ。
でもここで断ったら殺されそうな気もするし、俺は泣く泣く了承するしかなかった。









「は!?どっかいくのかよ?」
「…仕事。次の試合まで二ヶ月は猶予があるから、平気だろ」
「それまでかえってこないつもり?」
「さあ、仕事の状況によるかな。あ、部屋はキルアが好きに使ってていいから」

頬に絆創膏を貼ったキルアの頭を撫でると、拗ねたような視線が見上げてくる。
そんなかわいい目で見るなよ、お兄さん仕事に行けなくなるだろー。
俺だって行きたくないんだ。イルミの仕事の手伝いなんて、そんな死亡フラグ。
でも断ったらそれはそれで死亡フラグだ。………俺の道には死亡という旗しかないのか。

「いってくる」
「はやくかえってこいよなー」

うん、俺も早く帰ってきたい…!

手をぶんぶん振ってくれるキルアに俺も振り返し、イルミに指定された場所へ向かう。
本当にいったい何を運ばされるんだろう。………死体とかじゃないよな?

「や。久しぶり」
「………どうも」

飛行船に乗るらしく、搭乗口で待っていたイルミに俺は小さく頭を下げた。
相変わらずの無表情さで、俺はびくびくしてしまう。うう、怖いよう。
仕事って?と恐る恐る尋ねると、小さな小箱を渡される。
そしてこの飛行船に乗って、とチケットも手渡された。って、あれ?

「…イルミは?」
「俺は自家用機で行くから。は現地に着いたら、その空港の落し物コーナーにこれ預けて」
「は」
「あとは向こうが勝手に手配してくれるから」
「…分かった」

よかった、そんなもんでいいのか。
中身は見ちゃだめだよ、と言われて頷く。だ、誰が見るかこんなもん!
絶対あれだよ、一般人が見ちゃいけないものとか入ってるに決まってる。
うう、俺こういう裏社会に関係した仕事は関わりたくないのに。でも殺されたくないし。

とりあえず、渡されたチケットを手に飛行船に乗り込む。
こうして俺は、運び屋としての第一歩を踏むことになるのだった。




主人公に余裕が出てきたので、お仕事させてみたり。

[2011年 4月 1日]